街区の脅威
アーマメントコロニー上部の街区。
直径一キロの船体上部に築かれた、難民たちの住居の一角。
高層ビルの立ち並んでいた町並みは、戦いで血に染まっていた。
アーマードナイトとサイクロプスの残骸が武器を押しつぶし、直前までの戦いによって一部区画のビルは崩れ去っている。
死屍累々とした戦場跡の中央で、一機のタイタンバスターが周囲を見渡していた。
「……やれやれ、崩壊戦時の化石共が」
ケンタウロスに羽を生やしたような見た目のタイタンバスターは、生き残った部下を見下ろす。
『セルゲイ閣下、生存者は我々だけのようです』
『ですが、サイクロプスの殲滅は完了しました』
「フン、この程度の相手で、使えない駒だ……まぁいい、替えなんぞいくらでも利く」
頭を垂れる四機のアーマードナイトの報告を受けると、セルゲイはランスの血を掃った。
そして、機体の向きを中央のタワーへ向ける。
「コントロールセンターを掌握する、お前達も早く来る事だ」
『御意!』
四本の足を駆使し、セルゲイは生き残った部下達に先んじて移動を開始しようとする。
その時、重々しい足音が響き渡った。
「ん?」
警戒の為に盾を構えると、まだ無事なビルに巨大な手がかかる。
握力で窓が割れ、表面のコンクリートが崩れ落ちた。
そして、ゆっくりと巨大な影が出現する。
「……やれやれ、まだ生き残っていたか」
補装された道路を砕きながら現れたのは、他より一回り大きなサイクロプス。
鎧のデザインも異なり、武器も大型剣二本を背負っている。
セルゲイの駆るタイタンバスターと目を合わせるなり、彼は二本の剣を手に持つ。
『ギュルオオオ!!』
「(いや、今までの奴と何かが違う)」
明らかに他と異なる雰囲気を醸し出しながら、ノイズがかった雄叫びを響かせた。
そして、両サイドに居る部下二人へ目配りする。
「……行け」
『え』
「命令だ」
『……ぎょ、御意』
冷たい目を落とされた二人の内、一人は震えながら突撃する。
『う、ウワアアア!!』
だが、投げ槍な攻撃を行う部下の機体はすぐに両断された。
残骸だけが虚しく転がり、もう一人の部下は後ずさりする。
『あ、あわわ』
「使えんな……そこ」
『ヒ!?』
「私の役に立てる事、光栄に思え」
『ガ!!』
もう一人の部下を盾で殴り飛ばし、サイクロプスへと放った。
中間辺りに部下が到達すると、セルゲイはランスに魔力を集中。
仕込まれたギミックが展開され、先端部分が発光する。
「排除する!」
背部のユニットより光の翼が放出され、発生した推力に押される。
下半身の四本の足で地面を蹴り、一気に距離を詰めた。
「フ!!」
『グア!』
ランスは部下を貫き、その奥のサイクロプスへと到達する。
『グォ!』
「チ!」
地面を削り取る一撃は防ぎ止められ、ランスもいなされた。
瞬時に次の攻撃を行い、盾でも殴り掛かる。
「コイツ」
他の個体とは全く異なる二刀流の剣舞に、セルゲイの連撃は対応された。
それどころか、セルゲイの機体の数か所に切創を着けられた。
「いい気になるな!所詮貴様はこの機体に殺される定め!」
二本の前足で蹴りを入れ、距離を確保する。
そして、ウィングユニットを前方へと向けた。
「化石は土へと還れ!」
『ゴゥ!!』
唸りながら剣を構えたサイクロプスへ、ウィングユニットからのビーム砲が放たれた。
後方の町を消し飛ばし、サイクロプスも光に飲み込まれる。
「……やれやれ、これで当初の仕事に」
『グォアアアア!』
「チ」
再びノイズのかかった雄叫びが響き渡ると、燃え盛る炎の中から姿を現す。
しかし、鎧は剥がれ落ち、身体中のボルトのような物が次々と落ちる。
足音と共に金属音を響かせながら生身をさらけ出すと、身体中が変化し始める。
『グー』
「……何が起きている?」
サイクロプスの身体は徐々に膨れ上がり、両腕に持っていた剣は両手に取り込まれた。
湯気の立つ体表も黒みがかり、体格も一回り大きく変異する。
「……そうか、それが噂の」
『ギュルガアアアア!!』
「強化クローン風情が、鬱陶しい!」
叫び散らすサイクロプスへ、セルゲイは突進した。
ランスの狙いを心臓部分へと向け、全体重を乗せた刺突を放つ。
重々しい金属音が響き渡り、焼け焦げた地面が削り取られる。
「な、何だと」
だが、セルゲイは目を見開いた。
ランスの先端は砕け、肝心のサイクロプスにダメージは無い。
「お、おのれ!ただのでくの坊が!」
一度下がったセルゲイはランスを放棄、代わりの剣に手をかけた。
その瞬間、サイクロプスは既に間合いを詰めていた。
反射的に盾を構える。
「グ!?」
盾は貫かれ、左肩にまで到達した。
手と融合した剣は深々と突き刺さり、そのまま振り払われる。
「なにぃ!?」
左肩はゴッソリと千切り取られ、周囲にパーツが散らばる。
だが、セルゲイは持ち替えた短剣を突き出す。
「この化石めが!」
短剣とサイクロプスの剣が衝突しあい、互いに赤熱化した。
しかし、セルゲイの機体が持つ短剣は徐々に押し込まれる。
次第に短剣の刃が手に到達し、サイクロプスの剣が遅れて到達。
そのまま右腕を貫かれた。
「バカな!?」
バランスを崩しながらも、セルゲイはもう一度ウィングユニットを展開。
砲身をサイクロプスへ向けるも、一手遅れてしまう。
「こんな事……ゆ、許される筈無い!」
瞬時に繰り出されたサイクロプスの剣に、ウィングユニットは切断された。
続けて前足も切り落とされ、膝をつく事となる。
前に立つサイクロプスは、見下すように視線を落としてくる。
「旧時代の腐肉如きに!」
全てのモニターは暗転し、全てを砕きながら鉄塊が迫る。
サイクロプスの剣にコックピットを貫かれ、上半身だけが吹き飛ばされた。
その様子を見ていた残りの部下は、ゆっくりと下がる。
『か、閣下がやられたぞ!』
『く、クソ、引くぞ!』
『ああ!』
セルゲイの死を前に、生き残っていた部下二名は逃走を開始。
武器も捨て、少しでも早く逃げられるようにした。
だが、一方が背後からの攻撃に貫かれる。
『ガ!』
『う、ウワアア!!』
貫かれた味方を前に、もう一方の機体は尻餅をついた。
上半身と下半身を千切られる味方を目にしながら、生き残った味方は必死に下がる。
立ち上がる事さえ忘れながら下がると、手にマシンガンが当たる。
『ッ!し、死ねぇぇ!!』
闇雲にマシンガンを乱射するも、銃弾は体表に弾かれる。
ゆっくりと近づいて来るサイクロプスは、銃弾を全く気に留めない。
『あ、ああ』
やがて銃の弾は無くなり、引き金を引く乾いた音だけが鳴る。
その時には、サイクロプスが剣を構えていた。
『ウワアアア!!』
その断末魔を最後に、最後の機体は貫かれた。




