87 残酷な神が支配する ミシェルside
ミシェル視点です。
前王は娘であるアリス様へ、しっかりと頷いた。
先日まで始終ぼうとしていた木偶の坊の木人形でしかなかったくせに、今や息を吹き返し目を輝かせて明晰に語り出す。
「さあ、アリス、
バアル氏の言う通りにしよう。
カインの回復が何よりも最優先だよ。
そして地球の人類の未来のためにも、誰も彼もみんな彼らの宇宙開発に協力すべきなのだ」
すると、バアル氏は皆の前に悠然と躍り出た。
「その通りです!
おそれながら、私が先王様と弟殿下へ魂の召喚を行ったのですよ。
サァ!この成果!とくとご覧になってください!」
いつの間にバアル氏は彼らと接触していたのか。
呆れた茶番としか思えない。
「そ、そんな……
魂の召喚方法をバアルさんが習得しているなんて、本当なのですか?」
アリス様は大変驚いている様子だ。
それはそうだろう。
死者の魂の召喚だなんて、そう簡単に出来るはずがない。
あらゆる富とハイテク技術が集結する支配階級の頂点に君臨する国家元首たる俺でも、そんな事が出来ると断言できるのはアリス様ぐらいなのだ。
しかしアリス様でも、現在はやり方を忘れて召喚することができないとのことだが。
「………ノア•エヴァ•グリーン先王………」
俺はかつてのエヴァグリーン国王の名を呟くと、男は滑らかな動きで振り向いた。
「ミシェル殿、申し訳ない。
二国間の重大な盟約があるのはもちろん承知しているが……、事は一刻を争う。我が国としては新王カインの命が一大事だ。
国の命運と天秤にかければ等しく釣り合うほどに。
どうか、条約の内容を見直していただけないだろうか?」
ノア先王は、バアル氏の提案を受け入れ、カイン王の回復の為、アリス様を研究へ協力させ、アリス様とカインを世界宇宙開発事業団の研究所のあるカメリア合州国へ連れて行きたいということのようだ。
しかし、現時点でカイン王の後見人は俺であり、アリス様は人質としてディスィジュエス共和国へ置かれることになっている。
ディスィジュエス共和国側の承認無しに二人が国を離れれば、条約が破られ二国間の関係は悪化するだろう。
最悪、戦争へと発展する可能性もゼロではない。
「…………貴国に非常に不利な条件になるが?」
「致し方ない。ご迷惑をおかけする」
誇り高きノア先王はきっぱりと言うと、頭を深々と下げた。
「…………」
死者のくせに、いるのといないのとでは大違いだ。一度決まった重大事を覆すとは。
これからバアル氏も横槍を入れての再協議は厄介で手間も時間もかかるだろう。
そして、カメリア合州国が介入する危惧がある。
俺は憮然とした。
王冠を戴いたばかりの新王カインが病を患ったことで、アリス様とカイン自身の身柄や国家の存亡までも先王の背に移ってしまった。
ああ、やはり、木人形を作ったのがいけなかったのだ。
アリス様はとんでもないことをしでかしてくれた。
「やあ、こんなに御父上が賛成してくれているのです。カイン王の治療はぜひ我々、世界宇宙開発事業団にお任せください。
さあ、アリス様」
「え、ええと」
アリス様は躊躇している。
なんて奴らにとって都合の良い展開だろう。
まさか仕組まれていた?いつから?
こんなに屈辱的な気分になるのはいつぶりなのか。
とはいえ、俺はこの世界の主人公だ。
超大国の国家元首でもある。
重要な鍵はいつも俺が握っている。
ただ、この力を一度振るえば、強者と弱者という酷く単純な世界になってしまう。
それが嫌なのだ。
支配者として世界を権力という一色で染め上げてしまうのは、味気ない三文芝居だ。
それこそ魔女の書きなぐった陳腐なおとぎ話になってしまう。
俺が求めているのはそういう事ではないのだ………
俺は魔女の様子が気になって振り返った。
(………………どこだ?)
不意に、霧がみるみる立ち込めていく。
「あん!?な、なんで煙が、もくもくなのよ!!」
魔女の金切り声が響いた。
「ムム!?全く見えないぞ!」
バアル氏も似合わず動揺しているような声色だ。
ドタドタ、バタバタバタ•••••••••!
床を行ったり来たりする、床板の足音だけが響いたが、それも徐々に遠くなっていく。
気づいた頃には、部屋中に白い霧が充満しており、室内に居た者たちは互いの姿が白い霧に霞んで見えなくなっていた。
俺は目を凝らして、なんとか自分の位置を見出そうとするが、どこもかしこも真っ白だ。
(どういうことなんだ……部屋が広く感じる。
まるであの森を彷徨っているようだ)
俺は、かつてのあの山小屋の辺りの山野に迷い込んだような感覚になっていた。
「ねえ••••••••••、アリス••••••••」
(アシェル!?どこだ?)
アシェルの声が聞こえ、
俺はアシェルを探すが、かける声は霧に吸収されるように少しも響かず掻き消された。
「僕は•••••••••••
君の意思を尊重したいんだ•••••••••••••••
そうだよ、本気で、そう思ってるんだよ?•••••••••••••••••」
乞い願うような、アシェルの情けない声が響く。
「ねえ•••••••••••••••、
アリス••••••••••••••
本心を言ってよ••••••••••••••」
「うぅ」
アリス様のうめき声が微かに耳まで届いた。
(アリス様!?)
俺は慌てた。
どんなに口を開けても、やはり俺の声は届かない。
もしや、アリス様が苦しんでいるのではないか?
アリス様は先程までアシェルによって羽交い締めになっていたではないか。
(まずいな、アシェルが暴走している?)
今、霧の中で何が起こっているのか知る由もない。
「ねぇ••••••••••••?
僕とゆっくり話し合おう•••••••••••••?」
「どこ!?白髪の神!?
私を閉じ込めたつもり!!?
あなたは偽物の身体では何も出来やしないわ!この大魔女、アラディアにとっては脅威でもなんでもないわ••••••••••••••••うグゥッッ!?」
「うるさい」
「ゲ……!」
途端に魔女は静かになる。
(何が起きてるんだ!?)
「さあ、アリス
••••••••••••••••••ここに座って•••••••••••••••」
ズズズッ
木製の椅子の足が床を擦る音が聞こえる。
やはり、ここは森などではなく部屋の中なのだと、俺は我に返る。
しかし、
俺の耳ではっきりとアシェルの声聞こえたのは、
ここまでだ。
ボソボソボソ·······ボソボソ·······ボソボソ··········
後は、小声で話し合っているような小さなひそひそ声だ。
アリス様とアシェルは、二人で何を話し合っているのだろう?
耳をどれだけ澄まそうとも、俺には聞き取れなかった。
「待て!!アリス様をどうするつもりなんだ、アシェル!!!」
俺は二人に辿り着こうと、両手を前に突き出して弄り、闇雲に辺りを歩き廻った。
「!」
何かにぶつかった。
「ルゥ、王弟殿下?」
不意に、霧の中からルゥ殿下が現れる。
彼はまるで銅像のように直立不動で俺は思わずぎょっと驚く。
話しかけても視線は虚ろで無表情のままだ。
仕方なく他を探そうと霧の中を進むと、すぐに前王であるノア先王陛下にぶつかる。
「先王陛下?」
彼もまた、俺の呼びかけには応じず硬直している。
先程までの活気のある様子とは打って変わり、青白い顔からは生気が消え去っていた。
(マネキンみたいで気味が悪いな)
「ウ•ゥ•ゥ·······ウウウ」
そのすぐ後、魔女に出会すが、彼女は項垂れて蹲って唸っていた。
先程は白髪の神からどんな攻撃を受けたのか、ダメージは甚大そうだ。
(何なんだこの状況は…………)
そうして、俺こそも途方に暮れて立ちすくんだ頃。
「••••••••••••••じゃあ、交渉成立だよ•••••••••••」
そう、アシェルの声が聞こえたと思うと、
たちまち霧が晴れてきた。
その声が合図だったかのように、
林立する幾つかの黒い影が弾かれたように動き始める様子が、必死で目を凝らした俺の目に映る。
「アリス様!」
そこにアリス様の姿を探す。
しかしそこに居るは、
全身に白い煙を纏った人の影だった。
「………え?」
人型の煙が一体、
おろおろと立ちすくんでいるではないか。
隣にはアシェルが立っている。
「これは何だ?
アシェル、お前の眷族的な奴か?」
俺はアシェルに駆け寄った。
「何言ってるの?アリス様だよ」
アシェルは平然と答えた。
「………ア、アリス様だって!?」
「ううう••••••」
何と、うめき声なのに鈴のようで可愛らしい。
「み、みんな………どこ………?」
一人だけ霧が晴れていないのか?
どうやら、
この白い綿あめのような物体の中心には
アリス様がいるようだ。
不定期投稿でご迷惑をおかけしております m(_ _)m
読んでいただきありがとうございます!
よかったらXへもお越しください♪
⬇⬇⬇ずずいっとスクロールしていただき、広告の下をクリックしてみて下さい。





