目覚め
耳元で何度も、同じ音が繰り返されている。
『ピピピピ』と言う電子音が絶えることなく続く。
徹夜続きの俺にとって、その音は騒音以外の何者でもなかった。
覚醒しない意識の中、薄っすらと考える。
果たして俺は、目覚ましをかけただろうか、と。
だがすぐにその考えも、意識の底へと消えてゆく。
音によってかき消されるのだ。
「……うる、せぇ……なぁ」
薄っすらと目を開けて、近くにあるであろうスマホを手触りだけで探す。
だがベッドの上をいくら探しても、音の原因は見つからない。
下の方を探そうと手を伸ばし、そのまま床へと落下した。
「あいたっ!?……いってぇ……」
床に落ちたことにより、目を覚ました俺は立ち上がる。
痛みによって目が覚めた俺は、目を見開いた。
目線の先にあったものは見慣れない天井だった。
明らか様に俺の部屋ではなかったのだ。
「ここは、どこだ?」
目を軽く擦って立ち上がる。
部屋を見渡してみるとかなり整っていた。
基本的に綺麗で見たこともない部屋だ。
カーテンの隙間から漏れる光が、そんな部屋を照らしていた。
突然のことで理解できずにいると、ドアが勢いよく開かれる。
「にぃ!うるさいよっ!」
「へ……?」
そう言って現れたのは少し怒ったような表情をした茶髪の少女。
見たことはないが、一目見て言えることがある。
それは美少女である、と言うことだ。
そんな彼女は首を傾げると、俺の目の前までやってくる。
「にぃ?大丈夫?」
「……えっと、誰?」
「…………」
俺の言葉に少し驚いたような顔をする。
かと思ったらくるりと反対側を向くと走り出した。
「おかーさーんっ!!にぃがおかしくなったぁっ!!」
ドタドタドタ、と足音を立てながら去って行った。
俺は呆然としたまま理解できずに立ち尽くす。
一先ず状況を理解すべく、捜索を始めようと動こうとする。
そこで体の違和感に気づく。
さっきから妙に体の調子が良いのだ。
まるで新しい体のように。
「目覚めが気持ちいいなんて何日、いや何年振りなんだ……?」
そんなことを呟きながら周囲を見渡す。
未だに音は鳴っていることに気づいて、音の正体を探す。
音の正体は枕の下に存在していた。
「なんだこれ」
まるでスマホのようなデバイスが一つ。
動きはスマホとほとんど同じだ。
唯一違う点は一切固まらない点だろうか。
とてもスラスラ動いている。
が、今探しているものはこれではない、とアラームを止めてベッドの上に置く。
「日記とかあればいいんだが……ん?」
机の上の、一冊のノートに目がつく。
表紙には『51』と番号が書かれていた。
名前の部分には『エルク・レストリア』とまるで外国人のような名前が書かれていた。
何処かで聞いたことがあるような気もしたが、これといって思いつかなかった。
ノートを開けて見た俺は、一番最初に目に付いた言葉に息を飲む。
「……何の、冗談なんだよ」
まず最初に書かれていたのは『日閃異能高等学園』と言う名前。
知らないはずがない。
何十回、何百回と見てきた名前だ。
何故ならそれはーー
「『異能少女の恋愛戦線』と同じじゃないか……ッ!!」
今の今までやり続けていたゲーム。
あれの舞台と同じ名前だったのだ。
俺は急いで次のページを開く。
「これは、家族のことか?何でこんなことを……」
どうやらさっき現れた美少女は、妹のようだ。
俺ではない、俺の『体』の。
名前はイア・レストリアとのこと。
更に読み進めると、自身のことが書かれている。
好きなものや嫌いなものなど。
何の偶然か、それらは俺自身の一致していた。
「どんな学校に通っていたか、友人関係などに付いても事細かに全部記されている……」
それによると、俺はさっき言った学園に通うことになっているらしい。
ゲームの舞台であるあの学園に。
スマホで日にちを確認する。
「年、日にち共に一致……一番最初のところだ」
だんだんと理解して行く。
自身がどんな状況に置かれているのか。
「信じたくはない。だが、ここまで来ると夢だと言うことすらできない」
俺はこれまでの情報から結論を見出す。
今まで信じたことはなかったが、これしかなかったのだ。
「……俺は、転生したのか」
『転生』。
それが今最もわかりやすい答えであった。




