逆襲の巨人
ソウリュウの近辺では、現在も戦闘が続いていた。
強化人間とサイクロプスは沈黙したが、通常の部隊はまだ動く。
陣形も何も無い、数を頼みにしてヴェイザー達を飲み込もうと迫る。
「チ!どんだけ居るんだ!?おい!オセロット達はまだ戻らないのか!?」
『……まだだ、この状況では、救援もままならん』
「だよな!」
コマンダーからの返答に、レッドは敵兵の密集した部分へ打撃を入れた。
衝撃波と共に熱波が発生し、多くの敵兵がチリと化す。
「こうなったら、俺が……ッ!?」
レッドがアーシャ達の救援に向かおうとした時、サラマンダーの挙動が変化。
操縦桿が重くなり、頭の中に声が響く。
「グ!な、何だ?」
粘り気のある声が脳内に響く、ただ一言『殺せ』と。
機体の温度が勝手に上昇し、サラマンダーは勝手にアーシャの方を向く。
「バカやろう!今はそれどころじゃねぇ!……おい!ナインケルパー!抑えるの手伝え!」
『……ゴメン、ボクの方も、ちょっと』
「何!?」
緊張感の無い声のトーンだったが、レッドは冷や汗をかく。
そして、ナインケルパーは、背を預けて来る。
『この感じ……鎖が、解かれた?』
「鎖?」
レッドは首を傾げながら、サラマンダーを御する。
彼を他所に、ナインケルパーはアーシャの方へ目を向けた。
「タイタン族にかけられた呪いが、また、解かれる」
――――――
「殺してやる」
倍の身長となったアーシャは、ゆっくりと一歩を踏み出す。
地面が足の形に潰れ、空間が揺れた。
比較にならない量の魔力が、アーシャの体内からあふれ出る。
「……ふ、フン、だからどうした、従属種族が!!」
同じく踏み出してきたイムカーは、一気に走りだす。
アーシャも彼に合わせて駆け出し、二人は同時に拳を繰り出した。
拳は衝突しあい、衝撃で炎が飛び散る。
そして、ぶつかったイムカーの腕は破裂。
「ヌ!?ガアアア!?」
血が滴り、腕のパーツが飛び散った。
激痛に喘ぐ暇もなく、アーシャの追撃が放たれる。
「オラッ!!」
硬く握り締められたアーシャの拳が、イムカーの下顎を砕いた。
続けざまに拳を振り下ろし、肩を粉砕する。
「ボ、オボ!」
上半身の原型は無くなるイムカーは、目を見開く。
そんな彼に笑みを浮かべながら、アーシャは腹部へ拳を繰り出す。
「ボゴ!!」
アーシャの拳は、イムカーの腹部を貫く、
ただ引き抜くのではなく、横へと振り抜いて身体を崩壊させる。
更に、一緒に巨大化していたガントレットの補助で、魔力の塊を生成。
人の形を保っていないイムカーに、魔力弾を繰り出した。
「ゴボー!」
爆炎に飲まれながら吹き飛ぶイムカーは、燃えながら地面を転がる。
炎はすぐに鎮火したが、イムカーの身体は骨以外ほとんど消えていた。
「……どうした?そんな物かよ」
「ゴ、ゴボ!」
指を鳴らすアーシャは、今のイムカーの姿に快感を覚えた。
自然と口角がつり上がり、高揚で体が震える。
アーシャがゆっくりと近寄ると、イムカーの再生が開始。
骨が再度形成され、それに合わせて筋肉と皮膚が再構築された。
「はぁ、はぁ……き、効かん、効かんな!」
「そうか、丁度良い、なら効くまでやってやる」
「ギ」
怯えたように後退るイムカーへ、アーシャは再度打撃を放った。
屈強なイムカーの身体が、破裂する程の打撃。
再生の瞬間、骨の組みあがりに合わせて叩き潰す。
肉が結びついた所で、また千切る。
苦しみを、延々と長引かせるように。
イムカーの身体より大量の血が流れだし、血の海が出来上がる。
「あ、ああ、あぐ」
「どうした?騒ぐ余力も無いか?」
「も、もう、止めて」
「あ?」
「止めてくれぇ」
手を差し出してきたイムカーを前に、アーシャは攻撃を止めた。
口を開けていると、もう一本のイムカーの手が陰から現れる。
「ゴ!」
アーシャの口の中に、グレネード弾が数発突っ込まれた。
間髪入れずにイムカーの手で口が閉ざされ、歯で信管が起動。
榴弾と薬莢内の火薬が、アーシャの口内で爆発する。
「ははは!油断したな!」
徐々に爆炎が晴れていき、口から血を流すアーシャが現れる。
その目は、視線だけで刺殺で来そうな程鋭い。
「ヒ!」
「ガアアア!!」
怒りに任せた一撃。
船全体が激しく揺れ、地面が大きく陥没した。
二人は瓦礫と共に、一個下の層へ落ちる。
衝撃で辺りの物が散乱し、中には砲台の弾までもが見受けられた。
その内の一つ、榴弾に目を付けたアーシャは砲弾を薬莢から取り外す。
「ま、まて、何する気だ!?」
「……」
無言で薬莢を捨て、イムカーの顔面を掴む。
「や、止めろ、それだけは、止めてくれ!」
「……安心しろ」
榴弾を持ち上げ、ニヤリと笑う。
「止めてやる」
ケフュレスに助けられ、報復を誓った時。
アーシャは、ずっとこの時を待っていた。
「お前が、死んで使い物にならなくなったら」
今まで言われて来た事を、そのまま返した。
イムカーの顔は恐怖で強張り、唾液もせき止められずに流れ落ちる。
涙も零れ落ち、顔が凄まじく震えだす。
「許して、許してくれ!」
抵抗してくる歯を砕いてこじ開け、悲鳴を押し戻すように――榴弾をねじ込んだ。
顎が外れ、喉が裂けようがお構いなく押し込む。
やがて榴弾の先端はイムカーの下腹部へ到達し、アーシャは足を大きく振りかぶる。
「ウオラアアア!!」
蹴り飛ばし、イムカーを打ち上げた。
天井を突き抜けた辺りで、信管が起動。
イムカーの体内で炸裂し、彼の身体の一部は花火となった。
「きたねぇな」
口から黒い煙と血を吐くイムカーは、アーシャの前に落下。
流石の彼も、内側からの爆発にダメージは免れないようだ。
「さて、そろそろ、殺すか」
フィニッシュを決めようと、両手でイムカーの頭を掴む。
イムカーの目が、何かを必死に訴えて来る。
許しを乞うように、目に涙を浮かべだす。
「た、たすけ、て」
「……勝手な事を言うな」
待ち望んだ瞬間を前に、アーシャは深呼吸をする。
自分の鼓動だけしか聞こえない程、静まり返った空間。
手に力を込める。
骨が軋み、砕ける音が響いた。
「フ!」
アーシャは、イムカーの頭を潰した。
両手から血が滴り、イムカーの身体は力無く倒れる。
「……終わった」
両手を離し、アーシャは空を見上げる。
清々しい心で、目を潤ませた。
「お前にも、見せたかった、マックス」
これがせめてもの哀悼になればと、アーシャは涙を流す。
足元で、イムカーの死体がうごめく事に気付かず。




