遠足(夏)(3)
眠気マックスで、今日はここまでの更新が限界です。明日も仕事なので、早く寝ます。いつも、つたない小説を読んでいただいてありがとうございます。
「私は、いつもうらやましがってばかりです。小さいころからそうでした。私は一人っ子だったから、兄弟がいる子がうらやましくて、背も小さくてあまり運動が得意ではなかったから外で元気いっぱいに遊んでいる子がうらやましくて、両親が仕事をしていて家に帰っても『おかりなさい』を言ってもらえなかったので、『おかえりなさい』を言ってもらえる子がうらやましくて・・・いつも、いつも、誰かのことをうらやましがってばかりまいました。今も、そうです。明るくて、活発で、綺麗で・・・何よりも知己さんのすぐそばにいられる真友さん。みんなから慕われ、信頼され、愛されている希望のことがうらやましくてしかたがないんです」
そう言って視線をまた私たちの方へと向けた。そして、さびしそうに微笑んだ。
「だからですよね。こんな得体のしれない翼を背負ってしまったのは・・・」
ミズキの背中の翼が細かく震え始めた。
「今は、静かにしていてちょうだい。大切な人の眠りを妨げたくないの。お願い」
ミズキが語りかけると、翼はまるで言葉が通じたみたいにピタリと震えるのを止めた。ミズキは「ありがとう」と翼に告げると、知己のほうへと視線を向けた。
「きっと、これは罰です」
小さいけれど、きっぱりとした声でミズキが言った。
「人のことをうらやましがってばかりいたことへの罰なんです」
思いつめたようなその言葉に、私は考えるよりも先に言葉を返していた。
「そんなことない。ミズキは何も悪くない。だって、そうでしょ。だれかのことをうらやましく思うことは、決して悪いことじゃないもの」
「そうよ」
真友ちゃんが続いた。
「あたしだって、ミズキのことがうらやましいもの。さっき、私に聞いたでしょ。『うらやましいですか』って。二回も聞いたわよね。そうよね」
念押しする真友ちゃんに、ミズキは小さく頷いた。
「当たり前でしょ。うらやましいに決まってるじゃない。ミズキが言った言葉をそっくりそのまま返してやるわよ。綺麗で、おしとやかで、まるでお姫様みたいなミズキ。自分の気持ちに真っ直ぐで、好きな人に好きだと胸を張って言えるミズキ。そんなミズキのことをうらやましくないわけないでしょ」
「・・・」
ミズキは黙って真友ちゃんの言葉に耳を傾けていた。
「うらやましいなんて、誰だって思うことよ。このあたしがうらやましがってるんだから、他の誰だってうらやましがってるに決まってるじゃない」
力強くそう言い切った真友ちゃんは、ミズキの手を握った。
「だから、気にしなくていいよ。ミズキ」
「はい」
ミズキは微笑みながら頷いた。
「そうですね。うらやましいと思うことは悪いことなのではないかもしれませんね。けど・・・」
それきりミズキは口を閉ざしてしまった。
「どうしたの?」
真友ちゃんが尋ねると「なんでもないです」と笑顔を見せた。
「それよりも、真友さん」
「何?」
「膝枕代わりますか?」
「え!」
「どうします?」
「べ、別に私は膝枕がしたいわけじゃなくて、ミズキ一人じゃ大変だなって思ったわけで、だから、その・・・」
「なんですか?」
いたずらっぽい笑みを浮かべたミズキに、真友ちゃんは苦笑いを浮かべた。
「あー、もう、分かったわよ。膝枕させて下さい。お願いします」
頭を下げる真友ちゃんに、ミズキは「そんな真友さんがうらやましいです」と告げると、知己の頭を真友ちゃんに譲った。
「何してるの?」
森の中を歩きながら、時折、瞬が木の枝を折っていたので聞いてみた。
「目印です。帰るときのための」
「さすが、瞬だね」
照れくさそうに瞬は笑った。
私たちは、倒れている知己のために果物を探しに出かけていた。世界樹から海岸のほうへ向かって広がる森の中に、『火の実』という栄養価の非常に高い果物がなっているということをリノンさんに聞いたからだ。最初、ミズキが採りに行くと言っていたが、『火の実』は背の低い灌木になるので空からでは見つけられないとのことだった。そこで、私と瞬で探しに行くことになった。森の中は結構深く、歩き始めてからかなりの時間が過ぎていた。
時折差し込む日差しのおかげで森の中は比較的明るく、きっといつもの私ならもう少し楽しみながら歩くことができたと思う。
(だけど・・・)
知己の病気のこともそうだが、頭にひっかかるものがあり、そのことが気になってこの雰囲気を楽しめずにいた。
「ねえ、瞬」
「なんですか?」
「さっきの、ミズキの話を聞いてた?」
「はい」
「少し気になることがあったんだけど、話していい?」
「ミズキさんの言葉がミズキさん自身のイメージとかけ離れていた点ですか?」
私は思わず瞬の顔をまじまじと見た。
「違いますか?」
「ううん。違わない。さすが瞬だね。何でもお見通しだね」
苦笑いを浮かべる瞬に、私は言葉を続けた。
「そうだね、瞬の言うとおり。あの時のミズキは、別の人・・・ううん、違う」
先ほど自分が感じた違和感を確かめるようにその時のことを思い返してみた。
(そうだ全くの別人じゃない。あの時言った言葉はきっと正直なミズキの気持ち。だけど、あの時話してくれた内容が、私の知っているミズキとはかけ離れているように思えた。そう、まるで・・・)
私は頭の中に浮かんだ言葉を口にした。
「ミズキの中に、もう一人別のミズキがいるような、そんな感じがした」
瞬はうなずいた。
「そうですね。僕もそう感じました。極端な話かもしれませんが、まるで、5年2組の友だちの誰かの話を聞いているような、そんな現実感の強い話でした。それに、ミズキさんの話の中に出てきた内容が気になります。特に、一人っ子だったという言葉と、両親が働いていて家に一人だったという言葉です。先日のユリアン副長の話を覚えていますか。ミズキさんの境遇について話したことです」
「うん」
「そのなかで、ミズキさんはムグンファ領主の後継者で長女だと言っていたと記憶しているのですが、間違いありませんか?」
私は記憶を手繰ってみた。
「・・・うん。多分、そう言ってたと思う。けど、それがどうしたの?」
「気がつきませんか。他に兄弟がいないのであれば長女とは呼ばず、一人娘と説明すると思います。それに、両親が働いていいたというのも違和感を感じます。仮にも領主の奥方なら外に働きにでるということはないのではないかと思うんです。あくまでも、僕たちの元の世界での常識から考えればの話ですが。どう思いますか、高山さん」
瞬の言うことはもっともだ。さっきのミズキの話は何かちぐはぐしている。話の中に出てくるミズキとミズキ自身とが・・・
(でも)
そんな風に考える自分にNOを突き付ける自分がいた。
(ミズキは嘘をついていない)
この確信めいたものは、どこまでいっても私の勘だ。直感的にそう思ったとしか言いようがないものだ。けれど、私はそう思った。
「ミズキは嘘をついていないと思う。私の当てのない勘かもしれないけれど、そう感じるの」
「はい。僕もそう思います。だから、もう少し考えてみる必要があると思います」
「何を?」
瞬は歩みを止めて、こちらを向いた。
「この世界が誰によって作られたのかということを」
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