変化の痛み
「(折角の非番だが、今日はアーシャと一緒)」
ケフュレスと話した事を実行するべく、サーバルはアーシャに予定を合わせてもらった。
その結果、彼女達はチープな銃器や弾薬、そしてメイジギアの並ぶ通りに訪れていた。
そして、サーバルは前を歩くアーシャの右隣へ視線を落とす。
「(けど……何でフィリアまで)」
「ここ、本当に武器ばかりですね」
「その名の通り傭兵の町だ、基本はこう言うのばかりだ」
同行してきたフィリアは、アーシャと共に露店に並べられている武器に目を通している。
予定とは大きく異なる状況に、サーバルは頭の耳を力無く垂らした。
だが首を横に振ったサーバルは、もう一度二人へ目を向ける。
「……なんか、破損や修復の痕が見られます」
「拾い物を直して売り払う、ジャンク屋って奴だ」
目の前にある装備を見る二人を視界に収め、会話を耳に焼き付ける。
そんな二人へ、サーバルは踏み込む。
「……まぁ、業者によって、良し悪しが大きいけどな」
「ああ、一番良いのは……アイツのとこだな」
「……アイツ?」
急に顔に影を落とすアーシャを見て、フィリアは首を傾げた。
アーシャの落ち込み方を見て、サーバルは「あの女か」と思い出す。
「(アイツは……アーシャとベタベタしても、特に、痛みは無いな)」
「……あの、サーバルさん」
「な、何だ?」
「アイツ、とは?」
「……最大規模のジャンク屋のオーナーだが……必要無い時は、あまり口にするな」
フィリアの質問に答えつつ、サーバルは嫌悪感無く自分の口元に指を立てた。
そして、二人でアーシャの方を向く。
無言で明後日を見つめるアーシャは、ゆっくりと立ち上がる。
「行くぞ、ここに居るとアイツを思い出す」
「は、はい……何故あんなに」
「……下手したらケフュレス位厄介な奴だからな」
「何者なんですか?その、アイツって」
「……その内話す」
「わ、わかりました」
二人はゆっくりと歩き去るアーシャの後を追い、フィリアの手も引く。
特に抵抗も無く彼女の手を取り、彼女を追いかける。
「おいアーシャ、いい加減機嫌治せ」
「ッ、ああ、悪い……はぁ」
背中を小突かれたアーシャは、溜息を吐きながら謝って来た。
そして、アーシャとフィリアの手を繋がせる。
「ごめんな、アイツを思い出すとどうも」
「い、いえ、お気になさらず」
「全く」
並んで歩く二人を横目に、サーバルはアーシャの横に立つ。
「(……余計に解らないな、俺がコイツらに、何を想っているのか)」
「それで?急に買い物行こうって、どこ見るんだ?」
「あ、ああ、服はこの前見たから、アクセサリーとか、どうだ?」
「あ?ここじゃ、ガラクタ程度が関の山だぞ?」
「……とりあえず、見に行きたいんだ……フィリアの首輪の鍵なんかも、見つかるかもだぜ?」
「……」
二人はフィリアの首のチョーカーへと目を向けた。
ケフュレスでさえ開錠できず、そして制作する材料もない。
アーシャは目の色を変えた。
「……フィリア、鍵さえあれば、あの子を自由に」
「……」
フィリアはもちろん、周りにすら聞こえない程度の声でアーシャは呟いた。
だがサーバルの耳にだけ、アーシャの声は届いた。
「(以前は引き離す為だったってのに)」
手を握り締めるアーシャを前に、サーバルは胸に痛みを覚えた。
以前と違うアーシャの姿は、何故だか嫌悪を感じる。
「……自由にして、どうするんだ?」
「ッ!?や、やっぱ、聞こえたか?」
顔を赤くしたアーシャを前に、サーバルは耳をピクピク動かしながら頷いた。
そして、首を傾げるフィリアをチラ見すると、少し連れて行かれる。
「あの子の人生を歩ませてやりたいんだよ、鎖に繋がれた人生じゃなくて」
「何でだ?別に今の関係でも」
「……か、確証が欲しいんだ、あんな首輪なんかじゃなくて、あの子の意思で、私の隣に居るっていう」
「……そうか」
少し見違えた。
フィリアと会って間もない時までのアーシャとは、まるで別人に見えた。
匂いも音も以前までと異なり、痛みが走る。
「……あの、マスター?」
「おっと」
フィリアに服を引っ張られたアーシャは、すぐに彼女の方を向く。
すると、そこには黒いオーラを纏うフィリアが居た。
「そ、そろそろ、向かってもよろしいかと」
「あ、ああ、行くぞ」
「お、おう」
少し目つきを悪くしたフィリアに反応したアーシャはすぐ彼女の元へ戻り、アクセサリーショップへ向かう。
その道中で、フィリアは自分の身体を押し付けるようにアーシャの腕を掴む。
そんな二人の背中を、サーバルは見つめる。
「(嫉妬するフィリアでも、笑いかけるアーシャでも、俺の心は痛まない……俺はあいつに何を求めている?)」
胸を抑えたサーバルは、すぐに彼女達の後を追いかけた。
実際の距離はたいした物ではないというのに、酷く遠く感じる。
その錯覚を捉えながら呼吸すると、とても痛んでしまう。




