子猫の憂鬱
アーシャ達が孤児院から帰って来た後、サーバルは引っかかりを覚えていた。
そのモヤモヤを振り払うように、射撃場に脚を踏み入れる。
「(……アイツ等、余計に距離縮まったか?)」
いつもより目を鋭くしたサーバルは、拳銃に弾倉を叩きこむ力が自然と強くなる。
「……クソ」
言い知れぬ孤独感ごと撃ち抜くべく、サーバルは震える指で引き金を引いた。
反動が、いつもより手に響く。
「はぁ」
ため息と共に、遠くの的を近づける。
「……」
結果は散々。
元々射撃は下手な方だが今日は特に酷く、思わず左頬を撫でる。
最近たるんでいると教官であるレイブンから軽いビンタを貰い、今も少しヒリヒリと痛い。
「(教官から修正受けても、まだ訓練に身が入らないな)」
またもや軽いため息をついたサーバルは、獣人用のヘッドフォンを外し、使った物を片付ける。
空薬莢の数を照らし合わせたレポートも提出し、射撃場を後にする。
「(何なんだよ、これ)」
瓶のミルクを購入し、ベンチに腰を下ろした。
そして、天井の一点を見つめる。
「……兄貴」
兄のオセロットに頼ろうとしたが、最近アーシャと一緒に居る時が多い。
アーシャとはいがみ合っていたというのに、最近は彼女の修業に付き合っている。
構ってもらえていない事を思い出しながら、頭の耳をペタリと倒した。
「……ムー」
「どったの?」
「ヴェイ!?」
思わず変な声で驚き、サーバルの耳はピンッと逆立った。
落としかけた瓶もギリギリでキャッチし、話しかけて来た相手へ目を向ける。
「……な、なんだよ、ケフュレス」
「あはは、悩める少女の元にさっそうと現れるのが私だからね」
「ストーカーの間違いだろ」
相変わらず朗らかな笑みを浮かべながら目を閉じる彼女は、コーラの瓶片手に隣に座って来る。
「まぁ大方、アーシャちゃん関連だろうね」
「……」
何で解るんだよ、そう言いかけたサーバルは静かに頷いた。
「(最近アーシャの事見てばっかだったもんな)」
「アーシャちゃんとフィリアちゃん、最近ますます仲良しだもんねー」
「ホント、何でお前笑顔で居られるんだよ」
「あはは、前にも言ったけど、私はアーシャちゃんの幸せファーストだから」
「あっそ」
笑みを絶やさないケフュレスを横目に、サーバルはミルクを傾ける。
そして、アーシャの顔が浮かぶ。
「……はぁ、恋ってやつか?これ」
「そっかー……まぁそうだとして、あの子とチューできる?」
「……」
ケフュレスに言われ、サーバルは尻尾を落ち着きなく左右に揺らす。
天井を見つめ、言葉の意味を考える。
「……」
「ちょ、聞いといてあれだけど、そんな悩む?」
「……いや、やっぱ違うな、唇同士は無理だが、オデコとかなら、できるなーっと、あとハグも普通にできるな」
「……一応猫人間だもんね」
返って来た言葉に頷くサーバルは、自分の尻尾をもてあそぶ。
そのついでに、最近アーシャを見る目が変わってきた事にも気付く。
「……じゃあ何だろ」
「……ああ、何と言うか……何だ?その……自分の語彙力が憎い」
「あ、あはは……」
自分の感情を表現できず、ケフュレスも隣で笑い方を引きつらせる。
「けどそうだよな、俺なんて兄貴と比べたら、力も学もあれだし、アーシャと比べたらスタイルも……」
目からだんだん光りを失いながら、サーバルは自分の貧相な体に目を落とした。
同時に幼少の頃の記憶も過ぎらせ、ボロボロのオセロットの姿が浮かぶ。
「……サーバルちゃん?」
「まだ幼かった俺を、兄貴は必死に食わせてくれた、自分だってハラペコだった筈なのに」
「そっか、当時は追剥だったね、オセロット君」
「ああ、盗みをして、ボコられても大人相手に噛みついて、いつも傷だらけだった」
俯きながら涙を零すサーバルは、軽く頷いた。
そして、孤児院に預けられた時から今までの事を思い返しながら、サーバルはまた天井へ目を向ける。
「……なぁ、お前から見て、俺はどう映っていた?」
「……甘口評価と辛口どっちがいい?」
「……あま、いや、から……辛口だ」
「はいはーい」
コーラを少し飲んだケフュレスは、一呼吸置いた。
「そうだねー、コバンザメ?かな?」
「どんな例えだ」
「ようするに、他に引っ付いてばかり、かな?特に、人生の重要な選択をする時」
「……」
ケフュレスの発言に、サーバルは一度深呼吸する。
記憶を整理し、軽く目を閉じる。
「そう、かも、な……」
「……そう、で?どうする?」
「一度、アーシャとまた話をしてみる、そんで、俺がアイツをどう思ってんのかハッキリさせてやる」
そして、二人は持っていた互いの瓶を軽く当て合った。




