|オレらはモンスター!!_プロローグ/episode.アルフィース(3.少女の仮病と青年の偽装)|
3.
かつて、女神はその身を貫かれて地の底に封じられた。
大罪を成した邪竜はその姉弟らによって撃たれ、消滅した。
一説に女神は完全な滅びを防ぐため自ら隠れたとも云う。
それらは間違いでもあるし事実でもある。
つまりは継ぎ接ぎの伝説だ。
ともあれ、封印の蓋はイダシアと呼ばれ信仰の中心となった。
人々の一部は導かれてこの地に移り、新たな社会を形成した。
――――形成、“した”?
それは異なる。形成させられた、形成してもらったのだ。
人々は信仰の中で生きる。
信仰の加護で安寧を得て、実は自由を失っている。
何が正解で不正解かもないだろう。
自由が正義でもない。安寧が正解でもない。
ただ、女神の想いは常に変わらない。それだけは正解であり続ける。
そうだ。ただ、会いたい……たったそれだけなのにな。
それだけではダメなのだろうか。意図を感じるにそういうことなのか?
ともかく今は見ることしかできない。
見ることで……見せつけられることで何を――――。
変えるべきは価値観か? “狂え”と、そういうことか?
「へぇ、熱なんてない?? いや、さっき言ったじゃないですか。なんならフラフラもするって……」
「今はもう大丈夫。というかさっきもそんな、介抱してもらうようなものでもなかったわ。ああ、フラフラするってのは本当にウソよ」
「・・・・・はぁ。今度は何が目的なんすか、お嬢様? 何か気に食わないこと……ああ、さっき俺が言ったこと?」
「う~~ん? それは別に気にしてない。ただ、今気に食わないのはあなたの口調が元に戻っていることかしら」
「いや、だってそれは……さっきはあくまでここに合わせて、関係性を演じていたというか……」
「演じていたの? 私にはやっぱり、さっきみたいに話せない? 何か理由がなければ、普通にはできない?」
「――――――ど、どうかしたんですか。いや、どうかしたっぽいからここに……いやいや、それは、その……お嬢様、結局何が言いたいか解らないんですがね??」
庇護地の一角。イダシアからそれほど離れていない場所にちょっとした庭園のような空間がある。これは屋外のベンチも用意された喫茶店でそこそこ古くから経営されているものだ。
それこそ8年前。まだ庇護地で暮らしていたストレイドはよくこの場所の前を通っていた。
12歳の少年には縁のないような場所だったが「なんてオシャレなんだ……いつか彼女ができたら一緒に来よう!」などと思っていたものである。
ただ、当の本人はそんなことなどすっかり忘れているらしい。
現在、屋外のベンチで横たわっている少女。アルフィースはごろりと寝返りして青年に背を向けた。
不機嫌というか不貞腐れているというか……ともかく少女は何か不満があるらしい。
ベンチの横に屈んで少女の様子を観察している青年。ストレイドは「はぁ」と溜息を吐き出して頬を何度か掻いた。
しばらくの静寂。庭園を流れる風がよく手入れされた植物の枝葉をほのかに揺する。
葉の擦れる音が微かに聞こえる。葉の影が動いたので、ふとストレイドは頭上の枝葉を見上げた。
「――――ねぇ、ストレイド。あなたってどうしてセイデンに来たのかしらね?」
「はぇ? ……どうしてって、それは親父がアザール様と古い仲で。そいでサレド教父に信性を測ってもらって――」
「そんなこと聞いてない……というか知っていますわ、それくらい」
「え。だってそれが全てだし、じゃぁ他に何をどう言えば……」
「…………女神様」
「……えっ?」
「その……ほら、これって“神託”じゃないかしら。そういう、ことって可能性も……ありますわよね。人と人の出会いって……」
「・・・・・ああ、そりゃね? この世の成り立ちってのは女神様が創ったもので、今もそうだからあなたと私の出会いもそりゃあ、そうでしょう。だから全てに感謝をね? それはアザール様との出会いだってそうだし、ラザミア様とかネイリー主任とかも――」
「だからっ……そうじゃないの!! もうっ、知らないから!!」
「・・・・・えっ?」
アルフィースは完全に不貞腐れた。話しの最中でチラリとストライドを見ていたのだが、改めてそっぽを向いて今は彼女の後頭部しか見えない。
ストライドはまた頬を何度か掻いて
「いや、ごめん。解んなくって……なんで怒るんだ?」
と、零すように言った。
彼女の心が読めず、いよいよ困ったのだろう。素のままになっている。
アルフィースがゴロリ、と仰向けになった。これなら横顔は見える。この体勢は困ったような彼の声に反応した結果なのだろう。
少女が言う。
「あなたが来た時、私は7歳だった。あなたは今20歳だから……12の頃ね?」
いきなりの年齢確認。少し間を置いてからストレイドが答える。
「はぁ、まぁ、そうだな。俺が……私が12の頃、ですね」
「――――あのさ」
「うっ……わ、わかったよ。俺がね、俺が12歳の時にセイデンに来た。今20歳ってのも間違いないよ」
ストレイドは少女が不機嫌な理由の1つを理解してきた。むしろ本当はなんとなく前から……それこそずっと、度々に言われる時から解ってはいた。
ただ何故だろう、と。どうして主の娘であるこのアルフィースは自分に素のままを求めるのかと、深く考えないようにしていた。
目を、意識を逸らしていた。
そしてそのことは彼女にバレていて……だから尚更に時折、彼女を不機嫌にするのだとも……そのことも本当は理解していた。
“どうして”だって、解っている。ただ、自分は――――
「アルフィース。俺はさ、あの……つまりウルスガンドの使用人で。だから、その――」
「あなたが子供の頃。さっき言いかけていた、400PLあればって、その続きを聞きたいわ」
「え……え? なんだってそんなこと――」
「聞きたいの。あなたの子供の頃、あなたのことを聞きたいと……そう、思っただけ」
「……そうだな。400PLありゃあよ、仲間と安い菓子を買って教会の運動場を一部だけ借りてさ。金を出し合うんだ。
そんでボールを持ち込んで遊んで……菓子を節約したやつはジュースを帰りに買えるんだよな。俺はいっつも菓子を限界まで買っちゃうから、なんだったら運動場の使用料金も出さなかったりしたな」
「なによ、それ……よくわからないけど、何か借りるのに皆でお金を出す必要があるのね? それで、時にあなたは協力しないときもあるの? 仲間なのに?」
「文句はいつも言われたけど、そういうやりとりも含めて楽しかったなぁ。特段金持ちなやつが結局、いっつも俺の分出してくれてよ。
でさ、俺って案外と勉強はできるからさ。そいつの課題を手伝ってやったりして……お相子、なんてね」
「ふぅん、あなただって人のこと言えないじゃないの。私のこといつも“ズルくなまけている”だなんて言うのにさ!」
「いやぁ……こう見えてよ、俺ってけっこー狡いとこあんだわ。・・・・・いや、それにしたってアルフィースはなまけ癖が――」
「知っているわ。・・・・・いや、私のことじゃなくって、あなたがズルいところがあるってね。ただ、ちょっとその、お仲間とのお話は意外だったかな……」
「そっか。へへっ……嫌いになった?」
「……それこそ、ズルいじゃない?」
「――――そう、かな」
「そうよ。そういうズルい部分だって、“好き”なんだから……」
「――――――。」
アルフィースは見つめている。仰向けではなく、彼の方を向いてその顔を見ている。
ストレイドは彼女の視線を受け止めていたが、数秒ともたずに目を逸らした。
目を逸らして、口元に手を置く。
その仕草を見たアルフィースは「ほらね」と呟いた。
「……いいわ。もう、いい。さぁって……熱も引いたことだし、お買い物を続けましょうかね」
「え、いや……アルフィース……??」
「ちょっと、何を呆けていらして? さぁ、立ち上がってくださいな。いつまでもそんな“怖がらないで”くださいますか?」
「お、俺は別に……あっ、いや、そうじゃなくって。あの、俺は……だって……」
「だから、“いい”って。あなたが実はちょっとズルくてかな~り臆病だってこと。私はずいぶんと前から解っていましてよ?
8年間も一緒にいて、あれだけ話して関わって……解らないことはないでしょう? 解っていないと思われていたなら、これは心外なことですわね。あ~~~あ!」
すっかり体調は万全らしいアルフィース。両手を腰に置いてずいずいと庭園を歩き始める少女の後姿を青年は眺めている。
動かない青年。どうせ動けないだろうと思っていた少女。
アルフィースは立ち止まって振り返った。
そして、言う。
「――――価値観が違う? 格式が違う? だからなんですの。だれが何か言おうとも、このアルフィースが“好い”というのだから良いのです。
なんなら……どうしても勇気がでないというのなら。私から合わせることだって、やぶさかではございませんでしてよ?」
再び歩き始める少女。
長い黒髪を揺すりながら歩く彼女の表情。
その口元こそムスッとしたものだが……。
その目元にはどこか「ハッキリ」したかのような穏やかさがある。
庭園に残された青年。
執事見習いのストレイドは額に手を置いてガックリと項垂れた。
そして、零す。
「何をやってんだ、俺は。何を言わせてんだよ、俺は? まったく、俺ってやつは……なんだよ、“かなり臆病”だって?」
空を見上げる。枝葉を揺する風が青年の赤い前髪を揺らした。
「・・・・・ぐぅの音も出ねぇじゃないか。本当にその通りだぜ……情けねぇよ、なぁ? ……ハァァァ~~~。」
立ち上がる。青年は腰を反るように伸ばしてから大きく息を吐き出した。
ストレイドは小走りに庭園を行く。ものすごくゆっくりと歩いてくれている少女に早く追いつかねばと……だけどここは飲食の場だから走ると悪いなと。小走りに行く。
「そういや、ガキの頃に思っていたっけ。いつか彼女ができたらここで――――/
/ いやぁあぁあああ!!! なに“アレ”ぇぇぇ!?!?
助けて、だれかっ……だれか早く、騎士様を呼んでぇぇぇ!!! 」
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