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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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治療

 

「マスター、しっかり」

「ガハッ!」


 フィリアの背中で血を吐くアーシャの体温が、徐々に低下している。

 背中に、折れた骨の感触が伝わる。


「で、フィリア、どこに行けばいい!?」


 ショットガンを構えるサーバルは、警戒しながら訊ねた。

 いつ出現するかわからない敵に、フィリアは震える。


「……い、医療棟が、どこかに、ある筈です」

「医療棟?傷の手当か?」

「いえ、彼女の呪いを」

「待て!」


 説明の途中で、サーバルはフィリアを押し返す。

 同時に銃撃が放たれ、近くの壁に弾痕が作られる。


「ヒ」

「また残党か、この分だと、外の連中も」


 身体を震わせるフィリアは、戦場に居る現実を噛み締める。

 感情抑制が外れたせいで、恐怖が込み上がる。


「……よ、よく、平気、ですね」

「慣れてんだよ、てか、本当に大丈夫かよ、いつもと様子違いすぎるぞ」


 フィリアが震えた声を出した次の瞬間、残党部隊の悲鳴が聞こえて来る。


「なんだ!?」


 立ち上がったサーバルは、手のひらを見せて静止を指示。

 ショットガンを構え直して、ゆっくりと通路の先へ身を乗り出す。

 フィリアもゆっくり顔を出すと、残党の一人の顔が銃撃で破裂する。


「……アイツは」

「強化人間?何故」

「……」


 二人が目にしたのは、白い髪をなびかせる少女。

 血の付いた手を拭いながら、彼女は近づいて来る。


「私は、マリー……敵意はありません、もうシステムの支配は受けていませんから」

「なんだと?」


 白髪の少女は、両手を上げた。

 サーバルは冷や汗を流しながら、ショットガンを突きつける。


「信用できるか、機械人形が」

「……そう思われても、仕方ありませんが、どうか、信じてください」

「……」

「サーバルさん、その世代の強化人間は、システムの支配が無ければ、基本無害です……信用していいかは、別ですが」


 サーバル同様に、フィリアも疑惑の目を向けてしまう。

 互いに睨み合いが続き、息を飲む音さえ聞こえて来る。


「……目的地は?案内します、早くしなければ、外の仲間が」

「チ、そうだった」

「い、医療棟へ!」

「フィリア!」


 意を決したフィリアは、一歩前に踏み出した。

 白い髪の少女は一礼して、方角を指さす。


「こちらです」

「……E型、医療ポッドのありかは?」

「存じています、ナビはお任せください」


 白い髪を揺らしながら、マリーは移動を開始。

 フィリアも一歩出ようとするが、サーバルに止められる。


「おい、良いのかよ」

「……今は、彼女を頼るしかありません」


 難しい顔を浮かべるサーバルは、歯に力を込めた。

 数秒唸り、マリーの方を向く。


「お前は後ろに居ろ、何かあったら、アーシャを連れて逃げろ」

「……はい」


 笑みを浮かべたフィリアは、サーバルと共にマリーの後を追う。

 追いつくなり、マリーは自分の耳の後ろに指を置く。


「……はい、直ちに向かいます」

「誰と連絡を?」

「仲間に医療棟の制圧を頼みました、ここから戦闘する事は無いでしょう」

「仲間居るのかよ」

「はい、皆さん、ここの連中に反感がありますから」


 マリーの発言に、サーバルは目を細めてしまう。

 だが、直後に各所から銃声が鳴る。


「あ、ありがとうございます」

「いえ」


 やがてフィリア達は、医療棟へ到着。

 血濡れた通路に、空の薬莢と残党兵たちの死骸が転がっている。

 そして、マリーと同型の強化人間達とも合流した。


「M27、到着したか」

「L15、E型医療ポッドは?」

「確保してある、行け」

「はい」


 防衛ラインを構築する彼らを通過し、フィリア達は目的地へ到着。

 医療ポッドに数名の強化人間が、工具を手にして群がっている。


「到着しました、こちらで間違いないですか?」


 マリーが手を差し出し、フィリアは何度も頷いた。

 データとも一致する。


「……そう、これです、これがあれば、マスターを治せます」

「こ、こんな、物でか?」

「はい」

「皆さん、調整はどうですか?」


 マリーの声に反応し、彼らは医療ポッドから離れる。


「使えなくはないが、ここまで動力が届いていない」

「……退いてください」


 整備をしていた強化人間を押しのけ、まだ声を震わせるフィリアはポッドの動力パイプを外す。

 胸にパイプを刺し、自分のアーマーの動力をポッドへと供給する。


「……よし、上手くいった」

「ちょ、そんな乱暴な」

「今は、これしか手がありません」


 光の灯ったポッドのハッチを開け、フィリアはアーシャを中に寝かせる。

 付属のキーボードを操作し、アーシャの体をスキャン。

 無数の医療用アームを展開させ、外科治療と解呪治療を並行で開始した。


「傷は骨折と内臓を優先、後に外傷を縫合、そして、一番厄介なこれを」


 フィリアの狙いは――アーシャ達タイタンを蝕み続けて来た呪い。

 脳から異物を取り除くように、繊細な操作で呪いを取り除く。

 傷の手当よりデリケート過ぎる故に、フィリアの呼吸は乱れだす。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 汗が滝のように流れだし、ヘルメット内はフィリアの呼吸音ばかりが反響する。

 少しでも手元が狂えば、取り返しがつかない。


「(こんな時、感情抑制があれば)」


 感情抑制が無効化された事で、焦りと恐れで手元が震える。

 そんな時、マリーへ通信が入る。


「こちらM27」


 次の瞬間、近くから爆音が響き、施設が揺れる。


「キャ!」

「ッ、何が有った!?」

「残党兵です、ここへ集中的に進行しています!」

「何だと!?」

「……」


 作業の手が止まってしまう。

 敵が来るという恐怖で、指が動かない。

 視線も安定せず、呼吸が乱れる。


「……フィリア」

「ッ」


 サーバルの手が、肩に置かれた。


「……アーシャを、頼んだぞ」

「……はい」

「数名を残して、防衛線を死守します!サーバルさん!協力を!」

「おう!」


 フィリアに向けて親指を立てたサーバルは、強化人間達と戦場へ向かう。

 彼女達を見送ったフィリアは、未だ震える手でポッドの操作を再開。


「……クソ、動け……あと、ちょっとなんだ」

「フィリアさん、落ち着いてください」


 動かない手の上に、マリーの手が置かれる。


「私が、操作をアシストします、貴女は、集中を……」

「……」

「大丈夫です、サーバルさん達は、負けません」

「分かってます、けど、手が」

「ここに来たのは、ここで震える為ですか?もっと、貴女がやらなければならない事がある筈」

「ッ」


 マリーの言葉で、フィリアの目が見開く。

 眠るアーシャを前に、歯を食いしばる。


「……」


 大きく息を吸い込み、吐きだす。


「マスター、私が……」


 呼吸はまだ荒い。

 それでも、フィリアの手は動きだす。

 最後に残った呪いの魔法陣へ干渉し、巻き込んでいる周囲の神経からも剥がしていく。

 ポッドの中で、アーシャの指がわずかに動き、身体が淡い光に包まれた。


「必ず……貴女の願いを、叶えます!」


 外では、爆発音と銃声が絶え間なく響き続けている。


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