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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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目覚め

 吹き飛ばされたインキュバスは、アーシャの夢から逃れていた。


「しくじった!」


 追跡が無い事を見るなり、笑みを浮かべた。

 似たような能力を持っていなければ、もう追跡は不可能な領域まで来る。


「へ、まぁいい、この勢いで、別の奴に寄生して」

『そんな事許す訳ないでしょ?』

「ッ!?」


 次の瞬間、インキュバスの周囲はピンク色に染まった。

 アーシャの夢から出ると、褐色肌の女性の顔が目の前に広がる。

 彼女に、インキュバスの顔は凍りつく。


「お、お前は」

「あら?不思議な事な訳無いじゃない、誰があの青髪の子を派遣したと思ってるの?」

「……グ、き、貴様!」


 インキュバスの前に居たのは、ずっと網を張っていたフェルメーラ。

 その網に引っかかり、身動きが取れなくなっている。

 この状況に、インキュバスは顔を余計青白くしてしまう。


「さぁて」

「グ!ちょ、やめろ!!」

「ばぁか、こうなったインキュバスの末路は、二つに一つよ」


 ピンク色の網を保持するフェルメーラは、口を開ける。

 その口内を見たインキュバスの身体は震え、歯と歯の間がガチガチと音を立てる。


「た、頼む!やめろ、止めてくれぇぇぇ!!」


 その悲鳴は断末魔となり、フェルメーラの口内で咀嚼される。

 口いっぱいに広がる味に、彼女の顔はほころぶ。


「ん~、美味しぃー!」


 寄生して生気を奪ったインキュバスと言う、サキュバスにとっての一番のご馳走。

 しかし、ほころんだ顔を戻す。


「(だ、ダメダメ、飲み込んだら、アーシャが……)」


 飲み込みたい気持ちを必死に抑え込み、咀嚼に専念する。

 インキュバスが、口内で本当に死ぬまで。


「(飲み込んじゃダメ、飲み込んじゃ)」


 必死に飲み来ないように気を付けていると、アーシャとフィリアは目を覚ます。


「フィリア!」

「マスター!あだ!」


 二人同時に起き上がるも、フィリアはパイプ椅子のベッドから転がり落ちた。

 繋がっていたアーシャの腕も、引っ張られた。


「だ、大丈夫、か?」

「あたた……はい、何とか」


 痛むお尻をさすりながら立ち上がったフィリアは、アーシャと目を合わせた。

 見た事無いような、穏やかで、清々しい表情。

 思わず頬を緩めた。


「……また、助けられたな、フィリア」

「ええ」


 胸に手を置いたアーシャは、ベッドに転がった。

 好色に染まる耳と頬を隠すように、寝返りをうつ。


「……ありがとうな」

「……いえ」


 笑みを浮かべながら、アーシャはまた顔を向けて来る。


「……なぁ、フィリア」

「は、はい」

「……その、い、いまま」


 アーシャは、顔を真っ赤に染めながら口を開く。

 息を飲むフィリアだったが、横からフェルメーラが押し入る。


「ムン!」

「ンゴ!?」

「フェルメーラさん!?」


 アーシャの鼻を摘まんだフェルメーラは、口移しを開始。

 口内で咀嚼して殺したインキュバスを注入する。

 しかし、アーシャの顔色は真っ青になっていく。


「んんん!ん!んー!!」

「ま、マスター……」


 どんどん顔色が悪くなるアーシャも抵抗するが、フェルメーラは全く動かない。

 両手で口を覆うフィリアは、咄嗟に顔を横に向けた。

 そして一分後、フェルメーラの口はアーシャの口から離れる。

 だが、アーシャはグッタリとベッドの上で痙攣する。


「ふぅ……何とか助かったわね」

「いや!どこがですか!?トドメ刺したようにしか見えないんですけど!!」


 寝込むアーシャに近づき、両肩を叩く。


「マスター!マスター!?」


 白目を向くアーシャは、一向に目を覚まさない。

 慌てるフィリアの肩に、フェルメーラの手が乗る。


「大丈夫よ、こうしないと、むしろ危なかったんだから」

「……」


 前例を考えて、フィリアは黙って彼女の方を向く。

 地味に残念な顔をするフェルメーラは、溜息交じりに話す。


「はぁ……インキュバスは生気と力を吸いとるのよ、今のアーシャは、もう既に大半の力を吸われてたのよ」

「……そう言えば」


 フェルメーラの解説で、フィリアの脳裏に先ほどのアーシャのやり取りを思い出す。

 本来力が弱いサキュバスが、アーシャの力で振りほどけなかった。


「そ、そんなに弱ってたんですか?」

「ええ、だからアイツごと力を戻したのよ」

「だ、大丈夫なんですかそれ!?」

「ちゃんと噛んだから死んでるわよ」

「……」


 口元をピクつかせるフィリアは、不安しか無かった。

 だが、フェルメーラはその場から立ち去る。


「じゃ、しばらく寝てれば、すぐ目を覚ますから、私はこれで」

「あ……」


 医務室から立ち去ったフェルメーラの背中を見ながら、フィリアは目を細めた。

 大きいため息を吐き、アーシャの頭を撫でる。


「……でも、プロが言うのなら」


 フィリアはアーシャの手を掴み、自らの頬へ置く。

 温かな手の温もりと、ほんのり血の香りが伝わる。


「また、お話しましょうね」


 その言葉に応じるように、アーシャの指先が僅かに動いた。


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