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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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夢の中の再会

 混沌とした暗闇の中、フィリアは地を這っていた。


「マス、ター……マスター!」


 戦いへの恐怖は、未だぬぐえない。

 だが、アーシャを助ける。

 その意識とイメージだけは、決して揺るがなかった。


「絶対、助ける!!」


 短い期間だが、ずっと見て来た。

 トラウマに苛まれ、劣等感に押しつぶされ、目の前で友を失った。

 そんな彼女の終わりが、こんなふざけた悪夢。

 ――認められる筈ない。


「貴女は、こんな所で、終わっちゃ、いけない! 」


 涙を零したフィリアは、こことアーシャの居る空間を隔てる壁に顔をぶつける。


「だって……」


 続きは出て来ない。

 ただ胸が苦しく、名前も何も解らない感情に喉が塞がれる。


「貴女がいないと、私は……」


 歯を食いしばり、開くまで何度も壁に頭をぶつけた。

 頭から大量に流血しようが、痛みを飲み込む。


「マスター!マスター!聞こえていたら、返事してください!マスター!私です!!フィリアです!!マスター!!」


 連続して頭を叩きつけていると、わずかにヒビが入る。

 そのヒビ割れを前に、フィリアは笑みを浮かべる。


「へ……マスター!私です、フィリアです!マスター!!」


 ――――――


 アーシャの居る空間。

 その隅に置いてあるクローゼットが、何度も叩かれだす。


「……フィ、リア……」

「そんな奴、居ないって」

「……違う、絶対、いる」


 か細い声で反論していると、インキュバスの声がささやかれる。


「その子を思い出すって事は、また怖い思いをする事だぞ?」


 マックスの声で、インキュバスの誘惑がささやかれた。


「ッ……」

「また奪われる、また失う」


 床に黒い染みが広がり、焼け焦げた臭いが漂う。

 自分の腕を焼いた、忌まわしい臭いにアーシャは顔をしかめた。


「……そんな辛い事ばかりだぞ?」


 アーシャは、ずっと言葉を失っていた。

 思い出される戦いの日々と、苦痛の瞬間。


「ここにいれば、ずっとそんな苦しみとは無縁だ」

「……それ、でも……私は」

「自分に嘘をつくな、素直になれ」


 その言葉に、アーシャはここでの日々を思い出す。

 苦痛も恐怖も無く、ただ楽しかった。


「……素直に」

「そうだ。お前は、ここに居るべきだ。全部、忘れよう」


 甘い言葉に、アーシャの心が揺れる。

 だが、甘いだけで、暖かくも冷たくもない。

 冷たい手の感触が、アーシャの頬を撫でる。

 心音も無ければ、呼吸さえない。

 触られている感覚が有るのに、誰も近くに居ない。


「ッ……どけ!」

「グ!」


 インキュバスを払いのけ、アーシャはクローゼットへ駆け出す。

 閉ざされた扉を小さな拳で殴り、大声で叫ぶ。


「フィリア!フィリア!」


 インキュバスを退けたせいか、次々とフィリアの記憶が蘇る。

 湧き出て来る記憶と共に、罪悪感と哀しみで胸が痛む。

 涙が零れ落ち、声もくぐもる。


「ゴメン!フィリア!やっと思い出した!ここを開けるから、ちゃんと謝らせて!お願い!」


 取っ手を掴み、開けようと思いっきり引っ張る。


「ダメだ!そこを開けたら、また苦しむぞ!」

「うるさい!そんなの知った事か、どんなに痛くても、苦しくても、そこに温かさが有れば、私はそれで構わない!」


 どんなに勢いをつけても、クローゼットは開かない。

 代わりに、後ろから重苦しい気配が背中に突き刺さる。

 気にせず、アーシャはクローゼットを引く。


「……ダメだ、お前はここに居ろ、皆死んだ、お前だけ生き残るのか?生きて、恥じをさらし続けるのか?」

「……」

「あの世でアイツ等は思ってるぞ、こんな風に」

「ッ!?」


 背後から感じていた重苦しい気配は、全身にまとわりつく。

 全身に油をかけられたような、重苦しい気配にアーシャは振りむいた。


「グ!?」


 振り向けば、広がるのは燃え尽きた家。

 目の前に立つのは、傷と共にススを全身に浴びた両親。

 二人の目は虚無を見つめ、アーシャを見下ろす。


「何でお前だけが生きてるんだよ、親不孝者」


 重なっているような、父親の声。

 耳に入るだけで、鳥肌が立つ程不快だった。


「ッ」

「アンタが死ねば良かったのよ、何で私達が死ななきゃいけないの?」


 父親とは別で、呪怨を込めたような鈍い声。


「……」


 二人から浴びせられる言葉に、アーシャは黙った。

 俯いていると、目の前に強化されたマックスが現れる。


「何で俺を守ってくれなかった?」

「マックス」


 壊れた機械の腕で首を掴み、鋭い目を向けて来る。

 ノイズのかかった声が、アーシャの脳を痺れさせた。


「俺は、お前の事、何度も助けたのに」

「……」


 次々投げかける言葉に、アーシャは目を鋭くした。

 まるで違う。

 マックスの言葉でも、目つきでもない。

 そして、マックスの顔を掴んだ。


「貴様が」

「な」


 大きい気を吸い、歯を食いしばる。


「勝手にセリフを作るなぁぁ!」


 硬く握られた拳を振り抜き、マックスを殴り飛ばした。

 皮膚や骨ではなく、粘土でも殴ったような感触だ。

 吹き飛ばされたマックスは両親を巻き込み、壁に衝突する。


「お前に私の両親の、マックスの何が解る!?」


 殴ったアーシャは、またフィリアの居るクローゼットを叩く。


「フィリア!フィリア!!」

『マスター!』

「フィリア!?」


 わずかに開いたクローゼットから、フィリアの声が聞こえた。

 間を除きこむと、フィリアの青い瞳と髪を見つける。


「フィリア!」

「マスター!」


 隙間に手を入れたアーシャは、フィリアの手を掴む。

 確かな熱を持つ、小さな手。

 ――暖かい。

 この世界には無かった温もりに、アーシャはフィリアと笑みを浮かべあった。


「ヌオオオ!!」


 そして、アーシャはフィリアを引っこ抜く。

 クローゼットも壊れ、二人は一緒に倒れ込む。


「ッ……フィリア、さっきは、ゴメン」

「……良いんですよ、こうして、また会えたんですから」


 涙を浮かべ合いながら、二人は抱き合う。

 両者の熱は、冷ややかな世界へ熱をもたらす。

 焼けた臭いも、歪んだ風景も、全て遠ざかった。

 二人の間に生まれた温かさだけが残る。


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