幼馴染
墜落したスカイエデン上部。
街区は衝撃で崩壊し、中央のタワーも半壊している。
静寂が流れる瓦解した町の中央の瓦礫が、脈打つように隆起する。
「グ、う、マックス」
頭から血を流しながら、アーシャは瓦礫を押しのけた。
近くにいたマックスも引っ張りだし、その辺に寝かせる。
「マックス、マックス!」
肩を掴んで揺らし、頬を叩く。
――反応が無い。
脈も呼吸も、何も無い。
「おい、ふざけんな、ここまで来て!!」
急いで蘇生処置を施し出す。
人工呼吸の後、胸骨圧迫を開始。
訓練通りに身体が動く。
「ふざけんな……ふざけんじゃねぇぞ!!」
零れた涙で濡れるマックスの胸部を押し続けた。
ようやく見つけたというのに、ここで死なれては困る。
「起きろ、また、行くんだ、あの、一本杉に、タイムカプセルも!!」
何度繰り返しても、マックスが起きる気配がない。
やがて、アーシャは崩れ落ちる。
マックスの顔に近づき、息一つしていない事実に涙する。
マックスへすり寄り、むせび泣く。
「ぐ、う、うう、何で、何で、また……」
そんな時、アーシャの後頭部に冷たい手が触れる。
アーシャは目を見開き、手を重ねた。
「……」
ゆっくりと顔を上げると、そこには目を開けたマックスの顔が映った。
息を飲み、口角が震えた。
「あ、ああ!」
「……」
「ま、マックス、解るか?私だ、アーシャ、だ」
マックスも笑みを浮かべ、涙を流すアーシャの首元に手を置いて来た。
無線越しに、彼女の声が届く。
『相変わらずだな、泣き虫』
「……」
言葉を失い、アーシャは号泣。
大粒の涙を流し、子供のように泣き声を上げる。
「うるさい!うるさい!何年探したと、思ってんだよ!」
『知らねーよ』
「マックス」
マックスはアーシャを退かし、上半身を起こした。
そして、苦しそうに咳き込む。
『ゲホッ!ゲホッ!』
「おい、大丈夫か?」
『……テメェが、心臓マッサージなんか、するからだ、今、人工心肺なんだよ、俺の身体』
「え、あ、わ、悪い」
『チ』
「いて」
アーシャはマックスに軽く小突かれるも、やり返す。
以前と違う反応に、マックスの表情が緩む。
『へ、お前もやるように、なったな』
「当然だ、あれから何年経ってると思ってる、私だって、強くなったんだ」
『ま、そうみたいだな、ガンガン殴りやがって』
「お前もだろ」
二人は身を寄せ合い、肩と肩を当てた。
アーシャはその肩に頭を乗せ、深呼吸する。
「……でも、良かった」
『……それより、マリーはどうした?』
「マリー?」
『俺の隣に居た、白い髪の』
「……あ」
マックスの言葉に、アーシャは姿勢を正す。
さっき吹っ飛ばした、白髪の少女だ。
恐らく、目の前の瓦礫の中のどこかに居る。
「……ちょ、ちょっと、静かにしてくれ」
『ああ』
意識を集中させ、マリーの気配を探りだす。
強化人間となったせいで、探知には時間がかかる。
瓦礫の中に、か細い気配を感じ取った。
「居た、多分あのあたりだ」
『……よくわかるな』
「言っただろ?私だって、強くなったんだ」
『……へ』
互いに笑みを浮かべあう。
甘い空気が流れると、中央タワーの瓦礫が爆散する。
「な、何だ!?」
『……』
マックスを守るように立ったアーシャは、爆散した場所を見る。
煙の奥より、ゆっくり影が現れた。
筋肉の異様に膨れ上がった男だ。
「あ、あの顔、まさか」
『……イムカー』
「は!?」
マックスの返答に、声が裏返った。
もう一度よく見ると、老けてはいるが面影がある。
だが、身体は全く違う。
「どう言う事だ、あのヒョロガリが」
『知らねぇ、だが、ここの連中とつるむようになって、急にああなった』
「……どうやったらああなる」
手斧を取りだしたアーシャは、堂々と歩いて来るイムカーを睨む。
そして、彼は立ち止まる。
「生意気な女だ、また俺が躾てやる」
「……黙れ、もう二度と、お前の好きにはさせない」
「フン、よく言う……フン!」
次の瞬間、空気が変わった。
イムカーの全身から赤黒い紫電が立ち上り、辺りのガラクタが吸い寄せられる。
ガラクタ達はイムカーに取りつき、同じく赤黒い紫電が発生する。
「な、何を、している」
『わからん、だが、用心しろよ』
ピリピリする空気の中、アーシャは震えた。
今まで感じた事のない異質な空気に、足がすくむ。
「ヌアアア!」
「ッ!」
瓦礫は吹き飛ばされ、中からイムカーが現れる。
アーシャはすぐにマックスを連れて退避し、破片を回避した。
「……チ!」
身体から湯気を立ち上らせるイムカーは、ゆっくりと歩いて来る。
一歩一歩踏み進む度に地面が陥没し、油のように粘ついた気配が放たれる。
彼を前にして、アーシャはマックスを押す。
「マックス、逃げろ」
『だが』
「良いから行け!アイツは私が何とかする!!」
アーシャの叫びに、マックスは何か思いついたように頷く。
『……死ぬなよ、まだ話したい事、沢山有るんだからよ』
「分かっている」
アーシャの言葉に従い、マックスは離れた。
そして、改めてイムカーを睨む。
「良いぞ、遊んでやる、小娘」
「……うるさい、即行殺してやる!!」
手斧を握り締めたアーシャは、迷いなくイムカーへと一直線に駆けだした。




