|オレらはモンスター!!_プロローグ/episode.アルフィース(7.お嬢様とメイドの少女)|
7.
閉めたカーテンから零れ入る光。
無音の秒針が回転を続けている寝室。
寝息をたてる少女の姿。
「ん……うぅ~~~ん……」
少女は寝返りをうった。寝ぐせでちょっとボサボサとした髪を掻く。
寝返りによって光の入る窓の方に顔が向いた。
「んん……ん? うんむ……ぬぅぅ~~ん……んぁ??」
目を開いた。朧に霞んだ視界。薄い光。
カーテンの隙間にある光を見て「自分で閉めるといつもなんか隙間ができてしまうな」と。
そんなことを少女アルフィースはぼんやりと考えた。
ぼんやりとしているところに背中側。部屋の扉の方からノックと声が聴こえてくる。
「お嬢様~、おかげんはいかがでしょうか? お昼食もいらないですか~?」
聞きなれた女性の声。それは家政婦のものだ。
アルフィースはゴロリ、また転がって扉の方を向く。
「はひ、おひるぅ~~?? 朝食ではございまへんでひてぇ~~……ぁふ」
欠伸が混ざった返事。明らかに寝起きな声ではあるが、起きているということは伝わった。
家政婦はチラリと扉を開く。
「今やっと起きたんですか~? お嬢様、入りますよ~?」
「んぇ、まだ起き上がってはおりませんけど……どうぞ、入っていらして?」
枕に半分顔を埋めたくぐもった返事。
ものぐさな返事を聞いた家政婦は扉を完全に開いて寝室に入ってくる。
アルフィースと同じく黒髪な家政婦の少女。左右に結った髪を揺すりながらお嬢様の眠るベットへと近づいてくる。
家政婦の少女はベットの横に立つと淑やかにお辞儀をした。
「お早うございます、アルフィースお嬢様……おっと失礼、間違えました。遅ようございます、お嬢様?」
「うぅ~~ん。遅ようございますわ、リレット。今朝もご機嫌麗しゅう、お変わりありませんこと?」
「ええ、今朝も体調は問題ありませんわ。ただいつもより4回多く、この部屋をノックして声をかけるお仕事がありましたので少々忙しい気分です」
「あらあら? それは御免あそばして……ふはぁぁ……」
丁寧にしているがどこか含みのある物言い。家政婦のリレットはにっこりと笑いながらもどこか語気が強い。
それはともかくとしてまだ眠いアルフィースは家政婦の目の前で大欠伸をこいた。
家政婦の少女、リレットは「しょうがないなぁ」と言ってから掛け布団をアルフィースから剥ぎ取る。
そうして寝巻姿のお嬢様を引っ張って起こすと、代えのお召し物を持ってきて着替えさせ始めた。
人形のように成すがままなアルフィースは立たされたり座ったりさせられながらまだ眠気がさめない。
鏡台の前に座らされて髪をとかされ始めて、ようやくに意識がすっきりし始めた。
「もうお昼だなんて、私ってよく寝てたのね」
「よく寝てたわよ。アルったら、何度ノックしても返事ないし……」
「なによ、入ってきて声を掛けてくれれば良かったのに」
「さっきまでは無理! 新入りの子がくっついてたから、そんな勝手なことする姿見せられないわよ、使用人の先輩として!」
「あららぁ~~、じゃぁ普段は使用人としてあるまじき事をなさっていると?」
「えぇ、左様でございますわお嬢様。だってそうでもしないと仕事が片付かないんですもの……今日みたいにね!」
「あはは、ごめんなさい。昨日は色々あったから……なんだか寝たけど寝た気がしなくってね」
髪をとかされ、ネックレスを着けられ、イヤリングに金のカチューシャも装備されて。
他にもちょくちょくに「どっち?」と声を掛けられながらアルフィースは着飾られていく。
アルフィースは「こっち」と言うこともあれば「まかせる」と言うこともある。それも基本的にはお任せな答えが多い。
仕上がったアルフィースの豪奢な姿。それを細部まで調整しながら家政婦のリレットが聞く。
「ふぅん。その昨日さ、色々あったってのは……?」
「昨日は……怪物がね。あんなに大きなカエルだもの……怖かったわよ、本当」
アルフィースは昨日にみた巨大なカエルの姿を思い浮かべていた。
それを聞いた家政婦の少女は目を細め、お嬢様の耳元に顔を近づける。
「あぁ、怪物ね。大教父様からの啓示も伝え聞いたわ~。それもすごい話しだけど……それよりね? 聞いたわよ~、あなたストレイドさんに抱きかかえられて戻ったんでしょ?」
「ストレイドに、そうね抱っこされて・・・・・えっ??」
アルフィースは言葉に詰まった。そうして少し仰け反るようにしてからリレットの顔を見返す。
そこにあるのはニヤニヤと楽しそうな少女の笑み。
「ちょっと話題になってるわよ。いや、ちょっとかな~~? ……どうしたのよ、走れないほど驚いちゃって、抱えてと頼んだの??」
「……うん。びっくりして、立てなくって……でも頼んだんじゃなくって、そうしたら彼が……ストレイドが抱えてくれて……」
「おっ! それで、それで??」
「それで……それで戻ってきたわ。お城に着いたら彼は私の無事を確かめて、それから急いでネイリーさんのところに……それっきりね」
「――んっ、それだけ? 他には何もなく?? なんだ、じゃぁただ本当に動けなくなったから抱えられただけなのか」
家政婦のリレットは残念そう、期待外れ、とでも言うような浮かない表情。
「そう、ね。私を抱えて走ってくれただけ……ね」
一方。アルフィースは答えているものの、どこか歯切れが悪い。
抱きかかえられただけ……ではなく、そこで聞いた言葉が思い起こされている。
ただ、まだ確信はなくてもしかしたら聞き間違いとか自分がそう言ってほしい願望の幻聴だったのかもしれない……と、自信がない。
鏡に映る表情は虚ろで、何かいいたそうなアルフィース。家政婦のリレットは「ふぅ~~ん」と唸った。
「でも、ただそれだけじゃぁなさそうね。彼が何か他にしてくれたの?」
「いや、別に何もするとか……だけど、今まで話さなかったこととか話せたわ。彼の過去のこととか、彼に言いたかったこととか……」
「言いたかったこと……あら、まさかあなたから言ったの?」
「……そういうことになるかもしれない」
「えぇ~~、そっかぁ! まぁでも、それはやっぱり彼から切り出して欲しかったわよね……それこそ色々な意味でさぁ~」
「以前はそうも思っていたけどね。だけど、立場とか年齢とか、そういうことを気にするのは私もやめようって……それも結局は臆病な人が悪いのよね」
「そうね……で、その感じだと返事もまた臆病な感じだったと」
「ハァァァ~~~…………でも、余計なことを言ってしまったかも。そもそも彼にとってはこんな、私なんて……迷惑なことなんじゃないかってさ。だってそれはそうでしょう?」
「迷惑ってことは……そりゃ、立場の違いとかはあるでしょうけどね? でも、だって好きなんだもの。しょうがないじゃないの」
「しょうがないんだけど……彼も同じ気持ちって、そう決まったわけじゃないのだし。せっかく順調に彼が立場を作っているところに、私のせいで邪魔になってしまうのなら悪いし……」
「ん~~~~。考えすぎよぉって、そうも言えないところがね。それこそ私の立場じゃ言えたものでもないんだけどさ? 例えば彼があなたのことを同じく愛してくれるというのなら……もうそれは迷惑だとか、そういうものでもなくない? 嬉しいでしょ、あなたも同じ気持ちだって解ったら」
「それは例えばの話しでね? いえ、それも……例えそうだとしても彼が居づらくなるようなことになってしまったら……」
「いや、もう~~考えすぎよ! そもそもまずはお互いの気持ちをちゃんとハッキリさせてからでしょ。そうしたからやっぱダメそうなら……そりゃ、そん時はそん時で考えなさいな」
「う~~ん。そう、よね……想像ばっかりしていてもしょうがない……よね?」
「そのとぉ~り! だからまずはストレイドさんにもう一回――――んっ??」
少女2人はしみじみと会話をしていた。内容としては込み入った内容もあって他に話せるものでもない。
そして、そうした状況の中。
開きっぱなしの扉の先にだれかの気配がある。「コツン」と何かが扉に当たった音があった。
気配に気がついたリレットが扉の方を振り返る。
すると、そこには――
「――リレット~~、アルフィースお嬢様ぁ~~?? 起きていらっしゃるなら、お昼はお食べになりますよね?
シェフも温かな食事をご用意しようと、今日も準備して待っておりますよ~~??」
開きっぱなしの扉からゆっくりと、箒を持った女性が顔をのぞかせてきた。
アルフィースは振り返って「あら、メイド長さん」と軽く挨拶を返す。
リレットは瞬時に背筋をピンと伸ばして「ただいまお連れしますッ!」とキレ良く返事をした。
「ほら、行くわよ――――いえ。どうぞ一緒に参りましょう、お嬢様?」
表情を温和にして丁寧な所作で話すリレット。
アルフィースはその様子を見て微笑みながら「ええ、参りましょう」とお淑やかに返した。
メイド長に小言を浴びせられているリレット。
その背中越しに彼女らの気まずそうなやり取りを聞きながら。
アルフィースは彼女らを供に食堂へと向かった――――――。
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