世界の色
コンゴウの格納庫を訪れたフィリアは、整備を終えたサラマンダーを見上げていた。
相変わらず熱波を発し続け、格納庫内に熱をもたらしている。
「……貴方は、この世界に、何を思いますか?」
返って来る筈の無い質問を、思わずつぶやいた。
300年以上、人の戦いの中央に居た巨人の一人へ向けた言葉。
「なんて、何してんだ、私は」
すると、背後からレッドの声が響く。
「乗りたいのか?」
「ッ、い、いえ、そういう訳では」
笑みを浮かべる彼に肩を叩かれたフィリアは、静かにその手を払った。
息を整えながら、フィリアは周囲を見渡す。
ナインケルパーの姿は無く、スタッフだけが作業に勤しんでいる。
「……レッドさん」
「なんだ?」
「……ナインケルパーは、信用しない方が良いです」
「……」
この言葉で、レッドの顔から笑みが消える。
より強い力で肩を叩いて来たレッドは、サラマンダーの装甲に手を置く。
「分かっているさ、あの女は、どうも胡散臭いからな」
「……であれば、よかったです、失礼します」
頭を下げたフィリアは、格納庫を後にした。
その足で通路を歩いて行くと、やがて外を展望できる場所に到着。
不意に足を止めたフィリアは、外へ目を向けた。
「改めて見ると、酷い世界だ」
崩壊戦で大地は砕け、色を失った砂煙が風に運ばれる。
空も遠くの廃墟も、見える全てが灰色に沈んでいた。
「……戦いばかり、よく飽きないな」
ナインケルパーとの対峙で、崩壊戦の歴史がより深く思い起こされた。
たった一人の少女の宣戦布告を火種に、世界全土へと戦火が広がった忌まわしき記憶。
何十年も恨みと憎しみをぶつけ合い、世界を今の色へと染め上げた。
無理矢理とは言え、その片棒を担がされたことに、フィリアはやるせない気持ちが込みあがる。
「なのに、生きようとしている」
誰にも聞こえない声でつぶやくと、フィリアは少女と鉢合わせる。
「あ」
「あ」
情けない声を出しながら、フィリアは立ち止まった。
「……フィリア」
「……マスター」
アーシャの事を見上げたフィリアの視界は、一気に色づいた。
息が詰まるような感覚と共に、胸の奥の熱が全身へと行きわたる。
桜色に頬を染める何気ない彼女の顔に、目を奪われた。
「(……こんな、歪んだ世界でも)」
目頭を熱くしたフィリアは、気づけばアーシャの元へ駆け寄っていた。
彼女へと抱き着き、その温かさを身に染みこませる。
「ふぃ、フィリア?」
「マスター」
表情を緩ませたフィリアは、アーシャの腹部へ顔を擦り付けた。
スーツ越しでも、彼女の温もりを感じ取れる。
優しく、生きている熱。
「……先ほどは、ごめんなさい」
「え?」
「友人である事に、優劣なんて無いのに」
先のやり取りを思い出しながら、フィリアはアーシャを見上げた。
「……私の方こそ、悪かったな、不器用な事しか、してやれなくて」
「いえ、私の方こそ、変に、意地になってしまって」
互いに涙と共に、笑みを浮かべた。
温かな沈黙の中に響く、二人の鼓動。
道行く人達の事さえ気にせず、二人は抱き合う。
「(こんな歪んだ世界でも、この暖かさは変わらない)」
アーシャのスーツが、フィリアの涙で濡らされた。
次の瞬間、艦内にアラートが響き渡る。
「ッ!非常招集」
「……」
アラートが響き渡った事で、窓は隔壁に覆われた。
忙しく動きだすスタッフ達を横目に、フィリアは涙を拭う。
「フィリア?」
「……行きましょう」
「……ああ」
手を繋いだ二人は、急いで格納庫へと向かった。
――――――
その頃。
同じくアラートの響き渡るソウリュウの艦橋。
そこに居る誰もが言葉を失い、外の光景に釘付けになっていた。
「ば、バカな、あれは」
「……リバティフリューゲル、一個師団本体が来るとは」
艦長の席に着くコマンダーは目を細め、杖を握り締めた。
地上を覆う程の物量の艦隊が展開し、更に巨大な影が地面を揺らす。
「敵地上艦隊、現在確認できるだけでも、50隻を超えました!」
「八脚型アーマメントを確認……いや、こ、この数は!」
どよめく艦橋内に、一瞬の静寂が訪れる。
「おい、どうした!?」
「前方に3隻!横隊を組んで接近中!!」
「何だと!?」
「……ここへ逃げる事も、折りこみ済みだったか」
オペレーターからの報告に、コマンダーは杖に額を乗せた。
だが、報告は終わらない。
「待ってください!」
「……今度は何だ?」
「……なんでしょう、これ……ッ!?まさか、こんな事って!!」
「報告しろ!」
「じょ、上空に、敵アーマメントが出現!巨大です!!」
「バカな、空中にアーマメントだと!?」
疑いながらも、レイブンの視線は上を向いた。
彼だけではない、艦橋や甲板に展開する部隊さえも上を向いて固まっている。
報告通り、粒子の霧より巨大な艦船が姿を現す。
「……あの、大きさは」
「信じられん、このご時世に、あんな物を運用するなどと」
移動するだけで大気を揺らし、雲を押しのけながら接近してくる巨大艦。
空中の随伴艦に守られるその艦艇に、コマンダーは歯を食いしばる。
「……政府要人護送用アーマメントコロニー、スカイエデン級か」
マキナの艦艇も含めた全てに影が落とされ、空は食いつくされた。




