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|オレらはモンスター!!_プロローグ/episode.アルフィース(1.可憐なお嬢様と執事見習い)|

1.



 イダシアの塔、というものがある。


 かつて女神が悪しき竜に封じられた時、形作られた封印の蓋(ふた)だとされているものだ。


 聖圏の中心に聳(そび)えるそれは塔とは言われるものの、実質金属の山だと言ってよいだろう。


 この塔はゆるやかな螺旋(らせん)の形状で素材は不明。ただ一切の傷すらつかないことから「女神の金属」と呼ばれている。大きさとしてはそれこそ山のように雄大で最長部には雲がかかる。また螺旋部は平たく、現在では高位信徒の居住区としても活用されている。


 これらのことからこの「蓋」は教義として女神の産物であるべきとされ、「女神による守護の盾」あるいは「敬虔(けいけん)なる竜による防壁」だと再解釈が行われた。よって今では「封印の蓋ではあるものの、その意義は断じて悪しき竜によるものではない」と教(きょう)じられている。


 この塔には地下へと突き刺さる“そっくり反転された下層部”があることを一部の者は知っている。そして最頂部は反転した再下層部に連携(アクセス)可能だということは更なる一部のみが知る事実だ。



 イダシアの塔の高層部。そこではいくつか特に高名な家がある。


 高名である理由は主に「かつて神意を成した功績」によるもの。



 例えばシャダール家はその創輝(そうき)術によって異端(=神を信じない存在)なる者を存分に断(しょぶん)してきた。


 例えばロマネス家はその卓越(たくえつ)した教義理解と解説により異端者を数多く、信徒として浄化に成した。



 そして中でも一目置かれる存在として【ウルスガンド家】がある。



 今では分派して大ウルスガンド(兄ウルスガンドの本流)、中ウルスガンド(兄ウルスガンドの分流)、小ウルスガンド(弟ウルスガンドの本流)と呼び分けられているものの、全て高位な存在であることは変わらない。


 ウルスガンドの功績は……天啓の“解釈”である。これはつまり、最深部にて功績を成したことを同位的に意味する。


 実際、普通に考えたら住み難いことこの上ないイダシアの塔に人々が住めているのは兄ウルスガンドの功績によるものだ。彼が技術(霊術)によって整備の力を人々に与えたからこそ、イダシアの塔はただの金属的な山とならずにすんだ。


 今でこそ分かたれたウルスガンド家だが、特段にそれぞれ仲が険悪とかもない。格式としてやはり大ウルスガンドこそ高名となろうが、それでも小ウルスガンドだって最上位の家名(かめい)であることに変わりない。


 別格と称される数少ない家。その小ウルスガンド(※以後は単にウルスガンドとする)の現当主であるアザール・ウルスガンドと妻のラザミア。イダシアのセイデンと呼ばれる高層に住まう高貴なる夫婦。


 仲睦まじいこの夫婦だが……中々子供ができず、それが悩みではあった。


 そうした夫婦の間に待望されて産まれた女の子。祝福の中で生を受けた赤子は【アルフィース】と名づけられた。


 赤子のアルフィースはセイデンの城にてそれこそ何不自由なく、いや「何か1つでも不自由させてなるものか」と両親及び使用人一同総出の元、大事に大切に育てられた。


 大事に大事に、大切に大切に。皆の愛を一身に浴びて……。






 そうして、15年が経過した。





 

「――――ぅオオッホホホホホ!!! よろしくってよ、まったくもってよろしくってよぉぉぉ!!!」


 女性の叫びが城内に木霊(こだま)した。発生源は黒髪の少女であり、豪奢(ごうしゃ)なドレスに身を包んだ明らかな“お嬢様”は高笑いをしている。


 煌(きら)びやかなネックレス――緑色の宝玉が埋め込まれたそれを掲げるようにして、長い黒髪を躍らせながらお嬢様はくるくると回っていた。


 回るお嬢様はされど足元が不安定で……ヨタヨタと数歩歩きながら傾いた。


 倒れる寸前。その身体は支えられて起こされる。


 すんなりと「立ち」の姿勢に戻されたお嬢様は目を回したようで、頭をクラクラと揺らしていた。


 そうしながらも煌びやかなネックレスを掲げて離さない少女。その様子を冷めた視線で見ている青年がある。


「……お嬢様、そうしては突発的にはしゃぐのもいいですけどね。ちょっとは考えてほしいものですよ。俺がここにいなかったら今頃床に突っ伏して号泣状態ですよ?」


 冷めた視線の青年はネクタイの首元を締めなおしながら苦言(くげん)を呈(てい)した。


 お嬢様が転ばなかったのはこの黒のタキシードに身を包んだ青年が支えたからである。


 彼が言うように支えが無ければ今頃お嬢様は床に倒れたまま泣き叫んでいたことであろう。起き上がろうともせず。


 そういう可能性を指摘されてもお嬢様はネックレスにご執心(しゅうしん)だ。


 まるで転びそうだったことなど解っていない様子で青年へと向き直った。


「なぁに、“ストレイド”? ほらほら御覧なさいよ、素敵でしょ~? 可愛いでしょ~? エへへ♪ リトニアの宝石が付いたネックレス、ずっと欲しかったんだもの。待ち焦がれたわよ~♪」


 お嬢様はそう言いながら幸せいっぱいな笑顔で青年を見上げている。


 見上げられている青年――【ストレイド】と呼ばれた彼は冷めた視線を継続する。


「ほぅ、ずっと……ねぇ? あのね、あなた様はそういいますがね……昨日の今日で“待たされた”って、そんなん言われて良い気しないものですよ。あなたが「早くぅ!」なんていうから、調達のために寝る時間も削ったんですからね?」


「あら~~、それはごめんなさいね? でも、こうして“早く”手に入ったのだから良いじゃないの♪

 うふふ、ありがとうね~ストレイド。あなたは最高の執事ね、大好きよ~♪」


「・・・・・まったく。調子良いですよね、あなたっていつも。はいはい、良ござんしたよ、お嬢様。喜んでもらえてこのストレイド、恐悦至極にございます~……って、いやいや。まだ見習いなんだからさ……最高の執事はいいすぎだろ、“アルフィース”?」


 “執事見習い”のストレイドは頬(ほほ)を掻(か)きながら少女から視線を逸らした。


 お嬢様――【アルフィース】は頬を膨(ふく)らませて不満そうにする。


「何よ、ストレイド。この私が褒めているのだから素直に喜びなさい! 主の称賛(しょうさん)を享受(きょうじゅ)しなさいな!」


 ネックレスを突き出しながら詰め寄ってくるアルフィース。見た目は可憐(かれん)ながらも言葉も行動も妙に圧のある状況を受けて、執事見習いのストレイドは思わず頬を赤くしながら身を引いた。


「ちょっと、何をしているの。ほら、着けてよ!」


「え・・・・・あ、ああ。解ったよ、着けるから動くなよ?」


 アルフィースは当たり前のように煌びやかなネックレスをストレイドに託(たく)した。そして後ろを向くと長い黒髪を巻き上げて項(うなじ)を露(あら)わとする。


 執事見習のストレイドは「はぁ」と大きく溜息を吐(は)く。


 頬を一度掻いた後。着けている白い手袋を外して口に咥(くわ)える。素手にしてからネックレスを持ち替え、少女の背後から前に手を回してそっと、ネックレスを彼女の首に着けた。


 ネックレスを着けてもらったお嬢様は「うふふ、ありがとう!」と笑顔で振り返り、視線を青年に向ける。


 それを見たタキシードの青年は口元に手を置いて背を向けた。そうしてから天井を見上げて、押し黙る。


 そんな様子を見た少女は「あら?」と首を傾(かし)げて彼の背中を指先でつついた。


「もぅ~~、怒ったの? だからごめんってば! だってそんな、寝る時間も少なくして急いでくれるなんて思わないじゃない。悪かったわよ、でもでもだって、欲しかったんだから~~」


 アルフィースは言い訳を始めた。彼女なりに青年が自分の言動によって腹を立てたと推測したのだろう。


 自由に振舞いつつも、自由に振舞っているという自覚はある。どうやら“好き勝手させてもらっている”という良識的見解が彼女の中にはあるらしい。


 結構なことだが、この時に関してはその辺りは関係ないことである。青年が背を向けた理由はそういうことではない。


 執事見習いのストレイドは一歩、前に出て突かれている背中を彼女から離した。


「別に、怒ってないですよ。ま、まぁ……どうせ昨晩はネイリー主任に頼まれた財務記録もあったし……あなた様だけのために夜更かししたんじゃ、ないですから」


 チラリと、軽く振り返って目線だけを少女に向ける。


 そこに見えた少女は姿勢をやや屈めて、上目遣いに青年を見上げた。


「あら。私のためだけに夜更かししてくれたのではなくって? それは少しだけ、残念ですわ……」


 見上げる少女。見上げられる青年。


 しばらく2人は異なる高さから目線を合わせていた。しばらくといっても数秒だが……その体感時間もまた2人で異なっていた。


 やがて執事見習いのストレイドは


「ああ~、マズイです。そうだよネイリーさんに頼まれていたことがありまして~~」


 などと言いながらその場をいそいそと去っていく。



 残された豪奢なドレスの少女。


 アルフィースはネックレスの宝玉に指を置いて渋い表情をした。


「まったく……2人だけの時でも、すぐ言葉を丁寧にしちゃうんだから。そういうのはもういいって、私は何年言っているのかしらね?」


 文句を言っているようだが相手はいない。


 唐突に不機嫌なアルフィースはムスッとしながら彼とは反対側へと歩き始めた。



 広いお城の広い廊下(ろうか)。


 青い絨毯(じゅうたん)を強く踏みしめながら歩く少女。


「お腹が空いたわ!!」


 と強く言い放ったのは誰に向けてのものか。



 その時周りにはだれもないが……彼女自身、それは独り言ではないと理解できている。






|オレらはモンスター!!|






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