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王女アリスはツリーの下で前世の夢を見る  作者: 漆あんか
第二章

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89/89

89 選ばれることのないガラクタたち アリスside

アリス視点です!

87話の違う視点です。


(まさか、まさかまさかまさか、•••••••••アシェルが白髪の神様だったなんて••••••••••)


白い霧の中に立っていた白髪のアシェルは、みるみる青年の姿となり壮年の美しい男性の姿へと変貌した。


これは、前世で私を森の工房へ監禁し使役させた、

残酷な白髪の神、まさにその張本人ではないか。


(アシェルは私を騙してたの?)

確かに、考えてみればアシェルはどこか人離れしたところのある男の子だった。

出会った時から、私のことをずっと昔から知っているような素振りだったのも今なら頷ける。



この深い深い霧は

あの岩手の山奥を思わせる。


私は次第に前世の記憶を思い出していく。

前世の日本で未曾有の大地震が起きたのも、この白髪の神様が引き起こした惨劇だった。

私の人生に纏わる全て、街も人も建物もその一瞬の地震で壊れてしまったのだ。



✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧・━・✧


『や、やめてーーーーっっ!!!』


月夜に宙に浮んで、クルリ、一つ宙返り、

白髪の神様は

地震で持ち堪えていた東京スカイツリーを

手の仕草のみでポキリと折った。


そして今度は東京タワーをも、ポキリ。

バラバラバラ…………

瓦礫が下の街へ降り注ぐ。


今夜は上空に巨大な満月が怪しく光る。

地上では人々が余震に逃げ惑っている。


夜空に引き上げられて宙に浮かんだ私は、

その地上の様子を呆然と眺めていた。


『ああ、ここは危険だな。

君を壊したくない。

安全な所に連れて行っていい?』


自分で破壊したのに、イカれてる………


薄ら笑いを浮かべる、

この白髪の男は自らを”神”だと名乗った。


神というより悪魔。

これだと軽〜く地球が人類が滅亡するかも………

こ、ここは穏便に

大人しくするしかない。


「ハ、·········ハ···········ィ···」

人ならざる異様な眼に鋭く睨みつけられ、私は震える口を開いて、何とか声と一緒に息を吐き出し呼吸する。


「ハイ」がちゃんと言えなかったのに、

了承と解釈した彼に抱き竦められ、

風のように私は拐われた。


それからずっと、

山奥、誰もいないような森の中の工房で

神様を製造するように使役させられたのだ。



✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦




「••••••••••••••じゃあ、交渉成立だよ••••••••••••」


無情にも、白髪の神様となったアシェルの冷酷な声が響いた。


「さぁ、立って?」

「う•••••うう••••••••」

アシェルは私を椅子から、引き上げるように立ち上がらせる。


私は絶望に打ちひしがれた。

彼はとても冷酷な神なのだ。

今世でも、どんな目に遭うか分からない。


(あの森で何があったんだっけ?)

頭を働かせると、様々な記憶が呼び覚まされてくる。


前世での私の最期の記憶は、

山奥まで探しに来てくれた敦忠と一緒に獣道を逃げて、崖から足を滑らせて落ちていった────ところで終わっていた。


「そうだ、カイン、どこ……………」

私は我に返って、今世での敦忠であるカインを探す。


「ふ〜ん、カインがそんなに大事なの?

フフフ………、それなら、僕の言う事をちゃんと聞かないとね?」

軽やかな口調。

白髪の神様はいつの間にか少年のアインの姿に戻っていた。


「…………アシェル 約束、は…………」

私の声は震えている。


「もちろん、アリスが約束を守ってくれたら、必ず僕も守るよ?」


アシェルの声色はいつも通り優しいままで、却って恐怖心を際立たせる。

ああ、慣れ親しんだ優しいアシェルは彼の心に残っているのだろうか?


「み、みんな………どこ………?」

アシェルから離れようと歩き出した。辺りを見渡したけれど、深い霧に邪魔されて、視界は一向に晴れる様子がない。


風と共に冷たくて湿った土の匂いが届く。

まるで深い深い森の中にいるように、ひっそりと、とても静かだ。


ここは元いた部屋ではない。

私だけ瞬間移動させられてしまったとか?

森に独りぼっちに取り残されちゃったの?


私が一体、この神様に何をしたというのか。

この神に狙われたのは、

偶然?必然?

輪廻まで飛び越えて、

再び巡り合って、

執拗に嫌がらせを受けているなんて、

なんという腐れ縁、恐ろしい宿命なのだろうか。



不意に闇い考えが浮かんで、私の足は止まる。


「………………ねえ、みんな、い、生きているよね………………………?」

私はか細い声で、乞い願うように尋ねる。


「ふふっ、酷いなあ。

本当に、僕にそんな酷いことができると思う?」


声がして振り返れば、

アシェルは私のすぐ後をついて来ていた。


「………ああ、君は全てを思い出したから仕方ないか……………………

かつて、前世の日本に大地震を起こして、みんな、みんなを、殺したのは僕だったから…………………」


それを聞いて私は血の気が引く。


「…………や、約束よね?

もう、誰も、こ、こ、殺さないって………………………………」


私は懇願し、何度でもこの約束を確認したい。


私たちの契約は

アシェルは【誰も殺さないこと】

私は【アシェルと結婚すること】


「ねえ、どうして、今更、結婚、なのよ…………!?」

あまりにも能天気な内容だ。

世界の存亡をかけた契約に、【結婚】なんて、無神経な趣味の悪い冗談みたいだ。


「だって、

随分前に、僕たちは結婚の約束をしてたよね?

────神とは人間との契約を、何があっても果たそうとする生き物なんだ」


そう語る、アシェルは嘲るような笑い顔を見せた。




「ア、アリス様………なぜ、こんなことに………」


不意に、

酷く動揺した様子のミシェルの声がする。


私の眼前の霧の向こうへ目を凝らせば、私の周りで狼狽える人の影が、かろうじて確認することができた。


「こんなことって?」

私は不思議に思って聞く。

どうやら、外から見ると私は異常な状態に見えるようだ。

霧が私の周りだけ晴れていないらしい。

しかも、ここはさっきまでと変わらない、カインが介抱を受けていた部屋の中だという。


「それは、きっとアシェルが………… …………」

私は経緯を話そうと声を出したけれど、私の声は眼前の霧にかき消されてしまう。


(も、もしかして、アシェルにとって都合の悪い発言は言えないようになっているの?)


私をこんな風に不自由な状態にしたのはアシェルだと伝えようとしたのに続きの声が出なかった。


「アシェルのせいなのですか!?

アリス様!………何とか言ってください!」


ミシェルは私の身体へ手を伸ばそうとしたけれど、宙を掴むように空振りする。


「!?なぜ!?」


「無駄だよ。アリスはここに居て、ここに居ないような異空間にいる状態だからね。

このアリスを取り巻く霧の中は、かつてのあの工房の森の中にタイムスリップした状態なんだ」


「?どういうことだ?」


「こんな、魔女の作った穢れた世界にアリスを置いておくわけにはいかないでしょ?

ああ、あの時、僕が自暴自棄にさえなっていなければ、勝手なことはさせなかったのに────」

アシェルは悔しそうに地団駄を踏んだ。


「アシェル……………………後悔しているのか?

世界を滅ぼしたこと……………………」

ミシェルが慎重に尋ねる。


「ううん、それは後悔していないんだ。

僕が後悔しているのは、あの崖から堕ちた後、彼女の魂を放ったらかしにしたことだよ。

今までは、きちんと次の転生の用意してあげていたのに、あの時は、それができないくらい僕の絶望は深かったから•••••••」


「…………………●●なんて、初めてで………………」

アシェルはぼそっと呟いた。

 

「俺と彼女が”心中”したことか?」


「!違う!」

ミシェルの発言をアシェルは直ぐ様否定した。


(ミシェルと彼女が心中……って、何の話?)

私は首を傾げる。


「でも、それにしてもこの世界は酷すぎるよ。

だからもう一度、僕がこの世界を作り直そうと思ってるんだ」


「な••••••••••なんですってェェェェ!!?」

ラルラ様(魔女)の奇声が響く。


「彼女のことを一目でも見る奴がいないような、今度はそんな平和で尊い世界にしようかな」


「やめなさい、アシェル」


「ほ~ら!断言するわ!あんたの世界の方が何万倍も悍ましい世界になるわよ!絶対に!」


ミシェルも、ラルラ様も、食い下がる。


「•••••••••••心外だなあ。

お前たちさぁ、立場分かってる?

僕はこの世界を統べる偉大なる神なんだ。

いや、世界というより•••••全地球かな?

地球に無限に転がるパラレルワールドたち•••••••••••

どの世界も僕が作ったガラクタで•••••••••••

どの世界も彼女に選ばれることはない•••••••••••」


そう、独り言のように呟いた。

アシェルの表情は、光の射さない無限の闇を覗くように暗かった。



不定期投稿でご迷惑をおかけしております m(_ _)m


読んでいただきありがとうございます!

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