衝突
震えながらオセロットと対峙するアーシャ、彼女の死角をフィリアはゆっくり歩く。
「……はぁ」
睨むようにアーシャを見たフィリアは、ため息を零す。
そして、アーシャの膝へとローキックを炸裂させる。
「フンッ!」
「ギッ!」
アーマーを展開したままのフィリアの足は、ただの長ズボンのアーシャの脛に直撃。
骨に電流でも流れたような痛みが、アーシャの足を通る。
激痛で涙目になり、蹴られた個所を抑えながら暴れる。
「イダダダ!何しやがる!?フィリア!!」
「……」
完全に冷え切った目を向けて来るフィリアは、構えを解除したオセロットを横目にアーマーを解除。
ふくれっ面を浮かべながら、しゃがみ込んだ。
「それはこっちのセリフですよ!人の気持ちも知らないで!!」
「……気持ちって」
珍しく顔を赤くしながら怒鳴って来たフィリアは、胸倉まで掴んで来た。
「何で置いて行こうなんて考えたんですか!?何でなにも言ってくれなかったんですか!?」
「し、仕方無いだろ!フィリア、お前はまだ子供、ここに居た方が、お前にとって幸せな事だろ!」
「勝手に決めないでください!こっちがどんな思いで居たのかも知らずに!」
滅多に出す事のない大声に驚きながらも、アーシャは顔に青筋を浮かべた。
「どうしたんだよ、そんな急に!」
「ワガママも言う事にしたんです!シュカのように、必要な時に自分を出せるように!!」
「ッ」
シュカの名が出た瞬間、アーシャの胸に痛みが走った。
胸を抑えて俯くと、震えた声を出す。
「……やっぱり」
「ん?」
「やっぱり、ソイツの方が良いんだろ?」
「え」
右腕をさするアーシャは、表情を曇らせながら孤児院の方を向く。
フィリアと仲違いをした記憶が過ぎり、更にシュカの姿までも浮かび上がる。
「ソイツがいいから、私から距離を置いていたんだろ?」
「……」
シュカと居る時のフィリアの表情は、いつもアーシャと居る時よりも明るく見えた。
当時の彼女を思い浮かべるだけで、胸が張り裂けそうになる。
呼吸も徐々に荒くしていると、フィリアの両手に顔が包まれる。
「……マスター」
「……」
小さな手で顔を包まれるアーシャは、フィリアの事を見上げた。
「デイ!」
「ギャ!」
すると、フィリアの頭突きがアーシャに直撃。
今度はアーマー無しの一撃だったので、フィリアも軽く涙を浮かべる。
「か、勝手に決めないでください!彼女と私は友達!それ以上でもそれ以下でもありません!」
「でも、私と居る時より楽しそうだったぞ!」
「そりゃそうですよ!彼女から自分を得る事を教わったんですから!!」
「じゃぁ、何で私に聞かなかった!?聞いてくれればいくらでも」
「そんな風に見えなかったんですよ!!」
お互いに大声で叫び合い、オセロットは完全に蚊帳の外。
彼の事を完全に忘れる二人は、構わず言い合いを続行する。
その末に、フィリアは涙を零す。
「それに私は!私、は……」
「ふぃ、フィリア」
初めて見るフィリアの涙に、アーシャは言葉を失った。
そして、フィリアは苦しそうに言葉を出す。
「貴女と、対等になりたい、お互いに、支え合える仲になりたいんです!互いに、守り合える関係になりたい」
「……」
号泣しながら告げられたフィリアの本音に、アーシャは完全に固まってしまう。
荒くなったフィリアの呼吸だけがアーシャの耳に入り、袖で涙を拭うフィリアだけが目に映る。
「フィリア」
ようやく動いたアーシャは、そっとフィリアの頬を撫でた。
だが、それでもアーシャは首を横に振る。
「……マスター」
「それでも、私は」
身体は震え、声も掠れさせるアーシャは言葉を続ける。
「フィリアを連れて、行けない」
「……分からずや」
「……どう思ってもらっても構わない」
アーシャのそんな言葉に、フィリアは大きく息を吸った。
そして、何かを言おうと口を開けた時。
「見苦しいぞ!」
「ッ」
「ッ」
ずっと黙っていたオセロットが遮り、二人は彼の方へ目を向けた。
彼は刀を改めて構え、今度は魔力を集中させ始める。
「そんなお前達に戦場に出る資格はない……子供斬るのは、不本意この上ないが」
オセロットの身体の周囲に流水が発生し、刀も水で覆われ始めた。
そして、彼は真剣な眼差しで睨んで来る。
「今度は正真正銘の惨刺水明、手加減無しだ」
力を解放したオセロットから、魔力が雨のように打ち付けられる。
全身の表皮が痺れるような感覚に陥り、二人は息を飲む。
「……チ」
「……」
完全に戦闘体勢をとったオセロットに対し、二人は立ち上がった。
フィリアはアーマーを展開し、アーシャは斧を構える。
「マスター、提案が」
「な、何だよ」
フィリアの口から出て来た提案には、アーシャはすぐに首を横に振った。
だがフィリアは譲らず、その間にオセロットは技の準備を完了させる。
「余裕だな!」
その叫びと共に、オセロットは激流のように突進。
周辺の水はドリルのように回転して地面をえぐり、攻撃の範囲は遥かに大きい。
比較にならない速度で二人を飲み込もうと迫る彼へ、フィリアは前へ出る。
「えい!」
「ヌ!?」
フィリアはオセロットの腕にしがみ付き、突進の軌道をずらす。
おかげでアーシャには命中せず、バランスを崩すオセロットへドロップキックを放つ。
「この!」
「グ」
フィリアの足はオセロットの頬に命中するも、彼は足の動きに合わせて首を回す。
衝撃は流され、完全なダメージにはならない。
その筈だった。
「デイ!」
「ギュッ!!?」
しかし、アーシャの肘が逃げ場を失わせた。
二人の攻撃に挟まれたオセロットの顔はきしみ、初めてマトモに入ったダメージによろける。
「グ、う」
後ろへと下がるオセロットに容赦せず、アーシャとフィリアは彼の腹部に向けて打撃を入れる。
「これで!」
「どう!?」
「ッ」
回復したオセロットはすぐにフィリアの腕を掴み、投げ飛ばした。
「うわ!」
「この!」
投げ飛ばされたフィリアに代わって、アーシャだけが打撃を繰り出す。
しかしその打撃は受け止められ、アーシャの姿勢が崩れるように投げ飛ばされる。
「チ!」
「……」
すぐにフィリアと共に構え直し、黙るオセロットを睨む。
そして、オセロットの逆立っていた頭の猫耳は、力無く折れる。
「止めだ」
「や、止めだと?」
そう言いながらオセロットはコートをはおり、刀も納めた。
本当に帰って行きながら、最後に呟く。
「これ以上は無駄だ……見たい物は、見れた」
「……」
「……」
その言葉を最後に、オセロットは孤児院の門を潜って行く。
途中で二人に聞こえない程度の声で、口元を動かす。
「……やっと、踏み出せたか」
彼の姿を見送ったフィリアは、少し湿った校庭に尻餅をついた。
「何が、見たかったんでしょう」
「……アイツは、昔からよくわからないんだよ」
隣に座ったアーシャは、ゆっくりとフィリアの方を向いた。
そして、自分の手をフィリアの手の上に置く。
「フィリア」
「は、はい」
「その……いや、なんでもない」
「……」
また頬を膨らませたフィリアから、アーシャは目を逸らした。
それでも、二人は絡めている手の力を強めた。




