夢の中の戦い
抱き合うアーシャとフィリア、その後ろでマックスの姿をしたインキュバスは立ち上がる。
周囲を見れば、歪な形の家が割れだす。
天井は崩れ、壁が剥がれ落ちる。
折角形成した夢が、音を立てて崩れ落ちている。
「……ふざけるな」
くぐもり、男か女かもわからない声が響く。
その声に反応したアーシャは、フィリアと共に立ち上がる。
「……こっちのセリフだ、よくもまぁ、変な夢、見させてくれたな」
「黙れ!よくも俺の食事を、台無しにしてくれたな!!」
「ッ!!」
「な!」
インキュバスの怒りの咆哮は、衝撃波として二人に襲い掛かった。
アーシャの家は崩壊し、外の麦畑さえ消し飛んだ。
全方位闇で構成された空間へと放り込まれ、腐臭のような臭いに二人は顔を歪めた。
「……なんだ?ここは」
「マスター!あれを!」
「ッ!」
目の前には、マックスを模ったままのインキュバス。
造形はどんどん人からかけ離れ、体格もアーシャ達より遥かに大きくなる。
複数の細い目が赤く光り、死体のように青白い肌が闇ばかりの空間で妖しく輝く。
鋭い爪を持った巨大な拳が握り締めると、一瞬にして接近され、振り下ろされる。
「シネ!」
「ドワ!」
「キャ!」
アーシャはフィリアと共に、鉄球のような拳を回避した。
インキュバスの拳は、有るのか解らない床を破壊。
同時に衝撃波のような物がインキュバスの周囲に、まき散らされた。
「グ!」
フィリアを連れて飛び上がり、衝撃波から逃れた。
「はぁ、はぁ……」
「ま、マスター?」
「ち、力が、思うように……う」
何とか着地するが、子供の姿のままのアーシャは肩で息をする。
披露でバランスを崩すと、アーマーを展開したフィリアに支えられた。
「マスター!?」
「なんだ、これ」
「フン!」
インキュバスの腕が伸び、二人の居る場所へ鞭のように繰り出された。
「チ!」
次はフィリアがアーシャを連れて逃れる。
続けて、インキュバスの身体より大量の触手が発生。
鞭や槍のように襲い掛かって来る触手を、フィリアはビーム刃で斬り裂く。
「イメージです!アイツに勝つイメージを!想像するんです!」
「い、イメージ?」
「そうです、グ!」
触手の一つが、フィリアの片腕に被弾。
ナイフが手放され、アーマーからスパークが走る。
「クソ」
「オラ!」
「ガハッ!」
「フィリア!!」
いつの間にか背後に回り込んでいたインキュバスの一撃が、背中に直撃した。
背部のアーマーが剝がれ、破片と共に落下する。
「はぁ、はぁ……さすが、インキュバス、夢の中では、アイツが有利か」
「言ってる場合か!大丈夫か!?」
「え、ええ」
「カスになるまで絞り取ってやる、お前達だけの夢の中で縛り付けてな」
「……私達だけの夢?」
フィリアを介抱している時に、耳に入った言葉。
反応したアーシャに食いついたインキュバスは、歩みを止めた。
「ああ、今度は二人きりの夢だ、お前達は幸せとなり、俺は二人分の生気を奪い取る。万々歳だ」
「……そうか……それも良いな」
「ま、マスター!?」
「フン、観念したか、利口だ」
「ああ、その夢、叶えるのも悪くない」
フィリアの頭を軽く撫でたアーシャは、鋭い目でインキュバスを睨んだ。
「テメェを殺した後でな!!」
「ッ!?」
飛び出したアーシャは、インキュバスの顔を殴り飛ばした。
吹き飛ぶインキュバスを目にするアーシャの体より、煙が立ち上る。
「……ここで戦うコツ、だいぶ解って来た」
子供だったアーシャの体は、徐々に元の形を取り戻す。
黒いインナースーツを身にまとった大人の身体に、愛用している手斧。
いつもの姿を取り戻し、インキュバスを睨む。
「クソ、恩知らずが」
「さて、フィリアを傷めつけた礼、たっぷりしてやる」
背後から怒りのオーラを放出するアーシャは、指をバキバキ鳴らす。
「だ、だが、その程度で、ここで俺に勝つことは」
「ここでは勝つイメージ持てばいいんだろ?要は、テメェぶちのめす事だけ考えてりゃいい」
アーシャの体は、徐々に巨大化。
スカイエデンの時のように、タイタンとしての本領を発揮する。
その姿に、インキュバスは冷や汗をかきながら見上げだす。
「お、お前、それ」
「あ?夢なんだから何でも有りだろ?」
巨大な拳を振り上げ、小さなインキュバスへ狙いを定める。
「どうした?勝ちのイメージ一つ持てないか!?」
その言葉と共に、アーシャは拳を振り下ろす。
インキュバスの触手や拳に途中で阻んで来るが、アーシャの質量の前には無力。
巨大な拳によって潰された。
「まだ終わんねぇぞ」
その巨大な拳で、アーシャは何度もインキュバスを潰す。
巨大な拳の連打は、夢その物を揺らしている。
そしてその中心にいるインキュバスを掴み、空高く投げつける。
「完全に消えて無くなれ!クソがアアア!!」
手の平に巨大な魔力の塊を形成し、インキュバスへと撃ち込んだ。
上空で爆発を引き起こし、闇で形成された空間は蜘蛛の巣状にひび割れる。
「うわー、文字通り夢の中の俺つえー」
元に戻ったアーシャは、フィリアの元へ戻る。
「……フィリア、良かった」
「……ええ、貴女も、無事でなによりです」
小さなフィリアを包むように抱きしめたアーシャは、その温かさを感じ取る。
確かな鼓動の振動と、呼吸の音、そしてフィリアの匂い。
全て本物のフィリアだと、物語っている。
「フィリア」
涙を一滴零した瞬間、ひび割れは更に広がった。
「……ん?」
「なんか、マズい?」
「み、みだいだな」
次の瞬間、空間はガラス細工のように砕け散った。
「ッ、な、ドワ!?」
「マスター!」
砕け散った事で、アーシャはフィリアと共に落下。
守る様に、力強くフィリアを抱きしめる。
「フィリア!しっかり掴まってろ!」
「は、はい!!」
流れに身を任せていると、ピンク色の光に二人は飲まれた。




