依頼への幕間
アーシャとフィリアがエターナルの支部から帰るなり、ソウリュウは慌ただしくなった。
警告音と共にコンテナが運び込まれ、金属音は絶える事無く響く。
スタッフ達は艦内を駆けまわり、作業を行う手を緩めようとしない。
そんな騒がしい中で、フィリアは自分の装備をチェックしていた。
「……寄せ集めのガラクタだが、あの子の物よりはマシな筈」
布で顔に着いた油を拭き取り、フィリアはスパナで完成したアーマーを小突いた。
ベースとなったアーマーの元の持ち主、旧型強化人間の少女が思い浮かぶ。
「(……貴女には感謝しますよ、私には、これが無かったので)」
続けて調整を開始すると、背後から少女の声が響く。
「どうだ?新装備とやらは」
「あ、サーバルさん、はい、これで、どんな危険地帯でも対応できますし……ドレイクさんが来ても、次こそはマスターを守ります」
「まだ根に持ってたのか」
斬られた個所をさするフィリアの視界の隅に、ドラゴノイドの影が映った。
アーシャ達と共に完全に圧倒され、見逃された悔しさが燻っている。
「ええ、次は絶対、勝ってみせます」
「けど、修理に使ったパーツって、解放戦線共の兵器から回収した奴だろ?」
「え、ええ、あの熱波を逃れた物ですよ」
フィリアは、積み上げられているガラクタを手にした。
外見は無事でも、蓋を開ければ、焦げたコードと溶けた基盤が零れ落ちる。
「となると、この前頼んだ物は、無理があったか?」
「いえ、そちらの重要な部分は、私の物を転用したので、後は既存のパーツで十分でした」
「そ、そうか、悪いな、なんか」
後頭部をかくサーバルへ、フィリアは頼まれた物を手渡した。
稼働前の装備を見て、サーバルは笑みを浮かべる。
「ありがとうよ、コイツさえあれば」
「……ただ、私の武装も万能ではありません、過信は禁物です」
「分かっている、この前みたいなドジは踏まねぇよ」
「はい、どうかご無事で、マスターの命の為にも、サーバルさんの存在は不可欠です」
「はは、お前も言うようになったな……けど、絶対に死ぬなよ、フィリア、アイツの為にも」
笑みを浮かべたサーバルは、頭を撫でて来る。
「それで、その、マスターは、どこに?」
「特別格納庫さ、レッドと一緒に」
「特別、格納庫」
喉が詰まる思いをしながら、フィリアは特別格納庫へと目を向けた。
「やはり、使うんでしょうか?あの危険物」
「だろうな、こんなに早く封印解く事になるとはな」
「また使って、マスターが危険にならないと良いのですが……いろんな意味で」
「……だな」
――――――
タイタンバスター・サラマンダーが安置され、相変わらず灼熱な特別格納庫。
前回の戦いが原因で、ロックはより厳重な物となっている。
そんな機体を眺めるレッドの隣に、アーシャは立っていた。
「まだ乗りたいのか?こんなの」
「……ああ、死にかけはしたが、俺とアイツは相性がいい」
「相性って、ケフュレスは飲み込まれてた、とか言ってなかったか?」
「……」
息を飲むレッドの表情は、ヘルメット越しでも読み取れた。
「確かに、俺はただの受信装置のようにされたな」
「だろ?だったらやめとけよ、コマンダーも、封印処置って言ってただろ?」
「……だがよ、おかげでコイツが何を想ってんのか、よくわかった」
「想う?機械だろ?これ」
「ああ、大半は機械化されたが、それでもコイツは怒っていた」
「怒り?」
アーシャが首を傾げると、機体へ歩み寄ったレッドは装甲に手を置く。
「ああ、ソイツだけが読み取れただけだが、次は飲まれねぇ……コイツの怒りも、全部俺の物にしてやる」
「……最終的にどうするかはお前の判断だが、私に飛び火させるなよ」
「そいつは分かっている、次は手綱を手放さねぇ……後は、焼け死なないかどうかだ」
「……」
レッドの真剣な声を耳にしながら、アーシャはサラマンダーを見上げた。
心なしか、サラマンダーに睨まれている気がする。
肺が押しつぶされそうな熱波で、息が焼け焦げる。
気付けば、アーシャの足は一歩下がった。
「拘束、大丈夫だよな?」
ヘルメットの中で冷や汗をかくと、特別格納庫の扉が開く。
「だーいじょうぶ、外部干渉されないと外れない様になってるから」
「……ケフュレス、本当だよな?嫌な予感しかしねぇぞ」
固唾を飲み込みながら、アーシャはサラマンダーを睨む。
「ここで蚊みたいに潰されるとか、絶対嫌だからな」
「あはは、ホントだよ、だから安心して」
紙袋片手に格納庫に入って来たケフュレスに、アーシャは肩を叩かれた。
そして、ケフュレスはレッドへ話しかける。
「レッドくーん!良い物持って来たよ~」
「……良い物?」
「そ、この前アーシャちゃんが戦った連中が着てた奴の、改良版だよっと」
朗らかな声と共に、ケフュレスは紙袋の中身をレッドへ手渡した。
それを見て、アーシャはベルガスシティでの戦いを思い出す。
「そう言えば、そんなの着た奴らが居たな」
「そ、ウィルソンさんに頼まれて、レプティルさんと解析してたの」
「……コイツでどうなるんだ?なんか分厚いが」
「うん、従来型より性能良いから、丸焼けにはならないよ」
「……つまり、飲まれる可能性はあるって事か?」
「まぁねー」
ケフュレスに手渡されたスーツを広げたレッドは、不気味な笑い声を響かせた。
アーシャも思わず、そのスーツに釘付けとなる。
「そんな物がねー、まぁ、確かに手こずったか」
「あはは、量産は無理だったけど、その内アーシャちゃん達の分も作るよー」
「……そうか」
「けど……」
「ん?」
小首を傾げたアーシャは、妙に声を重くしたケフュレスへ目を向ける。
いつの間にか、ケフュレスはレッドの胸倉を掴み上げていた。
「ッ、なんだよ」
「……いい?再使用に関しては、私の方から口利きしておくけど、アーシャちゃんが危険になるようなら、私がサラマンダーごとぶっ壊すから」
「……わ、わかったって、そう怒るな」
「……」
ケフュレスから放たれる殺気に、アーシャまで巻き添えをくらった。
彼女から放たれる赤黒いオーラで空気は重く沈み、行き場を求めるように圧しかかる。
全身の鳥肌が逆立ったアーシャは、思わず二人に背を向ける。
「そ、それじゃ、わ、私も、調整があるから」
ゆっくりと特別格納庫から出ると、アーシャはヘルメットを脱ぐ。
青ざめた顔で、格納庫の扉を目にする。
「アイツのあんなとこ、初めて見たな」
そう言いながら、アーシャは自分の腕を見る。
先日マキナから頂いた、追加兵装のガントレットが目に映る。
「マキナにしては、意外と良い物送って来たな……添えてあった手紙はきもかったが」
手紙の内容『結婚指輪ではないが、主に送る、若きタイタンの勇者へ』と言う文面を思い出した。
寒気に襲われながらも、アーシャは足を進める。
「ま、まぁ、コイツのテストとか有るのは本当だし、さっさと戻るか」
ガントレットをいじるのを止め、アーシャは拳を握り締める。
「今度は、誰にも奪わせやしない」




