|オレらはモンスター!!_プロローグ/episode.アルフィース(4.響耳の怪物)|
4.
偉大なる女神、大地の底に眠る慈愛の神。
「なんだ?? 今の声……おいっ、大丈夫かアルフィース!」
魔術、霊術、魔法、神秘、奇跡、摂理、世界。
「あっ、ストレイド! なんかみんな逃げてくるわ。ほら、あっち……から」
人間、竜人、精霊、霊獣、妖精、星獣、魔女。
「なんだ、あれ……いや、アルフィース! おい、こっちだ逃げるぞ!!/
装怪者、拠り人――――――心の、怪物。
/なによ……あれ?? ストレイド、どうしましょう……どうしたらいい!?」
虚実入り混じった現実ほど性質の悪いものはない。いや、そもそも人の現実などそんなものか。
何でもかんでも女神様のおかげ/せい……と。
本当にまったく、都合が良い概念だなぁ。
『 ウオオォオオォオオオオッアァアアアァアア!?!??!? 』
「で、でっけぇ……なんだ、あの“化け物”!? 適応実験でも失敗したのか……いやいや、ここは聖地だぞ!?」
「ストレイド!! なんですのあの……“怪物”!? に、逃げ・・・・・あっ。足、が……」
ただならぬ状況。ストレイドは全力疾走に切り替えてアルフィースに即座、追いついた。
アルフィースは庭園の入口辺りで座り込んでしまっている。ケガをしたとか、そういうことではないらしい。ただ、“腰が抜けてしまった”――ようはものすごく驚いたのだ。
アルフィースが腰を抜かすのも無理はない。
おそらくまだかなり距離はあるのだろうが……庭園の入口から見上げて、家屋の屋根を越えて、青い空に悠然として、聳えている。
人ではない。霊術によって生み出された巨人騎士などではなく、聳える“ソレ”は明らかに人ではない。
カエルのような顔面。3階建ての家屋よりはるか高い、というか大きい顔面。
アルフィースからは建物が邪魔でそういう巨大な顔面の一部しか見えないが、“ソレ”は短い手足で聖地の通りに這いつくばっている。顔だけではなく、ソレ全体が巨大なカエルのようなものだ。
顔の横には大きな羽のようなものが左右に広がっており、どうやらそれは耳らしい。全身はつるつるとしていて、昼の陽射しをキラキラと照らし返している。体色はほぼ真っ白に近い。
巨大なカエル……カエルの【怪物】は突如として聖圏庇護地の中心部に出現。その巨体ゆえに動くだけで手足が家屋を破壊している。
『うっ、うわわぁ!? こ、これ家か!! どうなってんだ……ああっ、危ない!! は、離れないと!!』
【カエルの怪物】は音を発している。耳を塞ぎたくなるほど大きな音だが、それはちゃんと聞けば“声”である。ただ突然の事態に周囲は大騒ぎとなっており、そのことに気がつける人などほぼない。
四つ足の近くで人々が騒いで走るものだから、カエルの怪物は慌てて飛び退いた。怪物の跳躍はすさまじく、巨体に見合わない軽快さで高々と舞い上がり、そして居住地の一角に着地。
土砂が舞い上がり、砕けた家屋の破片が周囲に散乱する。人々の悲鳴が庇護地に木霊する。
『あっ……あああ。ち、違う……僕はそんなつもりは……ど、どうなってんだ?? あれ、僕はだってさっきまで…………そうだ、マリン!? マリンはどこだ、無事か!?』
カエルの怪物はギョロギョロと左右の巨眼を別々に回した。そうして地表を探って何かを見つけようとしている。
そうした怪物の姿を見上げている人がある。逃げることもせず、崩壊した建物の破片をその全身に受けて立ち尽くす人がある。
薄く輝きを放つその――“女性”。刺さっている瓦礫の破片はズルズルと身体から押し出されるように落下して傷口は即座に修復された。
「と、トーラス……なの? うん、そうだわ……まちがいなく、トーラス…………でも、“ラグザリア”って……それもあなたの名前、なの??」
輝く女性は怪物を見上げてだれかの名を零した。
崩壊した家の中。さきほどまである青年と手を取り、穏やかに過ごしていた空間。
瓦礫に埋もれて起き上がる前に彼としていたことは――――。
『!!? そこか、マリン!! あぁ……あぁ……どうしよう、でも、逃げてくれ。僕はよくわからない……どうなってるかわからないけど、何かおかしいんだ。
危ないんだ、逃げてくれ。今の僕はなぜか、危ないんだよォッ!!!』
カエルの怪物が叫ぶ。それと同時に全身が微振動を起こし、その巨大な口から見えない波動が放たれた。
波動、つまりこの時のそれは【音の波】である。
爆発するように庇護地の一角が吹き飛んだ。放射状に一部が更地となる女神の庇護地。
人々の絶叫が響き渡る。幾多の人間が恐怖し、逃げ惑い、血を流し、泣き叫ぶ。
未知なる恐怖。唐突に現れた脅威。抗いようがないほどの力……神の意図を注がれたそれに、人間が扱える程度のちっぽけな“技術”とやらの何が通用するものか。
更地となった大地。砂の上で輝く女性は身体を起こした。
傷1つない身体で立ち上がり、フラフラとしながら怪物を見上げる。
「これ、これって……私なの? 私の、力……私があなたをこんなことにしている……そうなのね?」
涙が頬を伝い落ちた。仕様の説明などないが彼女は理解しつつある。
涙を流す女性……そこからずいぶんと離れている場所。そこまでも砂埃が飛んできていた。
庭園の入口で座り込む少女アルフィース。その身体を支えて同じく座り込んでいる青年ストレイド。
ともに見上げるカエルの怪物は離れていてもその巨大さが解る。
「どうなってんだよ……いや、ともかく逃げないと! ほら、アルフィース! 立ち上がってくれ、ここは危ないからイダシアに戻るぞ!」
「……声? あの大きいの、今、言葉を話していた?」
「はぁ?? 何言ってんだよ、いいからほら立って! ……もしかして、立てない??」
「……うん。すっかり、身体が驚いちゃったみたい」
「・・・・・ったく、しゃぁないな。それじゃお嬢様、失礼しますが抱えさせて頂きますよ」
「ええ、構わないわ。構わ、ない……うぅ……」
「……アルフィース?」
少女は身体を震わせている。膝裏と背中に腕を当てて持ち上げられて、抱き上げられた途端に涙が出てきた。
腰が抜けるほど驚いたのだ。怖いに決まっている。
少女は青年の肩に顔を押し当てて泣き始めた。彼女の震える身体を抱く青年はぎゅっと、彼女をしっかりと自身の身体に押し付けるように抱きしめた。
「大丈夫、安心しろ。俺がお前を護るから……何があっても、俺がお前を護る。
そのためなら“どんなことだって俺はやる”……やってみせる! だからもう……怖がるなよ、アルフィース!!」
(――――! ストレイド……?)
ストレイドは駆け始めた。これが少女を抱きかかえたままでも中々の速度で走る。
執事見習いの青年は混乱の庇護地を駆けていく。
走りながら、考えた。
毎日の鍛錬を怠らない。ウルスガンド家を護るため、当主のアザールを護るために自身の心身を鍛えてきた。
――――本当は違う。
剣を振るっている時も肉体を磨く訓練中も、思い描いていた“護る対象”は違っていた。
何年も前から解っていたことだ、むしろ先に“ハッキリ”としていた。
彼女が自分を生意気に見下げていた最初の頃から……初めて会ったあの時から。
解っていたからこそ、あんなにも言わせてしまったことが情けない。
情けないのはもう嫌だから。自分に自分を偽装するのはここまでだ――と。
駆けるストレイド。青年はその胸に覚悟の灯を宿す。
そして、覚悟を語った彼に抱かれる少女は――――“何か”を感じている。
(聞き間違いかしら。風が強いけど……今、彼が言ったのは本当……??
あれ、でもこの感じ……なんだろう。どこかに、どこから……気のせい、かな??)
聞こえた言葉に衝撃を受けるほどの喜びを感じたと同時……不意に生じた【違和感】。
全身を伝った痺れるような冷たさ。
体内に感じた一瞬の感触。
それは彼の言葉に受けた心の衝撃であろうか。
少女はともかく、まだ確信に至れていない様子だ――――――。
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