プロローグ
「……遂に、終わった」
PC画面を目の前にして、俺は力なく画面を見つめた。
キーボードの隣には空になったエナジードリンクが数本。
何日寝ていないのか、もう覚えてはいない。
三日を過ぎた辺りから数えていないのだから当然だろう。
「ルート分岐、し過ぎだろ……」
マウスを動かし、徹底的に作り上げたメモ帳を開く。
中身を見れば蜘蛛の巣の如く張り巡らされたチャートがある。
これはどのルートに分岐するかをひたすら調べ上げた末にできたものだ。
俺がこれを作り上げたのは、誰も理解できないゲームを攻略するためだった。
ある日ネット上には張り出されたギャルゲー。
タイトルは『異能少女の恋愛戦線』と言う近未来日本に似た、ファンタジー異世界の学園が舞台のギャルゲーである。
攻略対象は八人、描かれた少女たちは明らかに神絵師が描いたようなもの。
設定自体は結構メジャーなもののかなりの好評を得たゲームになっていた。
そんな時、一人があることに気づいた。
製作者が書かれていなかったのだ。
エンディングを見ても、流れてくるのは何故か制作の経緯。
そこでこのゲームをプレイしていた人たちの一人が掲示板にこう書き込んだ。
『これ全員生存エンド、ハーレムエンドいったら製作者出てくんじゃね』と。
このゲーム、誰かヒロインを一人に定めると誰かが絶対に死ぬのだ。
と言うか、何度プレイしようと絶対と言っていいほどに全員生存エンドの道筋が見えて来ないのだ。
そこで俺を含めた廃人たちは徹底的に調べ上げることにした。
結果として、俺は見事に調べ上げ全員生存エンド、ハーレムエンドを見つけ出したのだ。
ちなみに、解析などは一切できなかったらしい。
曰く、未知のプログラムだとかなんとか。
そんなことはどうでもいいのだが。
「……はぁ」
よくわからないため息をついて、十本目のエナジードリンクを飲み干す。
画面を見つめると幸せそうな少女たちの一枚目が表示されている。
精神が限界に来てなかったらきっと泣いていただろう。
神ゲーととるか、クソゲーととるか、判定難しいゲームでもあった。
「フラグ毎にストーリーがもエンディングも違うのはいいんだが……流石に疲れた……」
眠くなってきた意識を無理にでも起こし、その画面を見つめる。
エピローグが長いこと続いている。
だがそれも終わりを迎え、遂にエンディングが流れ始めた。
と、思っていたのだ。
「……ん?え、は?」
俺はその流れてきたものを見て困惑した。
流れてきた文字列、最初に書かれていたのは俺のフルネーム。
そして生年月日に好きなものや嫌いなものだったからだ。
「ちょっ、ちょっと前待てよっ!?な、なんだこれ!?」
画面を食い入るように見つめる。
流れは止まる気配がしない。
自身のプロフィールを流したエンディングは、次に年代と何が起きたかを表示し始めた。
しかも全て俺に関する出来事ばかりだ。
まるで今まで見てきたと言わんばかりに。
「おい……おいおいおい、なんなんだこれッ!?止まっ、止まれよッ!!」
キーボードを叩くが反応は一切しない。
混乱していた俺はコードを全て引き抜く。
だが画面は付いたままでエンディングが流れて続けていた。
二十五歳。
現在の俺の年齢。
数十分かけてそこまで辿り着いていた。
最後に流れてきた文字列は『9月13日:異能少女の恋愛戦線完全クリア』だった。
そしてこの言葉で締めくくられる。
「『THANK YOU FOR PLAYING』だと……一体、何の冗談なんだ」
目頭を押さえ天井を見つめる。
一体どうしたものかと、悩んだ。
後は作り上げてきた攻略チャートを貼るだけ、と思っていたのだが。
「貼れねぇよなぁ……」
あまりにも意味がわからな過ぎたのだ。
自身の今まで人生が表示されるなんてこと、普通ありえない。
製作者は俺のことを見てきていた人となる。
考えれば考えるほどわけがわからなくなって行く。
「……取り敢えず、なんか書き込もうかな」
そう思ってマウスを動かすが動かない。
キーボードを叩いても反応しない。
そこで思い出す、コードを全て引っこ抜いたことを。
「コード引っこ抜いたらそりゃ動かない……よ、な?」
コードを引っこ抜いたはず、だった。
なのに未だ画面は動き続けている。
混乱していたせいで引っこ抜いたことを認識していなかった。
未だ付いたままの画面を見れば文字化けした文字列を映し続けていた。
だがもう、それがどんなものか解析するような気力はなかった。
俺は立ち上がると、フラフラと歩いてベッドに倒れる。
エナジードリンクを大量に飲んだせいか、頭がおかしくなりそうだ。
いや、もう既におかしくなっているのかもしれない。
「……少し、寝るか……」
俺はゆっくりと瞼を閉じて行く。
いつもの寝る感覚とはちょっと違った感覚。
どんな快感すらも超越しそうな心地良さ。
俺はその心地良さをその身で感じながら眠りに落ちた。




