|episode.アルフィース/side story_【創輝隊と庇護地の怪物】|S1.「創輝術の仕組みと創輝階」
S1.「創輝術の仕組みと創輝階」
【創輝】と呼ばれる技術……それは“霊術”の一種である。
古くに兄ウルスガンドが解釈した天啓の1つであり、それをファンダル家が継承して特異技能化した。術系としては空間干渉に分類される。
創輝術を簡潔に示すと――
【精神接続のある金属を空間(高度距離)を無視して接続先の精神体に接触させる】
――技術となる。もっと要約すれば「物を転送する技術」だ。
重厚な霊術を扱う際には青白い発光現象が生じる。これは創輝術において顕著であり、術の起動と同時に転送元と転送先においてこれが確認できる。
離れた場所にある金属を瞬時にして手元に“取り出す”……これは実に便利そうな技術だが、問題となるのは扱うのに相応しい才能や熟練度、それに高度な準備が必要となることだろう。
例えばこの創輝術を扱いたい場合、まず「個人聖域(=以後「聖域」とする)」と呼ばれる自身の空間を用意する。この「聖域」は女神の金属を土台とせねばならず、必然としてイダシアの塔にしか設定できない。
次に聖域内の指定の場所を「接続(甲)」としてそこに転送させたい金属物を設定する。そうしたら聖域の主である術者を「接続(乙)」としてその金属物を設定する。その状態で接続(甲)と(乙)を精神“同調”した状態に設定する。ここを“接続”にしてしまうと金属を誤認させることができないので注意が必要だ。
この状態を「創輝完了」として、そこからようやく創輝術を扱う訓練が始まる。
金属を聖域から取り出すことを「召喚」や単に「呼ぶ」という。この“呼ぶ”行為で難しいのは「呼びたい場所に呼び出す」こと。つまり精度であり、自身の周囲100m内に呼び出すだけでも最初は大変。これを手元に握った状態で呼ぶとなれば恐ろしいほどの適正か練度が必要となる。
こうした高度な環境整備と技術習得によってようやく“創輝”は成される。召喚物の質量や所持個数、同時召喚数などによってはさらに難易度が上がっていく。
こんな困難ことができる人間など多いわけもなく、現在のイダシアにおいて創輝を扱えるものは引退者も含めて40名程度だとされている。術者は場合によって脳の一部が焼ける弊害もあるので寿命や現役時代が短いことも少ない理由だ。
この創輝を扱える数少ない人間の集団は【創輝隊】と呼ばれる。
創輝術はとても日常生活で使用できるものではない。そのため一般化はされておらず、用途は限られたものとなった。
この、『金属物を離れた場所から(練度によっては)瞬時に手元に呼べる』という技術を効果的かつ難易度に見合った使い方をするならどうするべきか?
聖圏の教会が見出した答えは“武器”――つまり物理的な神意の成就だ。
教会命を受けたファンダル家が中心となり、創輝を会得させて戦闘訓練を施した集団……それが創輝隊の始まりである。
今ではシャダール家が当主(隊長)となっている彼らの目的は主に「粛清」。ようは異端なる者達の処刑、ここでは「断じる」とも言い換えられよう。
断じる者――創輝隊の構成員はそのようにも呼称される。
イダシアの高層、創輝階と呼ばれる階層を彼らは拠点とする。そこはその周囲が女神の金属及び青練鋼によって囲われており、外は見えず外からも見られない。イダシアでも珍しいかなり閉鎖的な階層だ。
内側は霊気を透しやすい青銀でほとんどを構成されていて美しい空間だとされる。入階資格者は創輝の人間や教父は当然として、一部の高位神聖人や事務職員に限られる。
ほぼ全ての聖域がここにあるとされ、普段は創輝の人間も常駐しているわけではない。基本的に何か用事がなければわざわざ隊士達がここに集ったりもしない。そんな時は珍しいものだ。
その珍しい例の1つが「定期報告会」であり、【その日】もそれが行われていた。
報告会には出張や旅行などで欠席者はあるものの、来れる者は全員参加が原則。遠隔地でも可能であれば通信用の霊具を用いて参加を推奨される。この度は特例聖人である遣獣持ち達も半分は参加できた。
その日の朝から始まった会議は今後の予定などが確認された後、昼を過ぎてようやく終了。終わり次第に会議場からぞろぞろと、紺色に揃えられたブレザーの集団が出てくる。
現地参加の創輝隊士達は創輝階からさっさと出る者もあれば聖域の手入れを行う者、まずは遅くなった昼食に急ぐ者など……その後は様々にしていた。
そして、その中の1人――。
「やれやれ、疲れますねぇ。早起きは気持ちに疲労がきますねぇ……」
若い……というより幼いくらいに見える男。
議場を出るなりさっさとブレザーを脱ぎ、肩にかけてワイシャツ姿となった青年。
少し小柄で童顔なその若気な男は襟近くのボタンを2つほど外して楽にした。そうしてフラフラと気だるそうに青銀色の廊下を歩いていく。
この青年――実は一昨日に30歳の誕生日を迎えた彼の名は【ウェイル・ガシュイン】。創輝歴18年を迎える隊の古参、遣獣持ちの1人である。
ウェイルはポケットから取り出した金貨を1つ、指先で弄り始めた。
欠伸をかいて歩きながら、指の上で金貨を転がしていく。
転がして、指先で跳ねて、また転がして……。
特に意図しているわけでもない。ただの手癖として当たり前のように金貨で遊びながらウェイルは乗降機にて創輝階を降りていく。
金属に囲まれた堅苦しい創輝階では望めない、イダシアから見渡す広大な景色。
ウェイルは乗降機を降りると、景色を眺めながらリズムよいスキップで歩み出す。
「いい天気ですね。さて、こんな日は気合を入れまして……!」
そう言いながら彼が向かった先は眺め良く、静かな庭園。青い花が美しい花園だ。
美しい花園のベンチにてゴロリ、ウェイルは横になって目を閉じた。
花が、草木がそよいでいる……。
イダシアの高層にある少し冷たい風がこの暖かな陽射しに心地よい。
足を組み、畳んだブレザーを枕にして……。
衣服の折り目などまるで気にしないのであろう。ウェイルは手元で金貨を弄りながら昼時の惰眠を謳歌した。
数分程度、そうしてのんびりと時間を過ごしていると……ふと、陽射しが遮られる。
雲か何かが陽を隠したか。いや、この快晴な空にそれはどうかな……と。
訝し気にウェイルが目を開く。
すると、そこには紺色のブレザーを着た男の姿があった。表情は影になっているが、そこにレンズの光がキラリと確認できる。
“眼鏡の男”が口を開く。
「ウェイルさんよぉ……あんた、そんな呑気してて平気か? 明日にはカースエイドなんじゃねぇの、準備はどうしたんよ?」
「クイっ」と左の中指で眼鏡を押し上げる男。指先に複数の指輪、手首に2つの腕輪。いずれも銀の光がチラリと光った。
日陰を作る男の問いにウェイルが答える。
「なんですか、もぉ……そんな陽射しを遮ってまで注意します? 行先は立派なホテルなんだし、基本は現地調達でいいでしょう……フハぁ~」
欠伸混じりに答えるウェイル。いかにも面倒そうな対応を受けた眼鏡の男は「フンッ!」と強く鼻息を吐いた。
この眼鏡の男――彼もまた創輝の隊士にして現在11名ある遣獣持ちの1人。名は【オルタウス・ゼノンダード】、年齢21歳。創輝歴7年の中堅隊士である。
オルタウスはすこしズレて陽射しを解放してあげた。陽射しを再びに浴びたウェイルは訝しんでいた表情を柔らかな微笑みにする。
寝ころがって気持ちよさそうに微笑む男を見下ろしたまま、オルタウスはまた眼鏡を中指で押し上げる。
「まったく、少しは気合を入れてほしいものだがね。あんたは明日、隊長――教父と同行するんだよ。その意味が解っているのか?」
「気合なら入ってますよ。気合を入れて昼寝をしています……スゥスゥ」
「昼寝に気合が必要か!? むしろリラックスしろよ、リラックス!!」
「おぉ~、昼寝の意気込みにまでご注意頂けるなんて。本当に優しいなぁ~、オルちゃんは正に優男です」
「……それは褒めているのか?」
「心配性なところもオルちゃんの良さだね。ともかく、別に争いに行くわけじゃないんだし……何事もないさ、きっとね」
「ハァ……これだもの! 中立地とはいえあそこは警戒せねばいかんだろうに! そりゃ、いざとなってもあんたら“2人”がいれば教父に万が一もなかろうけど……向こうでは杖持ちの目撃情報もあるんだからな?」
「ヤツらなんかどってこたぁないですよ。あの特佐なんかが出張ってきたらともかく、そんなことあるわけもなし……まぁ、任せてください。教父との旅行、しっかりと楽しんできますから♪」
「・・・・・だから旅行じゃないっつぅーによ。わからん人だな、ほんと!」
穏やかな表情で横になったまま欠伸をこく男。険しい表情で鼻息を吐き、しきりに眼鏡を押し上げる男。
2人の男性が花園の端っこでそんなやりとりをしていると―――
“ ドォォォォォオオオオンン!!! ”
―――突然、轟音が響いてきた。
広大なイダシアそのものを揺るがしたとすら思える衝撃。何かが爆発したかのような音。
「うわっ、なんだぁっ!?」
轟音を聞いたオルタウスは音の方角を振り返り、塔の外を見るため縁にまで駆ける。
そして光るレンズ越しに見えた光景に絶句して立ち尽くした。
イダシアの塔から見下ろした街並み――庇護地に砂埃が舞い上がっている。それもただならぬ規模だ。
よく見ると、そもそも“街並みが変わっている”。具体的には街の一部が……“無くなっている”。
「街がふっ、吹き飛んているッ!? これは……爆発、爆弾…………襲撃、か?? ウソだろ、このイダシア近郊でッ!!?」
「――ま、考えても仕方ない。俺はちょっくら見てきますから……オルちゃんは通知出しながら現地合流お願いしますね」
背後で青白い閃光が弾けている。オルタウスが眼鏡を押し上げながら振り返ると……。
そこには青色の亀がのそりと存在していた。大きな甲羅を背負った金属質な亀だ。
金属亀の甲羅は大人2人は余裕をもって寝ころがれるほどに広く、上ではシワだらけのブレザーを着なおしているウェイルの姿がある。
古参の創輝隊士は袖に腕を通しながら「行きましょう、“ジェントル”」と呟く。
彼の声を聞いた金属の大亀はその手足を甲羅の中に引っ込めた。手足を格納した甲羅の穴から青白い気流が放出される。
それと同時に大きな亀は浮き上がった。いかにも重厚そうな見た目なのだが、それはすんなりと浮き上がって滑るようにそのまま青空へと飛び立っていく。甲羅の上に屈んで立つウェイルは何か金属の板を“呼び出して”それに話しかけ始めている。
大空へと飛び立った亀とウェイル。オルタウスはその姿を数秒間、呆然と眺めていたが……。
続けて鳴り響いた轟音に「ビクッ」と肩を震わせた中堅隊士は「りょ、了解ッ!!」と叫んで走り始めた。
走るオルタウスの足元で青白い電流が弾ける。迸る霊気は次第に青白銀に輝く金属の身体を形成し、それはやがて主を追走する金属質な猫の姿となった。
自身の少し後ろを走る金属猫に向けてオルタウスは指示を与える。
「“シリアス”、稼働中な遣獣に伝えろ!
超・緊急事態発生! ”庇護地南方の一部が吹っ飛んでる”――ってな!!」
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