竜人と少女
母艦へと帰投したドレイクは、吐き気をかみ殺しながら通路を歩いていた。
「(チ、よくもまぁ、あんな事を)」
ドレイクの脳裏に、兵士達の慰安を行う強化人間部隊が過ぎった。
彼らと自分の子供を重ねてしまい、考えただけで胃が軋む。
「……今は仕事だ、仕事」
思考と記憶を振り払うように、ドレイクは目的地に到着する。
「……遅くなった」
「遅いぞ!全く、時間も守れんとは」
「も、申し訳ない(まだ五分前だわ)」
雇い主のチョビ髭の男の態度に血管を浮かび上がらせながら、ドレイクは視線を移す。
アクリルの窓に遮られた、純白の部屋。
その中央には、細長い卵のような物が置かれている。
「(あれは、E型の医療ポッドか?あんな物まで)」
今では失われた筈のポッドは、電子音と共に開いた。
その中より、先日の奴隷商人が出て来る。
「イムカー……何か病なのか?」
「貴様が知る必要は無い」
ポッドから出て来たイムカーは、強張った顔で室内にかけてあったビジネススーツを着用。
すぐ近くの自動ドアから出て来ると、強面だった顔は一気に緩む。
「これはこれは、待たせてしまったようで」
「問題無い、だが、御頭首より賜ったその体、無下にしないのは感心だ」
「ありがとうございます」
営業スマイルを崩さない彼と共に、依頼主は歩きだした。
二人の護衛を行うべく、ドレイクは後に続く。
彼らの間より、粘つくような空気が流れだす。
息苦しく思いつつ、ドレイクは間合いを維持する。
「御頭首より下知が下った……やはり、我々以外に、過去の兵器を持つ存在は、必要無い」
「やはりそうですか、では、次の戦いへ向けて、わたくしめも、上物をご用意いたします」
「フン、興味無さそうだな」
「……騎士様方のお考えは、わたくしのような一介の商人には、ご理解が届きません故」
漂う不穏な空気に、ドレイクは沈黙を貫く。
吐き気と胸糞悪さを抑え込みながら歩くと、二人は別の護衛が立つ扉にたどり着く。
「貴様はここまでだ、刀の手入れでもしていろ」
「わかった」
二人は敬礼する護衛を無視するように部屋に入り、ドレイクは唾を吐き捨てた。
「……クズ共が」
悪態をつきながら歩き、ドレイクは外を目指す。
途中でここの兵士達ともすれ違うが、反吐が出そうな話ばかり。
珍しくないが、先ほどのやり取りが想起された。
「あの子達は」
そう呟くと、ドレイクの目の前の扉が開く。
「ッ」
吹き荒れた突風に目を細め、髪を整えた。
下には雲が流れ、上から六つの月に照らされる。
奥にちらつく街区を横目に、ドレイクはお目当ての人物を目指す。
「変わりないか?」
「あ……」
ドレイクが話しかけたのは、白い髪の少女。
ヘルメットのバイザーで表情が見えないが、彼女は露骨に顔を逸らした。
だが、ドレイクは笑みを浮かべる。
「……また私語で、殴られるかもだからな」
以前の事を思い出しながら、ドレイクは魔法陣を二つ展開。
彼女とその隣に居る獣人族の少女へ、その魔法陣をぶつけた。
二人の頭部に、淡い光が宿る。
『これで、私語にはならないだろ?』
「ッ」
側頭部を指で押さえたドレイクは、少女へと思念を送った。
『送りたい言葉を、強く念じてくれ、そうすれば、会話ができる』
『……なぜ、私達の、肩を持つのですか?』
『……大した理由はない、ただ、先日の詫びだと思えば』
『それ以外、ですと?』
白い髪の少女の問い詰めるような念に、ドレイクは身じろぎした。
冷や汗をかきながら笑いつつ、空を眺める獣人の少女へ目を向ける。
マックスは人形のように立ち尽くし、身動き一つしない。
『アイツ……マックス、だったな?あのタイタンが言っていた』
『……私達は、全てを失いました、だから、彼女の名前は、あの時初めて知りました』
『……そうか』
細めた目をマックスへ向けたドレイクは、彼女の肩に手を置く。
付与した魔法陣の影響で、彼女の思考が流れ込む。
「……」
ただ黙って、ドレイクはその情報を受け取った。
燃え落ちていく村の中央に立つ、先ほどの男、イムカーの姿。
彼への凄まじい怒りと憎しみによって、汚れ切った殺意が流れて来る。
『……アーシャ』
だが、そんな汚れた感情の中で、彼女の姿があった。
幼少の頃の彼女と、笑顔で走り回り、遊んでいた記憶。
「意識さえ機械に飲まれても……お前はその子の事を覚えているのか」
『あの、彼女はなんと?』
手を離したドレイクは、白い髪の少女へ目を向けた。
『あの時、この子が戦っていた敵、ソイツは、この子の親友だったようだ』
『……やはり、彼女が』
悲しい念を感じ取ったドレイクは、ゆっくりと手を差し伸べた。
意図を察した少女は、手を握って来る。
「……手術前は、一緒に支え合っていたんだな」
笑みを浮かべ合う少女とマックスの姿が流れ込み、ドレイクは笑みを浮かべた。
確かな喜びと幸せが感応し、ドレイクは彼女の頭を軽く撫でる。
「なんで俺は、損な役回りを選んじまうのかね?」
「え?」
「任務に戻れ、これ以上は無理だ」
歩き去ろうとしたドレイクは、途中で振り返った。
「……だが、これだけは言っておく」
ドレイクの表情は獣のような強張りを無くし、柔らかな物に変わる。
まるで、我が子を見るような顔だ。
「人間に自由は無い、だが、選択のチャンスはある」
『……それは、どういう』
「掴めるチャンスは、絶対に掴め、それだけだ」
そう言い残し、ドレイクは船内へと戻って行った。




