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S3.「創輝隊と庇護地の怪物:後編」
快晴の空。雲もなく、ただ青い空が一面と広がっている。
煌々とした太陽が照らす聖圏の中心地……帝域の帝都と並び称される巨大な都市。
そこに聳えて存在する、【怪物】。
カエルのような見た目で左右に翼かの如く大きな耳を広げたその異様。
つるつるとした全身と体躯の半分を構成する頭部。開けば家の1つ2つを容易く飲み込めてしまう大きな口の上で、まん丸で巨大な瞳が2つギョロギョロと動いている。
ギョロ目の先ではコバエかのように飛び回るモノ。それは金属質な大亀と、その背に乗る紺のブレザー姿の人間。陽光で煌めく金貨を無数と、青白い閃光と共に呼び出して大空に様々と文様を描く。
文様というか……動きあるそれはむしろ白黒な動画、映像に近いものだろう。テーマはある2人のロマンチックなキスシーンである。
「とりあえず興味もってくれてますが……錯乱はまだ続いてるかな? 逆に冷静になっちゃうと、こんな子供だましじゃ時間稼げませんよ?」
青空で金貨の上映会を行っている創輝隊士ウェイル。普段は小銭稼ぎに子供や若者中心として披露している特技が役に立っていた。やっていることの技術自体は非常に高度なものなので、それだけで生活を行うこともできる品質はある。
怪物の興味を引き、動きを少なくして、被害を留める……充分に彼は頑張っている。しかし、それも2分を経過した現在となってはそろそろ危うい。
ウェイルは怪物が本来“何”であるかを知っている。ただ、“誰”かは知らない。
元々がどのような性格なのか不明なので、落ち着いたところで安全を確保できるかも解らない。
だからとりあえずできることを行っていた。彼は自分の戦闘能力でこの怪物をどうこうできないことを理解できているからだ。
より言えば……彼の持ち得る“破壊力”では難しい。人間を両断したり破裂させたり刺せる程度ではたぶん、この怪物は「なにかされた」とも思わないだろう。
もっとも、“破壊”できたところで意味があるのかと言うと……。
「――――よっし、充填100%を超過!! ぶっ放すわよ、長槍!!!」
怪物から少し離れた地上。青白い蒸気が周囲を覆い、閃光が弾ける見るからに危険そうな中心地。
隊士ギザリーはそれそのものが青白く光り輝きながら“構えている”。
大股に足を開き、姿勢は広く、怪物の頭部に向けて斜め上へと長槍の切っ先を狙い定める。
踏ん張るように重心は後ろへと。踏みしめる彼女の足元では地面が焼け焦げ、砂地の一部は薄緑色のガラス質に変化し始めていた。
金属と金属が擦れるような甲高い音波が辺り一帯に鳴り響き始める。
太陽に対抗するかのように激しく明滅する青い光。その発生地から生じる甲高い金属音に反応したのか、怪物のギョロリとした目が地表にある小さな青白い物体を見下ろした。上空で芸を披露していたウェイルは「ヤバい!!」と慌てて怪物から距離をとる。
地上で閃光を放つギザリーは秒読を開始した。
「……9、8、7――往くぜっ、全開!! 聞けよ怪異ッ、我はジョアン山神威が一信、ギザリー・ベントゥーアッ!!!
そぉぉぉの、究・極・最・大・奥義ィィィッ!!!
観よッ、これぞ超・全・壊・ラんっ――」
――――その時、大地が割れた。
ガラス質となっていたギザリーの足元は砕け、破片が周囲に飛び散る。
青白い蒸気は掻き消え、閃光は一条の巨大な槍かのように円錐形へと変形、大地から“撃ち放たれた”。
1秒に満たない時間。少し遅れて発生した衝撃波が街路の一部を吹き飛ばす。
カエルの怪物、その顔面に向けて発射された円錐状の光の塊。それは隊士ギザリーの「奥義」。
聖圏の山岳地にて脈々と伝えられる秘術。その秘技をふんだんに組み込んだソレは「ただ撃ち貫いて破壊すること」のみを目的として編み出された一撃。
――神威と呼ばれる集団における皆伝の称号は特別なものだ。厳しい修練と希代なる才知に富まなければ会得は許されない。
そして皆伝を持つ者はその証明として必ず1つ、独自に編み出した奥義を持つ。
地上から怪物の頭部目掛けて射出された長槍とギザリー。その圧倒的な破壊力はカエルの怪物、その頭部を破裂させた。
轟音と共に破裂した怪物の頭部……その肉片がバラバラと街中に落下していく。衝撃によって残りの胴体も大きく裂け、右前脚は崩れるようにちぎれて倒れた。
凄惨な見た目だが体液などは飛び散っていない。肉片も赤色などではなく、体色のように白い粘土のような質感である。
勢いよく飛び立ったギザリーは上空にてその輝きを失い、滞空していた。
彼女は手足をバタつかせながら遥か眼下で砕け散った怪物の残骸を眺める。
「おぉっ、いいねぇ!! さっすがは長槍、そして私っ!!!」
満足そうにして大空にあるギザリー。滞空状態ではあったのだが、あくまでそれは推進力の余力で若干上昇していたに過ぎない。
慣性を失ったギザリーは落下し始める。
落ちながら彼女は悔しそうに――
「しっかしまた途中なんだよな~。いっつも最後まで言えないんだから……無念ッ!!」
――と、腕を組んだ姿勢で自戒を始めている。
長い黒髪を揺らがせながら、成す術なく高空から落下し続けるギザリー。
自然落下状態だったその身体は空中にて受け止められた。
「あ、痛でぇっ!? なによ、それで受けるのやめてって言ってるでしょ!? 手で頼むわよ、腕でさぁ!!」
「・・・・・嫌だよ、だって重いんだもの」
ギザリーは犬歯をのぞかせて威嚇を行った。金属質な籠のようなものに身体を受け止められ、横たわった姿勢で腰をさすりながら怒っている。
威嚇された“ウェイル”は渋い顔をしている。眼前で歯を剝きだしている女性のことなど特に気にすることもなく、乗っている青白銀の大亀に指示を与えた。
「ジェントル、“アレ”に近づいてくれ。形状が戻らないように追撃をしないと……こうなったらできることは足止めくらいですからね」
手元で金貨を何十枚と呼び出し、垂直に重ねた状態を維持する。そうしながらウェイルは怪物の残骸を注視した。
彼の視線の先にある怪物。地上で散らばったその欠片は見るうちに胴体へと向かって寄り集まっていく。
吸いつくようにして戻っていく肉片。それらは元の姿を成そうとしているらしい……。
高速で修復されていく怪物。その光景を観るギザリーは金属の籠から大亀の背に降り立ち「あら~」と唸る。
「おっ、おっ、おっ……あら~~~、そういう感じ?? “怪物は壊せない”って、こういうこと? ……なんだよ簡単にできるじゃないって、ちょっと喜んだのにさ! ……へっ、おもしれぇなぁ!?」
「そうなんですよ~。君は初めて観るから驚くよね……だから、どちらかというと怪物に対しては状況の停滞を狙いつつ、メインとしては装怪者本体を攻めたいんです。ああ、向こうも物理は無理だから心理的に――――んっ?」
ウェイルは状況説明を兼ねて返答を行っていた。その言葉の途中で何かを察し、チラリと横を見る。
そこでは共に大亀の背に立ち、状況を眺めていた女性が――創輝隊士のギザリーが両手を大空へと掲げている姿があった。
彼女の体勢を確認したウェイルはまた渋い顔となって問う。
「・・・・・それは、意図としてはなんです?」
問われたギザリーが口元をニヤつかせて答える。
「戻っちゃうってんならさぁ……また壊せばいいんじゃない? 壊して、壊して、壊して……戻るよりも早く、速く……逸くッ!!!」
青白い霊気が稲妻のように大空で弾ける。
迸る霊気は電流となり、快晴の空に無数の金属を形作り始めた。
「それに――もっと細かくすりゃぁ戻れなくなったりしないかなッ!!?」
ギザリーの頭上。掲げた両手の先で黒く、細長く、鋭利なモノが多量と形成される。
それらは全て槍だ。数百はあろうかという金属の槍が上空で穂先を下に向けて“呼び出されていく”。
掲げたギザリーの手先から青白い電流が上空に撃ち放たれ、それらは滞空する槍に伝播する。そして、彼女は掲げた両手を大きく後ろに振りかぶった。
「往けッ、槍らよ!!! 喰らえ化け物めが……これぞ我が創輝にして最・大・奥義ィィィッ!!!
永遠ッ、槍降雨ッッッ!!!!!/
/えっ――――そ、それは“もっと”……もっとマズイだろぉッ!!?」
ギザリーが叫び、両手を前方に振り出す。
すると、それに合わせて数百の槍が地上の一点に向けて降り注ぎ始めた。それらの標的は元の形状を取り戻しつつある怪物である。
まるで局所的な槍の雨。呼び出された槍は空中で青白い電流を帯びながら射出され、次々に怪物の残骸へと突き刺さっていく。
突き刺さった槍はすぐに虫食いのように消え去り、上空ではさらに槍が呼ばれ続けていた。これの繰り返しが高速で行われることであたかも「永遠に降り注ぐ」かのように槍が降り続けている。
この技の仕組みは簡単だ。
隊士ギザリーの聖域には千本近くの槍が保管されており、それらは全て接続が完了している。
この接続されている槍を適量呼び出し、神威の力で加速を与えながら射出。着槍した槍は即座に回収。聖域に戻ったと同時に改めて召喚……射出、回収、召喚、射出……と、繰り返すことで無限に槍が降り続けるかのような現象を可能とする、そういう技である。
「うぉぉぉぉぉおッ!!! まだまだまだぁぁぁあああッ!!!」
「ちょっ、ちょっとぉ!? 落ち着けギザリー、ここは庇護地だ、街中だ!!」
「ぬぅぅぅあああああッ!!! 砕け散れッ、神意に仇為す化け物がぁぁぁぁあッ!!!」
「ヒィィっ! だ、ダメだ、護り切れない……ッ!!」
ギザリーの永遠槍降雨は凄まじい破壊力を誇る範囲襲撃型の技である。
単一対象に対して絶大な破壊力を発揮する超全壊槍閃撃に比べると、被害を広範囲に渡って持続的に与えることが可能という面で優れる。ただ、広く被害を及ぼせる分、“正確性が不安定”という欠点もある。
継続時間にもよるが……数千、場合によっては数万と槍を降らす都合上、全てが全て標的に着槍できるわけではない。もちろん、全て目指しはするのだがわりと目標を外す槍もでてしまう。
だから予備動作を確認した時点でウェイルは街の上空に金属製の柱と壁を召喚していた。槍1本1本の威力は強めに投擲された程度ではあるので金属の壁なら(厚さによっては)貫通はされない。
いくら怪物の周りは避難したであろうという状況でも、まだ安否確認が完了したわけではない。そのためウェイルは瓦礫となった部分も含めて街の一部を保護しようとしていた。
だが、彼が召喚できる壁というものはそれほど多くはない。それらは彼の聖域を囲う壁や天井や床を呼び出したものなので、広げても精々が家屋3つくらいをどうにかカバーできる程度でしかない。
だからウェイルは「護り切れない」と嘆いた。それも彼は壁を“浮かせる”芸当はできないので柱まで呼び出す必要があり、さらに範囲は限られている。
力を出し切るように目をつむっていたウェイル。轟々と降り注ぐ槍音を聴きながら、恐る恐るに目を開く。
すると、彼の見渡す眼下には――
「……あれっ、俺が呼んでない壁? これって……」
ウェイルが見た街の様子。
怪物の周囲。そこには自身が呼んだもの以外にも街を護るように青白い壁が広げられていた。それもウェイルが呼んだ壁の数倍はある。それらは柱も使わず、“浮いて”街の家屋を保護しているらしい。
首からぶら下げた金属板から音声が聞こえてきた。槍音はすごいが、なんとか聞き取れる。
“――ウェイル、困るよ。“向こう”が決着しそうだからギザリーを止めてやってくれ。このままだとむしろ彼女が被害を広げることになってしまう”
雑音の中、聞こえた爽やかな音声。
ウェイルは安堵したように笑い、応答する。
「隊長ぉ、来てくれてたんですね! 助かったぁ……あっ。そうだ教父って言わないとでしたか。慣れないなぁ、まだ……」
苦笑いをしながら。ウェイルは隣で腕を振り回し続けている高揚したギザリーに向けて「もう止めなさい」と言う。だが聞こえないらしく、彼女は止まらない。
そのため彼女の片腕を掴んみ、背伸びをして彼女の耳元でウェイルは叫んだ。
「ストップ、やめなさいってば……もうっ! 装怪者の方で解決しそうだから“ソイツ”は放っておくの、解りましたか? ・・・・・おいっ、いい加減にしろよこの“ガサツ女”!!!」
槍の雨が止んだ。
上空にある大亀の上で何か男女が言い合いをしているが……ともかく槍は降ってこなくなった。
そして怪物は――破壊と再生を繰り返していたその巨体はすっかり消え去っている。
カエルのようなつやつやとした巨体はどこにもなく、ソレがあった場所に少年が1人、立っている。
廃墟となった家の残骸。無数とあるその1つから夫婦が姿を現した。
夫婦は涙を流しながら支え合うようにしてその場を去っていく。
その少し後ろで金色の長髪を靡かせながら、黒眼鏡を掛けた男が夫婦のあとを追った。
紺のブレザーを着用しているその男の声は低く、しゃがれていて威圧感がある。しかし夫婦をなぐさめるようなその声色はなんとも優しいものだ。
廃墟からはもう1人、姿を現した。
赤いレンズのゴーグルを装着した手足の長いひょろっとした男。それは街中で呆然と立ちつくす少年へと、ゆったりとした足取りで向かう。
向かう途中、赤眼の男は「ニヤリ」笑みを浮かべながら何かを呟いた――――。
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