88 カインの死と新世界 カインside
カイン視点です。カインの意識が戻ります。
81 俺だけが主人公の世界 敦忠side
の内容を大幅に変更しました。複雑で申し訳ありません。よかったらチェック下さい。
そしてぜひ活動報告もチェック下さい m(_ _)m
実は、俺は”カイン”ではない。
”カイン”はこの度王位についたばかりだ。
エヴァグリーン国は代々王位を男子継承でのみ続けてきた為、これまでの慣習通りに唯一の王族の男子であるカインが王太子を経て王となった。
しかし、
それよりずっと前にカインは死んでいたと知ったら、皆が驚くだろう。
本物のカインが死んだのは4歳で、今から8年前のこと。エヴァグリーン国で政変が起きその戦闘に巻き込まれたのだ。
国内を二分する争乱は混迷を極め、多くの国民と城内にいた者の大半が亡くなるという痛ましい悲劇だった。
そこで、当時のアリス王女が思いついた国民を救う方法は、自分が人形を作って魂を引き寄せて死者を蘇らせることだった。
父王と王弟を始め、次々と国民を生き返らせる中、
アリスは近しい関係であるはずの従姉弟カインを生き返らせるのに───失敗した。
『生き返らせられない………どうして……?』
彼女は俺を見て泣いていた。
『ああ、私のせいでカインの魂は何処かへいってしまう······』
止めどもなく零れ落ちる涙。
『ねえさん、ごめんね··········』
4歳の身体をした俺が謝る。
俺は前世から呼び寄せられた”敦忠”の魂だった。
姉さんはカインの魂じゃなく敦忠を呼び寄せてしまったのだ。カインは前世なんて持たない普通の少年だったのに。
それは、アリスにとって従姉弟という存在がかつての敦忠と似通っていたからかもしれない。
カインは生まれてからずっと病弱で、公式の場どころかちょっとしたお茶会にすら出たことが無かった。姉さんはカインの面影すら知らず手掛かりがほとんど無い状態で、どうしても死の国へ旅立つ前のカインの魂を呼び寄せることが出来なかったのだ。
何度も何度も、カインの人形を作り直し続ける姉さんを見て、俺は『姉さん』と呼ぶのを止めた。
俺はカインになることに決めた。
そして敦忠としての前世の記憶を心の奥底に封じ込めた。
それから、王の養子に入ると決定するまでは、アリスに会うことはほとんどなかった。
木人形のカインの身体は俺と相性が悪く、魂が安定するまでずっと病床に臥せっていたからだ。
俺が再び前世の記憶を取り戻したのは、あのツリーの下でアリスと再会した時だったのだ。
「うっ……」
俺は最悪な気分で目を覚ました。
仰向けで、どこかに寝ている状態だ。
辺りには白い霧が立ち込めていた。
「……ここは……どこだ?」
起き上がって、何とか頭を働かせる。
俺は戴冠式の祝賀会に参加していたはずだった。
(人気が感じられない。やけに静かだな……)
ひんやりして湿った風が吹いている。
俺は、かつてのあの山小屋のある山野に迷い込んだような感覚になっていた。
「おい······起きろ!!!」
「え?」
唐突に背後から大きな声を投げかけられ、俺は目を見張る。
霧の中から、地面にしゃがみ込んでいた俺を見下ろしていたのは、
大きくなった俺の姿……”カイン”だった。
「早くしろ。
お前が目を覚まさないとアリス様が連れて行かれる」
「なんだって?」
俺はまじまじと男の顔を眺めるが、その男の表情は固く冷え切っている。
(………おっと、こいつはミシェルだったか)
そうだった。
最近、アリスが俺に似せて木人形を作ってやった隣国の国家元首だ。
ところでどうして、この男は俺に憎しみの表情を向けているのか。まるで長年の親の仇みたいに。
「───────────もしかして、
お前が、本物のカイン、じゃないか?」
どうしてだろう。
そんな質問が口をついた。
俺の声は震えた。
ずっと、苦しかった。
罪悪感を纏いつつも、今世でもアリスの家族のフリをしていたんだ、俺は。
それもこれも、義弟“カイン”に執着するアリスを独りぼっちにしないためだった。
(しかし、本物のカインが居たのなら、俺なんかお払い箱だろう)
俺は心の中で苦々しく呟いた。
ところが、ミシェルも苦々しそうに吐き捨てる。
「────────いいや、違う。
正確には、私も、カインではない」
ミシェルがいつも俺にきつく当たっていたのは、自らが本当のカインで、カインの身体を乗っ取った俺を面白く思っていないからでは?
それなら、ミシェルが奇妙なくらいアリスに執着していたのにも納得がいくのだが。
(でも、こいつはカインの魂ではない? じゃあ……?)
男の顔は苦しそうに歪んでいる。
きっと俺の顔も歪んでいるだろう。
恐らくは、俺たちの歪みは、
まるで鏡を見るようにぴったり一致しているのではないか。
「「………もしかして、”敦忠”………」」
そして、俺とこいつはこれ以上ないというくらいに声が合ってしまった。
「そうだ、俺も、“敦忠”だ。
そして、お前は別の世界の“敦忠”だ」
ミシェルは奇妙な発言を続ける。
「────お前が異質だということは魔女から聞いていた。
それで私も知ったのだ、【パラレルワールド】の存在を」
「はあ?【パラレルワールド】?」
突拍子もない話だが……
ミシェルが言うには、
自分たちが生きている現在の時空とは別に、それと並行して存在しているとされる【別の世界】があるという。
ある選択や出来事を境に歴史が分岐し、別の可能性をたどった世界だというのだ。
「この世界の“敦忠”は、既に私…ミシェルという人物に生まれ変わっていた為、アリス様に魂が呼ばれてもカインに憑依することはなかった。
しかしアリス様の力は凄まじい。
時空を超え、【パラレルワールド】からわざわざ別の”敦忠”の魂を呼んでしまったのだから」
ミシェルの口調は落ち着いている。
それに反して、俺は酷く動揺した。
別の世界の“敦忠”…………?
……………それが、お、俺!?
「ウ•ゥ•ゥ••••••••••ウウウ」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・・
苦しそうに唸りながら、女が転がり出てきた。
髪をみっともなく乱し貧相に痩せこけた老婆だ。
「こ、この大魔女、アラディア様の魔力が枯れてしまい、こんな惨めな姿になるとは、許すまじ!白髪の神•••••••!」
老婆は、憎しみから、それとも老化なのか、わなわな身を震わせている。
「え!?だ、大魔女!?こ、こいつは誰だ??」
真剣な局面に割って入ってこられるのは迷惑千万。
「彼女は、この世界を創造した神……というより魔女だ」
「マ・魔女!!!?」
信じられない。
魔女なんて、おとぎ話ぐらいにしか出てこない空想上の存在のはずだ。
「そうよ・・・・愚かなカイン王・・・・
全てはあの、白い霧に包まれた山小屋で起きた事件から始まったのよ・・・・」
嗄れた声、老婆は睨めつけるような眼差しで俺を見る。
「右月が世界を分岐させたの」
「う、右月と、世界に何の関係があるって言うんだ!!」
右月とはアリスの前世の名前だ。
こんな性悪そうな老婆と右月に前世の因縁があると思いたくない。
「右月は私のお母様なの!関係大アリよ!」
老婆に相応しからぬ異常な大声に、俺はゾッとする。
「お母様はね、たくさんの神様の試作を作ったの。
その内、二つの強力な力を持つ“オシラサマ”が完成した••••••••
一方は、魔女
もう一方は、童女の神様
相反する不思議な力。
私たちは反発しあい、それがきっかけになり世界が分岐した」
「オシラサマ?」
「あの地域には、古くから木人形で神を作る風習があったのだ。それが“オシラサマ”だ。だから白髪の神はその技法を利用して右月に神を作るよう強要していたのだ」
ミシェルは冷静に説明を加えた。
こいつは俺よりも詳細に前世の記憶を持っている。
本当に俺たちは同じく“敦忠”なのだろうか?
「つまり────ここに魔女がいるから、この世界は”魔女の作った世界”ということだ。
そして恐らくは、”童女の神様が作った世界”も時空のどこかに存在すると考えられるのだ」
「はあ!?
じゃ、じゃあ、俺が生まれていた世界は?
その、”童女の神様が作った世界”だというのか?
そっちは今頃どうなってるんだ!?」
「さあ、何処にあるかも分からない。
【パラレルワールド】というのは、本来ならそう簡単に往来できるものではないんだ」
「そ、そんな•••••」
「まあ、少なくとも、魔女が作ったこんな(稚拙な)世界ではないだろうな……ハハハ………」
ミシェルは顔を歪めて空嗤う。
「オーーーホーーーホッホッホッホッホ!」
魔女もつられて意味不明に笑う。
「止めてくれ•••••」
俺は頭を抱えた。
確かに魔女が作るより、神様が作った方が正しくより良い世界になっていそうだよな。
でも、それならなぜ、俺は元いた世界についての記憶がないんだ?
もしかしてその世界にも”別の彼女”はいるのだろうか?
「ああ••••••アリス••••••••どこにいるんだ••••••••••」
俺はうわ言のようにアリスの名を呼んでいた。
情報を処理しきれない。頭が痛い。
(こんな話をどうやって信じたらいい?
俺はまだ眠っていて、
悪い夢でも見ているのではないだろうか?)
霧は一層深くなっていくように思えた。
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