変異体
非常灯の灯るスカイエデンの通路で、オセロット達は足止めされていた。
残党兵たちが立ちはだかり、狭い進路に銃弾が撃ち込まれる。
「チ、邪魔な奴らだ!」
身を乗り出したオセロットは、ライフルで反撃。
敵は遮蔽物に隠れ、銃弾は壁や天井に傷を作った。
「スコール2!手榴弾残ってるか!?」
「一個だけなら!」
「こんな所で足止めくらってる場合じゃない、強行する!」
「押忍!」
ピンを抜いたサーバルに合わせて、オセロットは身を乗り出して弾を連射。
その隙に、サーバルは敵の元へと手榴弾を投げ込む。
「フラグ!」
床に転がる金属音が軽く響き渡り、次の瞬間閃光が走る。
「ッ!」
衝撃波と爆炎がオセロット達の元まで到達し、焼け焦げた臭いが鼻を突く。
爆音で痛む耳を抑えながら、オセロットは弾倉を交換したライフルを取る。
「よし、駆け抜けるぞ!」
「押忍!」
「スコール4!」
「ッ!は、はい」
うずくまっていたフィリアは、オセロットの声に反応して立ち上がる。
先ほどから彼女は、攻撃をする素振りを見せない。
引き金にあたっている指も、ずっと震えたままだ。
「おい、本当に大丈夫か?震えてるぞ」
「……だ、大丈夫、です」
か細い声で返事したフィリアに合わせるように、船が大きく揺れた。
その揺れに、オセロット達は銃口を辺りに向ける。
「なんだ?さっきからズンズン」
「……スコール1見つけたら、とっとと逃げるぞ」
「お、押忍」
通路を駆け抜け、突き当りの扉を蹴破った。
倒れた扉の向こうに、開けた倉庫のような場所が現れる。
「クソ!ここどこだ!?」
「スコール1の気配は……この上、ッ!?」
上にアーシャの気配を感じた瞬間、重油のように粘ついた気配に襲われた。
オセロットとサーバルの顔は青く染まる。
「なんだ?また」
「この気配」
「……上から、来ます!」
ひび割れた天井は崩落し、オセロット達はその場から退避。
天井から陽光が刺し込み、砂埃が舞い上がった。
即座に起き上がったオセロットは、刀を引き抜く。
「……キモイ音だ」
砂煙の中に、巨大な人型の影が現れる。
肉の擦れる音に混じって、湿った呼吸音と金属音が漏れる。
「……なんだ、コイツ」
立ち上がったオセロットの目に映り込んだのは、両腕からコードを伸ばす巨漢。
下顎から上を持たない巨漢は、コードで模られた巨大な腕を床へ手を伸ばす。
地面から持ち上げられる存在に、オセロットは目を見開く。
「アーシャ!?」
「何!?」
「え」
巨漢の腕に絡め取られたのは、気を失って元に戻ったアーシャ。
コードの締め付けで血が流れ、口からも血が吹き出る。
「ガハッ!」
吐血と共に、骨の折れる音が響く。
彼女の姿を見たサーバルはショットガンを構え、巨漢を睨みつける。
「テメェ!アーシャを離しやがれ!」
「……ッ!」
フィリアもライフルを構えるが、巨漢は聞く耳を持たずにアーシャを睨む。
顎から上を持たない頭から血飛沫が上がり、徐々に隆起。
破裂した肉とコードが絡み合い、顔の形を作り上げる。
『ギュアアア!』
ノイズのかかった叫びが、気絶するアーシャへと放たれた。
「キモイ奴だ」
「あ、あれは……」
「その手、離しやがれってんだ!」
サーバルはショットガンを撃ち込み、散弾は着弾と共に炸裂。
身体中から爆炎が上がろうと、巨漢はアーシャから目を離さない。
「それじゃ無理だ、俺が行く!」
刀を構えたオセロットは、地面を蹴り飛ばす。
地面は吹き飛び、音は置き去りにする。
刀の周囲に水が螺旋状に展開し、アーシャを掴む腕へと突き刺す。
「惨刺水明!」
『グギャアア!!』
突きで吹き飛んだコードからスパークではなく、血が流れ出た。
力の緩んだコードから、アーシャの体が解放される。
「サーバル!フィリア!」
「押忍!」
「……あ、はい!」
オセロットの声に反応したサーバルは、フィリアと共にアーシャを回収。
それを見届け、着地したオセロットは踵を返す。
「来やがれ、化け物!」
『ギュレアアア!!』
「クソ、おいコラ!!」
だが、挑発に乗らずに巨漢は腕を再生させてアーシャを睨む。
腕を鞭のように振り上げ、三人へ振り下ろそうとする。
――サーバル達はまだ離脱できていない。
舌打ちをし、オセロットは足に力を込める。
「野郎!!」
踏み込みと共に、オセロットは刀で連続三回突く。
まるで三本の刀を持っていると、錯覚する程の素早い突きだ。
「惨刺水明・三刃!!」
頭、喉、心臓。
三つの急所に刀が突き立てられ、巨漢の上半身が消し飛ぶ。
バラバラになった巨漢の肉片が飛び散り、辺りを血で汚す。
「何してやがる!?早く逃げろ!!」
「え、た、倒しただろ?」
「バカやろう!パワーを探ってみろ、全く衰えてねぇ!!」
オセロットの言葉に合わせるように、下半身は起き上がった。
「……クソ、行くぞフィリア!」
「は、はい!」
「アーシャを頼む、俺が先陣をきる、兄貴も早く!」
アーシャを担いだフィリアを連れ、部屋を出て行こうとするサーバルはオセロットの方を向く。
その間に、血を噴水のように吹き出す巨漢の身体が再生。
肉とコードが織り交ぜられた身体が、徐々に形成されていく。
「行け!」
「けど!」
「良いから行け!お前じゃ足手まといだ!」
「何だと!?」
「サーバルさん!行きますよ!」
オセロットの言葉に頭に青筋を浮かべたサーバルは、呼吸を荒くするフィリアに連行された。
「離せ!フィリア!クソ、兄貴!」
「ダメです!あ、あれは……とにかく行きますよ!!」
「おい、なんか知ってんのか!?」
「早く!」
連れて行かれる最中、オセロットは再生を終えた巨漢と戦闘を開始。
サーバルはフィリアに連れて行かれ、通路へと逃げ込んだ。
同時にオセロットの突きの衝撃で道が崩落し、後戻りはできなくなる。
「クッソ!」
「ダメです!」
戻ろうとしても、フィリアに抱えられて阻止された。
そして、壁に叩きつけられる。
「あれは!……あれは、強化人間……第七世代型の」
「ま、待てよ、それって、お前と」
「ええ、ですが、あれは、凍結された別プラン、です」
「別、プラン?」
「……既に暴走状態です、ああなったら、もう制御が効かない」
「それじゃ、兄貴は」
「……」
歯を食いしばりながら、サーバルは瓦礫の方へ向いた。
今でも、その奥ではオセロットが戦闘を続けている。
オセロットがどうなるのか、嫌な予感を過ぎらせたサーバルは耳を垂れ下がる。
「ですが、倒せる手立てが有るとすれば……」
フィリアの目は、気絶するアーシャに向けられた。
ドレイクからの情報を信じ、フィリアはアーシャを担ぐ。
「マスター……貴女を、真のタイタンに」




