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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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優しい悪夢

 アーシャは、フィリアが閉じ込められたクローゼットを見つめていた。

 閉ざされている筈の扉から、僅かに音がした。

 暖かくて、懐かしい音。


「……違う、本当に暖かいのは、ここ」


 呟いた瞬間、胸の奥がざわついた。


「グ……皆、生きてるんだ」


 痛む頭を抑え、言い聞かせる。

 それでも、フィリアの言葉が頭の中で反復していた。

 思い出すだけで、腸が煮えくりかえって来る。


「うるさい、フィリア……」


 不意に出た名前に、アーシャは目を見開いた。

 同時に胃がひっくり返るような吐き気と、頭が削られるように痛む。


「……フィリア?誰?さっきの、子?」


 気付けば、アーシャの手はクローゼットへと伸びる。

 開けなければならない、直感的に確信していた。


「あと、少し……」


 取っ手に手がかかる直前で、後ろから誰かに抱かれる。


「アーシャ?そこは悪い子の部屋だよ」


 歪んだ鈍い声。


「ッ!」


 抱き着いて来たのは、アーシャの父親だった。

 だが、何か違う。

 父の腕は不快な生暖かさで、抱きしめる力も優しいよりも、軽い。

 鳥肌を立たせたアーシャは、ゆっくりと取っ手から手を離す。


「ごめんなさい、パパ」

「うん、いい子だ」


 頭を撫でられる。

 だが、温もりも無ければ、優しさも無く、単調だった。


「アーシャ、貴女はいい子でしょ?さっきの子も忘れなさい」


 母親の言葉も、どこか棒読みだった。


「……はい」


 両親の言葉に頷くも、アーシャの脳裏からフィリアは剥がれない。

 無意識に求めるように、アーシャの目はクローゼットへ吸いつけられる。

 同時に頭痛に襲われ、手が震えた。


「……いや、あんなの嘘だ」


 首を横に振り、目の前の事に目を向ける。

 今も生きていると両親へ、笑顔を浮かべた。


「(そうだ、パパもママも、こうして生きてる、アイツは悪い子だから、あんな事を言ったんだ)」

「さぁアーシャ、ご飯にしましょう?」

「今日もご馳走だぞ」

「……」


 だが、以前のように喜びが込み上げて来ない。

 ――匂いが違う。

 実家の匂いではなく、焼け焦げた臭いと、腐臭が漂っている。

 まるで、火事の現場に居るようだ。


「……あれ?マックス?」


 辺りを見てみると、マックスの姿がない。


「何で……居ないの?」

「……」


 父親は、すぐに答えなかった。

 数秒置いて、ようやく答える。


「大丈夫、すぐ来るよ」

「……うん」


 違和感に頭を押しつぶされそうになりながら、席に座った。


 ――――――


 クローゼットの中は、まるで別の空間だった。

 薄暗い部屋の中で、フィリアは貼り付けにされていた。


「……クソ」


 影に手足を掴まれ、不快な感触が肌に伝わった。

 鋭い目を浮かべながら、顔をゆっくり上げる。


「……今度はマックスさんかよ」


 視界に映ったのは、マックスの姿だった。

 彼女の姿をするインキュバスに、高圧的なフィリアは頬を殴られる。


「黙れ、イレギュラーが」

「ッ……」

「どうやって潜り込んだ?」

「言うと思うか?」

「……まぁいい、見当はついている」

「黙れ、マスターを解放しろ、寄生虫が」

「寄生虫だと!?」


 寄生虫という単語を聞きつけた瞬間。マックスの顔は崩れた。

 口が横へ広がり、歯も牙へと変わった。

 醜い顔に、フィリアは顔を逸らす。


「訂正しろ!今すぐに!!」


 頬を掴まれ、無理矢理顔を合わせられた。

 ノイズがかった声と共に、唾液が顔にあたる。

 腐臭のような臭いに顔をしかめる。


「ッ、随分と、反応しますね」

「黙れ!貴様を今すぐに、永遠の悪夢に落としてもいいんだぞ!」

「フン、やれるものならやってみろ、ここでは思った者勝ちなんだろ?」


 笑みを浮かべながら、フィリアはインキュバスを睨む。

 顔を変異させたインキュバスは、不敵に笑みを浮かべた。


「ククク、なら、何でお前はここから逃げられない?」

「ッ……そ、それは、貴様がここを支配しているから」

「フン、やはりな、お前のそれはただの虚勢、本当は怖くてしかたないのだろ?」


 図星を突かれ、フィリアは息を飲んだ。

 アーシャの両親を刺そうとした時に、フィリアは刺す事をためらった。

 感情抑制を失くした、初めての戦闘。

 殺せるイメージがぼやけた。


「……貴様を倒せなくても、マスターが夢を拒絶すれば」

「アイツはしないさ、癇癪を起こす位、現実を怖がってる」


 ――否定をできなかった。

 それでも、フィリアは上を見上げる。


「……マスター!一緒に帰りましょう!」

「まだわからんのか?人形を介してもわかるぞ、アイツは、両親との日々を望んでいる」

「グ……マスター!逃げないで!私の元に帰って来て下さい!」


 何も返ってこない。

 フィリアの声は、この空間に響きもしない。

 代わりに、インキュバスの笑い声が返って来る。


「ま、せいぜい、ここで喚いてろ」

「テメェ!絶対ぶっ殺すからな!マスターをこんな目に遭わせて!」

「フン、むしろ感謝して欲しいな、この思い出の中で、ずっと暮らせるようにしてやったんだ」

「こんなの逃げですらない!ただの諦めだ!あの人は、そんな事望まない!!」

「ああ、そうだな」


 笑いながら上へと昇って行き、外へと出て行く。

 その時一筋の光が指し込み、フィリアは渾身の大声を出す。


「……マスター!!」


 ――――――


「……フィ、リ、ア……」


 後ろにあるクローゼットから響いた声に、アーシャは足を止めた。

 胸が締め付けられ、次第に涙が零れて来る。

 そして、頭にかかっていたノイズの一つが晴れる。


「アーシャ!」

「ッ!」


 振り返ると、マックスが居た。

 笑みを浮かべる彼女に、冷たい手で握られる。


「なぁ、また遊ぼうぜ!二人で!」

「……」

「どうした?泣いてるのか?誰に虐められた!?俺がやり返してやるよ!!」

「……なぁ、フィリアって、誰だ?」


 涙を拭いながら訊ねた。

 次の瞬間、マックスの表情が曇る。

 すぐに直り、笑顔で肩に手を置いて来る。


「そんな奴いないって、それより、俺と遊んだほうが楽しいだろ?」

「……でも、その子を想うと、止まらないんだ、涙が」

「……ほら、来い、そんな悲しい顔するくらいなら、慰めてやる」


 どんどん溢れて来る涙に悩んでいると、マックスに抱かれた。

 胸に頭を押し付けられ、そのまま優しく撫でられる。


「……そうだ、前にも、こんな事が」

「そりゃそうだろ?俺がいつもやってんだ」

「そうじゃない、他にも誰か、誰だ?」


 マックスの温もりを感じようとしても、何も感じなかった。

 ――何かが足りない。


「……」


 朧気に脳裏を過ぎる。

 フィリアにも、同じ事をされた。

 その時は、もっと暖かかった。


「アーシャ?」

「う、ううぅ、ああ!!」


 頭が割れそうな痛みに、アーシャは悶える。

 折角思い出した筈のフィリアの記憶が、また押し込められる。


「変な事を言うな、俺との思い出を忘れたか?ずっとこうして、一緒に居ただろ?」

「……うん、そうだった」


 その言葉とは裏腹に、アーシャの片目から涙が零れる。

 まだ、アーシャの心は諦めていなかった。


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