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一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか


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第8話:注意一生、怪我一秒②

 教室までの廊下を、兄妹・姉妹喧嘩の話をしながら三葉みつばと歩く。


「……だからさ、最後は結局『お姉ちゃんの服を勝手に着るな』で終わるんだよ。いや、私が悪いのは分かってるんだけどさ!でも一葉かずは姉ちゃんも二葉ふたば姉ちゃんもせっかくサイズが一緒なら貸してくれてもいいよね」


 三葉がぶすくれながら、廊下を歩く。私は苦笑しながら答えた。


「三葉はお姉ちゃん達と仲良くていいなぁ。うちなんて、お兄ちゃんが忙しくてすれ違いばかりだよ。たまに話したかと思えば、勝手に冷蔵庫のプリン食べられててさ……」


 そんな他愛のない話をしながら教室へ向かっていた時。


「おーい」


 前方からかけられた呼びかけに、私たちは揃って顔を上げた。


 保健医のちーちゃん先生が手を振ってやってくる。


 いつもニコニコと優しくて学生からもとても人気がある彼女は、長い三つ編みも、今日穿いている赤いロングスカートも、その柔らかな雰囲気に本当によく似合っている。


 そして私はと言えば、もちろん普段からめちゃくちゃお世話になっている。


「おはよう!一蓮いちれんさん、方波見かたばみさん。今日は珍しく、朝から保健室に来なかったね」


「ちーちゃん先生、おはようございます!おかげ様で、今日は全身濡れもせず、擦り傷も切り傷もなく、膝も大丈夫でした」


 ニコニコと嬉しそうなちーちゃん先生へ、私は腕や膝を曲げ伸ばしし、怪我がないことをアピールする。


「おぉ!それは素晴らしい!良かった良かった。もしなにかあったら遠慮なく!体操服もばちり用意してあるし、いつでも保健室にきてね。……恋の相談でもいいよ」


 ウインクしながら乙女チックなセリフをささやく、ちーちゃん先生の素敵な笑顔に見送られ、私達は教室へと移動した。


 自分の席に腰を下ろすと同時に、特大の溜息をついて机に突っ伏す。


「はぁ~~~……なんか……昨日は、いっぱいありすぎて疲れたな……」


 予鈴のチャイムが鳴っている最中、前の席に座ったクラスメイトが興奮しながら、先ほどのままの体制でじっとしていた私の頭の上から、声をかけてきた。


「おはよう、華。あの話、聞いた?」


「なに?」


 顔を向けようとした瞬間、鼻先をかすめる刺激に、思わず身が震えた。


「……っくしゅん!」


 盛大なくしゃみをして鼻をすすると、クラスメイトは苦笑しながら続きを口にする。


「なんと、再来月!十一月に、転校生が来るらしいよ」


「へぇー。そんな時期に珍しい」


「そうそう。だから噂になってるんだよね」


 ガラリと教室の扉が開き、担任の浅間先生が入ってきた。

 慌てて顔を上げて、私達は前を向く。


 丸い眼鏡にふわっとした七三分け。いつも柔らかな雰囲気を纏った担任の浅間先生はいつもパリッとアイロンをかけたシャツとスラックスを着ている。おじさんというよりもおじ様という方が近い。丁寧な人だけど、意外と怒ると怖いらしい。


「皆さん、おはようございます。さて今日は……」


 穏やかな口調ではじまった浅間先生の朝礼を終え、一時間目は国語。そして、数学・理科・美術・社会・英語と続く。お昼ご飯後の社会の授業はまるで子守歌のように眠気を誘った。まぁまぁ退屈な一日の授業を受けきり、何事もなく一日が終わる。


 そういえば、学校の中ではシロの姿を見ていないなと思いながら校門を出ようとした時、


「おかえり、華」


 耳元で聞こえた声に心臓が跳ね上がり、反射的に学生鞄からパッと手を離してしまった。鞄はそのまま私の足の上にドサリと落ちる。


 目の前には、着地音ひとつ立てず、ふわりと木から降りてきたであろうシロの姿があった。口から心臓が飛び出しそうになるのを、私は必死に飲み込む。


「……おっと、大丈夫か? ほら、急に手離したら危ないで」


 シロはひょいと私の足元から鞄を拾い上げる。


「今日は眠そうやったなぁ……まぁ、しゃあない。お昼ご飯の後の社会の先生の声ってお経みたいで眠たなるもんな」


 ……どうやら、私が眠そうにしていたから鞄を落としたと勘違いしているらしい。

 もう!一体誰のせいだと思っているんだか。

 私はシロをジロリと睨みつけ、その手から鞄をひったくった。


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