お茶会 出航後の息抜き
マキナの依頼へ向けて、ソウリュウは出航した。
その道中、スコールチームの部屋で相変わらずのお茶会が開かれていた。
「はーい、メグミさんから小豆貰ったから、こんなの作ってみたよー」
そう言いながら、ケフュレスは円形のお菓子の乗ったお皿をテーブルに置いた。
焼きたての甘い香りが部屋中に漂い、フィリアは身を乗り出す。
「これは?」
「えっとね、これが今川焼で、こっちが回転焼き、大判焼き、お焼き、鋒楽饅頭、ベイクドモチョチョ」
と、見た目は完全に同じ物を指さしながら名前を言っていく。
「全部同じに見えるんですが?」
「そうだよ」
「じゃぁ何ですか?その名前の量」
「知らないよ、勇者の元の世界だとこれ位あるみたいだし」
と言うケフュレスとフィリアのやり取りを無視するように、サーバルは手を伸ばす。
「俺は知らねぇからさっさと頂くわ」
「あ、御座候にするんだ、マニアックだねー」
「それ、さっき、大判焼きって言ってた奴ですよ」
もうケフュレスの言葉は流し、サーバルはお菓子にかぶりついた。
ついでに、隣に座るアーシャを目にする。
「(普段なら、真っ先にお茶アテに手ぇ出すんだが)」
ほほ笑むアーシャは、目の前の紅茶をすすった。
以前まで見せる事の無かった艶の有る目を、フィリアへと向けながら。
「(……なんか、日増しに女になって来たな、アーシャ)」
砂糖などとは別の甘い香りが、サーバルの鼻の奥を撫でる。
彼女の事を見ていると、思わず笑みを浮かべた。
「なぁアーシャ、最近いい事でも有ったか?」
「あ?何だよ、急に」
「なんかお前、最近女っぽくなったなーって」
「ブ!」
含んでいた紅茶を吐き出したアーシャに、サーバルは胸倉を掴まれる。
「おい、ケフュレスが言うならまだしも、急に何だ?テメェでもセクハラは許さねぇぞ」
鋭い目で殺気をぶつけられながらも、サーバルは笑みを崩さない。
「まぁまぁ、セクハラって言うか、一応事実って言うか」
「どんな事実だ」
「そうそう、私も、最近アーシャちゃんまた可愛くなったなーって、思うよ」
「ッ」
「ま、そう言う事だ」
顔を赤く染めた隙を突き、サーバルは拘束から逃れた。
そして、アーシャは雑に席に着く。
「だ、大体、何が女の匂いだ、獣人の慣性はわかんねぇよ」
「ま、そう言う匂いって、本能でわかるんだよ、つか、ケフュレスも可愛くなったって言ってるだろ?」
「それこそ気のせいだろ」
「いやいやー、前まで濁った目だったのに、最近キラキラしてるよー」
「キラキラって、お前なぁ」
ケフュレスの言葉に、サーバルは無言でうなずいた。
今でも脳裏を過ぎる幼少期の表情と、今のアーシャの表情はまるで違う。
その事にほほ笑んでいると、フィリアの声が響く。
「あ、あの、マスター」
「な、何だ?」
「その、い、良い事、と言うのは?」
「……さ、さぁな」
「あはは、素直じゃないねー」
「な、何がだ」
「……」
そんな会話を聞きながら、サーバルはフィリアとアーシャを交互に目を配った。
初対面の時とはまるで違い、確かな繋がりに頬を緩ませる。
「(やっぱ、楽しいな、こう言うの)」
「……それにしても」
「ん?」
和んでいると、フィリアは表情に影を落としていた。
紅茶の入ったカップを両手で包み、中身を見つめている。
「数日後に、新しい戦いが有るというのに、こんなに腑抜けていて」
その言葉に、部屋の中は静寂に包まれた。
冷たい空気の中で、アーシャは口を開く。
「確かに、腑抜けだな」
アーシャと目を合わせながら、サーバルは口元を緩めた。
「……ああ、緊張感も何も無いな」
軽く笑い合いながら、サーバルはアーシャとグータッチを交わした。
「で、では、なぜ」
「むしろ、戦いの前だからこそだ」
「ああ、いつ死ぬか分かんねぇから、こうして笑ってる」
「これが最後になって、後悔しないように」
「……そう言う物、なんですか?」
「まぁ、私達は、そう言う物だ」
俯いたフィリアの頭を、アーシャは軽く撫でた。
まだ馴染み切れていないフィリアの顔は、まだ困惑に包まれている。
しかし、何かに察したのかケフュレスの方を向く。
「も、もしかして」
「ま、まぁ、そうだな、結果より過程、アイツのモットーが移ったかもな」
アーシャに続き、サーバルもフィリアの頭に手を置く。
二人の干渉もあって、フィリアの表情は柔らかくなっていく。
彼女達の姿を、ケフュレスは眺めていた。
「前にも言ったけど、過程は大事だよフィリアちゃん、未来なんてどう転ぶかわからないでしょ?」
「……」
笑みを向けて来るケフュレスを見ながら、フィリアは軽くほほ笑んだ。
「まだ、この感性は分かりませんが」
「ん?」
「そんな嫌な結果、絶対来させませんよ」
「あはは」
アーシャとサーバルの手を繋ぎ、フィリアは満面の笑みを浮かべた。
ケフュレスは、その光景を静かに見つめる。
「(そ、幸せは、いつ壊されるかわからない……だからこそ)」
カップを傾けたケフュレスは、口元を隠しながらほほ笑む。
「今を精一杯楽しんでね、みんな(私より、人生短いんだから)」




