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遠足(夏)(2)

今日もようやく更新完了です。やばいほど忙しい。でも、なんとか書き溜めたところまでは頑張って更新し続けます。

「ふー、やれやれ。何をやっても予定通りにいかないね、このクラスは。委員長もこれからが思いやられるね」

 そう言って、悪戯っぽく瞬に視線を向けたリノンさんに、瞬は

「だからこそ、やりがいがある・・・そう、思うようにします」

「へえー、なかなか立派なことをいうじゃないか。それも、先生の受け売りかい?」

「いいえ、母です」

「いいお母さんじゃないか」

「・・・はい」

 一瞬の間の後に、そう答えた瞬の様子に違和感を感じた。

もし、私だったらお母さんのことを褒めてもらったら、嬉しくて顔がにやけてしまうかもしれない。多分、ううん、きっと。だけど、この時の瞬の表情からは、嬉しさのようなものは感じられなかった。

無表情。少し違う。

 ほんの少しだけど、感情が読み取れる。きっとそれは、

(つらさ)

 理由は分からないけど、この時、瞬から感じられたのは何かに押しつぶされそうなつらさだった。

「大丈夫?」

 思わず、声をかけていた。瞬は不思議そうな顔しながらも、笑顔で「大丈夫ですよ」と答えた。

「それよりも、僕たちもそろそろ行きましょうか」

「う、うん。そうだね」

「はい。それでは、僕が先頭に立ちます。次に高山さんと、後藤さん。最後尾にリノンさんと、刹那さんでお願いします」

「はい、質問」

「なんですか、リノンさん」

「今回の並び方に、理由はあるのかい?」

「はい」

そう言うと瞬は、淡々と説明を始めた。

「今回の並び方のポイントは、後藤さんと高山さんをペアにするという点です」

瞬は、私と真友ちゃんに目を向けながら言葉を続けた。

「これは、お節介かもしれませんが、後藤さんは先ほどの一件で少なからずショックを受けている様子です。そこで、フォロー役として高山さんを選びました。高山さんなら、世界樹の元に返るまでの短い時間の間でも後藤さんの心の傷を癒してくれると思います。それと、つけ加えるなら、後方の警戒に関しては最後尾にリノンさんがいてくだされば問題はないと思います」

「なるほどね。けど、それだったら最後尾はあたし一人で、刹那をあんたと一緒に先頭に持ってきた方が全体的にはバランスがとれるんじゃないかい?」

 少し考えた後、瞬は刹那ちゃんのほうに向き直った。

「では、刹那さん、お願いできますか」

 コクリとうなずいた刹那ちゃんは瞬の隣にぴたりとくっついた。愛らしいその姿は、じゃれてついてくる子犬か、子猫のようだった。

「あ、いえ。そんなに、くっつかなくても大丈夫ですから」

 慌てて距離を置こうとする瞬に、刹那ちゃんは首をかしげた。

「いえ、別にくっついてはダメということではなくて、その・・・くっつく必要がないというだけで・・・上手く言えませんが、つまりそう言うことです。すみません」

 焦って支離滅裂なことを言っている瞬に真友ちゃんが声をかけた。

「瞬。たまには、他の女の子とも接点を持っておいたほうがいいわよ。でないと、女の子にもてなくなっちゃうわよ」

 真友ちゃんの声には、少しとげがあった。

「後藤さん。変なこと言わないでください」

「別に変なことじゃないわよ。瞬があたしにお節介を焼いてくれたから。あたしも、焼いてあげてるの」

 とげのある真友ちゃんの言葉の応酬に瞬は冷や汗をかきながら

「もしかして、怒ってますか?」

「もちろん」

「!!!」

「心当たりがないなんて言わないわよね。心遣いはありがたいけど、お節介も口に出して説明されたらただの嫌味よ。ということで、刹那ちゃん。委員長さんにしっかりとくっついていてあげてね。男っていうのは、そういうのが嬉しいみたいだから」

 刹那ちゃんはコクリとうなずくと、瞬の腕に自分の腕をからめた。

「ちょっと、刹那さん!高山さん、なんとかしてください!」

 んー。少し考えて「たまにはいいと思うよ。刹那ちゃんをお願いね」そう答えた。その途端、瞬は糸の切れた操り人形のように首と肩をガクリと落とした。

「・・・はい」

 力なくそう答えた瞬は、それきり口を閉じてしまった。そして、刹那ちゃんと腕を組みながらとぼとぼと歩き始めた。

「のぞちゃんて結構、えぐいこというよね」

 そう言って意外そうな顔を向ける真友ちゃんに、私は「そうでもないよ」とだけ答えた。

「それより、早く戻らないと」

 そう言って、私は瞬たちの後を追った。道すがら、瞬の狙い通り私は真友ちゃんの知己やミズキに対するやりきれない気持ちをいくつもいくつも尽きることがないくらい聞くことになった。私は、その度に「真友ちゃんなら、大丈夫だよ」と笑顔で答えていた。けれど、心の半分は別のことを思っていた。

(私って、やきもち焼きなのかな?)

 真友ちゃんの話を耳で聞き、口で答えながら、そんなことを考えていた。だって、さっきの瞬に対する態度は、やっぱり冷たかったかなと思うし。ミズキと知己が抱き合う姿を見て、胸の奥がチクリと痛むのを感じた。

(やっぱり、私は二人のことが好きなのかな?)

 そんなことも考える。だけど、真友ちゃんや、ミズキが知己に抱いている好きという感情とは、やっぱり違う気がする。

(・・・大切な仲間だから?)

 それだけだったら、こんな気持ちにはならないような気がする。

(家族?友だち?幼馴染?)

 どれも違うような気がする。

(やっぱり恋人?)

 ううん。やっぱり、違う。それは、断言できる。

(だって、もし、恋をするなら・・・)

 胸の奥に浮かび上がった姿に気づいて驚いた。あわてて、考えるのを止めた。だけど、胸のドキドキがおさまらない。自分でも顔が赤く火照っているのが分かる。

「どうしたの、のぞちゃん?わ、顔が赤いよ!大丈夫!」

 驚いた真友ちゃんが私の顔をしげしげと見つめた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 私はそう言いながら両手で顔を隠した。真友ちゃんに、心の奥底を覗かれるような気がしたから。


 私たちが世界樹の元に戻ったのは、それからしばらく経ってからのことだった。知己は世界樹の根元で静かに寝息を立てていた。ちゃっかり、ミズキは知己に膝枕をしてあげていた。

「今、眠ったところですよ」

 知己の前髪を優しくなで上げながらそう言ったミズキの横顔には、優しさと、愛おしさと、温かさ、そして、喜ばしさが重なり合っていた。

(ミズキ、幸せそう)

この場所に戻ってくると、不思議と優しい気持ちになる。

ふと、柔らかな風がそよぎ、森の香りが立ち込めた。

(いい、におい・・・)

 目を閉じて、世界を感じてみる。

(気持ちいいな)

あらためて、この世界樹によって作られた空間の快適さを感じた。巨大な世界樹によって作られた大きな木陰は、暑すぎることも、寒すぎることもない空間が保たれていて、自然と気持ちが優しくなってくる。

「不思議。心が優しい気持ちに包まれてくる」

「そりゃあ、そうさ。世界樹は生きとし生けるものを受け入れ、育ててくれる存在だからね」

 との、リノンさんの言葉に胸が熱くなった。

(何も言わないけれど、守ってくれてるんだ)

 そう思うと、世界樹の葉が風に揺れる音や、四方に伸びた根が作るなだらかな地面の起伏まで、その全てが優しさに包まれた温かいものに感じられた。

(まるで、お母さんみたいだ)

 そっと、知己の寝顔に目を向けると、まだ顔は少し赤かったけれど、穏やかな気持ちのいい様子がうかがえた。

(きっと、知己も私が感じたものと同じものを寝ながら感じ取ってるんだ)

 そんなことを考えた。そうこうしているうちに、誰とはなしに知己の周りに腰を下ろし始めた。

(早く、元気になってね。知己。)

 

 それからしばらくして、

「ねえ、ミズキ。代ろうか?」

 そう言ったのはミズキの隣に座ったのは、真友ちゃんだった。

「ご心配なく。大丈夫です」

 そう言って、ミズキは笑顔できっぱりと断った。

「でも、ずっと膝枕してたら足がしびれてこない?」

「全然、平気です。むしろ、こうやって好きな人の寝顔を眺めているだけで、胸の奥がぽかぽかしてきて夢見心地のような気分です」

 そう言って微笑みを浮かべたミズキの姿を見て

 イラッ

 私の心が、少しだけざわついた。私でもざわつくくらいなのだから、真友ちゃんは・・・

そろりと目を向けてみる。

(あちゃー)

 思った通りの、渋い表情。いろいろな感情が入り交ざって、しかめっ面になってしまっている。気持ちが、すぐに表に出るのは真友ちゃんのいいところでもあるけれど、悪いところでもあると思う。

「ふーん。そうなんだ」

 平静を装ってはいるけど、明らかに不機嫌そうな顔でそう言った真由ちゃんに、ミズキは笑顔で答えた。

「うらやましいですか?」

「な・・・」

 それきり言葉にならないまま口をパクパクさせている真友ちゃんに、ミズキはもう一度繰り返した。

「私のことがうらやましいですか?」

「う、う、うらやましくなんかないわよ!なんで、そんなこと思わなくちゃいけないの!」

 声を上げた真友ちゃんに、8

「しっ」

 ミズキが人差し指を口元にあてた。

「うーん」

知己が寝苦しそうに小さな唸り声をあげると、真友ちゃんはあわてて口を閉じた。幸い、知己は目を覚ますことなく、また静かな眠りについた。その様子を見て取ると、ミズキは真友ちゃんにぺこりと頭を下げた。

「ごめんなさい。私、いじわるしました」

 素直に謝るミズキに、真友ちゃんは何て答えたらいいのか分からないようで、複雑な表情を浮かべた。

「私は、うらやましいですよ。真友さんが」

「へ?」

 意表を突かれた言葉に、真友ちゃんは驚きの表情を浮かべた。ミズキは少し遠くに視線を向ると、まるで、そこに誰かがいるように語り始めた。


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