標的
シルフィードが現れた瞬間、艦橋内は静まり返った。
誰も声を発さない空間に、通信が入り込む。
『久しぶり、間に合って良かったよ』
「……やはり貴様か、ナインケルパー」
コックピット内の映像が艦橋のモニターに映り、コマンダーは画面を睨みつけた。
『うん、まぁそんな怖い顔しないでよ』
そのセリフと共に、ナインケルパーは操縦桿を動かす。
彼女の操縦に合わせたシルフィードは、両肩と両腰の砲台を展開。
ソウリュウの前に出ると、彼女は口を開く。
『安心してよ、今回ボク味方だから』
ほほ笑みと共に、シルフィードの攻撃が開始された。
竜巻状の粒子ビームが連続で発射され、敵の機体のコックピットを次々撃ち抜いた。
一部は空中で爆発し、大量発生した風の刃が機体を斬り裂く。
『ほらほら!雑兵はボクがやるから、アンタは味方を回収しなって!』
「……どういう風の吹き回しだ」
『今はどうでもいいでしょ!もうじきマキナも来るから、早く!』
「……わかった、甲板上の部隊に通達、直ちに地上へ降り、撤退を援護しろ」
甲板の部隊は手薄となった空中の警戒網を抜け、次々と地上へ降下。
ナインケルパーもそれをアシストし、頃合いを見てライフルで方角を指す。
『彼女は向こう!突破口は切り開いてあげる!』
その言葉と共に、シルフィードは飛行形態へ変形。
先行して敵の部隊を蹴散らし、ソウリュウの進行ルートを形成する。
「……感謝する」
「ソウリュウ!面舵一杯!生き残っている砲台は、全て敵艦へ向けろ!!」
「押忍!」
操舵手の手によって、ソウリュウはナインケルパーの後に続く。
――――――
地上では、撤退戦が繰り広げられていた。
展開中の部隊は防御陣形を組み、ソウリュウの後を追う。
「退け!退けぇぇ!!」
「歩兵はタンクを盾にしろ!」
戦車を遮蔽物に、歩兵部隊は移動していく。
アーシャを抱えるサーバルも、彼らと合流していた。
そんな彼らの頭上で、フィリアはドレイクとの戦闘を継続していた。
「残念ながら、ここから先は通しませんよ!」
「厄介だな、お前は!」
ドレイクから放たれる電撃を、シールドによって拡散させた。
その途中で、シールドに衝撃が襲い掛かる。
「グ!」
「打撃は無理のようだな!」
「ッ、この!」
姿勢を戻したフィリアは、握り締めるビームサーベルを振り抜いた。
ドレイクの刀とぶつかり合い、火花を散らす。
「よくやる」
「……」
「だが、時間を稼いでいたのは、お前達だけじゃない」
「どう言う」
鍔迫り合いの中で、ドレイクは二本の筒を取りだした。
それを見た瞬間、フィリアは再び盾を構える。
「ッ!」
次の瞬間、目の前が光に包まれた。
すぐに攻撃を行うも、もうドレイクの姿は無い。
「……また見逃された、いや、今回は逃げられたか」
中に浮くフィリアはナイフを腕にしまい、ソウリュウへと帰投。
甲板上に集結しているスコールチームと合流し、アーマーを解除する。
「ッ」
感情抑制が消え、疲れとは別に一気に心拍数が大きくなり、呼吸も荒くなる。
すぐさまアーシャの元へ駆け寄り、目を閉じる彼女の顔に手を置く。
「マスター!!」
「……ッ」
味方が続々と帰投する中で、アーシャはゆっくりと目を開く。
「……フィリア」
「マスター、良かった」
「ああ、心配させやがって」
「もう、次はお仕置きだよ?」
サーバル達の軽口が響く中で、アーシャはゆっくりと起き上がった。
身体を引きずり、敵の方へと手を伸ばす。
「……」
「おい、どうした?」
「……マックス」
「ッ」
涙を流すアーシャは、届くはずの無い手を伸ばし続ける。
だが、その手は甲板に着く。
「う、うう……」
「マックス、さん」
その名前を聞き、フィリアは目を細くした。
胸の奥が焼けるように痛み、感情が膨らみだす。
「確か、マスターの昔の女」
「ふぃ、フィリアちゃーん?どこでそんな言葉覚えたのー?」
「……いえ、別に」
冷や汗をかいているケフュレスを横目に、フィリアはアーシャの元へ歩み寄る。
未だに涙を流す彼女へ、ゆっくりと手を伸ばす。
「マスター」
「……フィリア」
「マックスさん、居たんですね?」
「ああ」
隣に座ると、アーシャは胸に顔をすり寄せて来た。
弱々しく震える彼女の頭を撫でていると、視界の隅に艦隊を見つける。
「ん?あの艦隊は」
「あー、マキナさんの艦隊だね、やっと合流できたよー」
ケフュレスの言葉通り、三隻の艦船は同じエンブレムの描かれた旗を掲げている。
彼女達を見ていると、空中に航空機を確認。
人型へと変形したその機体を目にし、フィリアの目の色が変わる。
「あ、あれは!?」
「……シルフィード、ナインケルパーだね、マキナさん、ダブルブッキングしてたみたい」
「ああ、通りであの規模の敵を退けられてた訳だ」
「……はい」
サーバルとケフュレスの話を耳に挟みつつ、フィリアは拳を握り締めた。
仲間の死が想起され、機体への怒りが噴き上がって来る。
「けど、今は味方だ(そもそも、パイロットが以前と同じとは限らない)」
友軍識別信号を目にし、フィリアは怒りを飲み込む。
アーシャを抱く力も強めていると、戦闘班の一人が叫ぶ。
「お、おい!何か来たぞ!!」
彼の言葉に反応したスタッフ達は、次々と彼の指さす方を向く。
フィリアも目を向けると、大量の輸送機が姿を現す。
「輸送機?一体、何を」
機体下部には、コンテナでは無く円柱状の物体が吊り下げられていた。
四方八方に展開した輸送機の編隊は、機体下部の物を地面へと投下。
フィリア達は困惑しながら、全方位を警戒する。
「……あの部隊は」
頭に疑問符を浮かべるフィリアは、輸送機に刻まれているエンブレムを目にした。
ハチの巣を模った特徴的なそれは、フィリアの記憶にも有る。
「……ビー、キーパーズ」
思わず口にした言葉を、フィリアは後悔した。
腕の中のアーシャの体は一瞬動き、サーバル達は見開いた目をアーシャの方へ向ける。
サーバルが一早く叫ぶ。
「アーシャを止めろぉぉ!!」
「ウワアアア!!」
すぐさまアーマーを展開したフィリアは、逆上したアーシャを抑え込んだ。
だが、完全に抑えきる事はできない。
「マスター!今は落ち着いてください!!」
「逃がさない!殺す!絶対殺してやる!!」
「クソ!」
サーバル達に続き、スタッフ達は次々とアーシャへ群がる。
おかげでアーシャは倒れ込み、拘束を振り払おうと暴れ出す。
「離せ!離せ!!私は、私は!!」
「バカやろう!お前今マトモに戦えないだろ!!」
「関係ない!今が、今しか!!」
スコールの他にも多くの戦闘員たちの拘束は、徐々に解かれていく。
そんな中で、一人の男が彼らを押しのける。
「退け」
「ッ、兄貴!?」
「オセロットさん!」
「今の貴様に、何ができる!?」
いつの間にか帰投していたオセロットは、アーシャの胸倉を掴み上げた。
間髪入れず、硬く握られたオセロットの拳がアーシャの頬に激突。
血を吐き出しながら、アーシャは甲板を転がる。
「……ッ」
「甘ったれるな!」
「グ、ウ、ウウ……アア」
「……マスター」
再び泣き出したアーシャは、甲板を涙で濡らす。
彼女へすがろうとフィリアは一歩踏み出すも、オセロットに止められる。
「待て」
「ッ、ですが」
「周りを見てみろ、今は子守りをしている場合じゃない」
「……」
オセロットの言葉に従い、フィリアは周囲を見渡す。
投下された筒からは、大量のサイクロプスと強化人間達が出現。
気付けば、退路は断たれていた。
逃げ場はもうどこにもない。




