第6話:お風呂上りは艶やかに②
「では、いきます」
私は緊張する心を奮い立たせる為、気合の掛け声と共に、毛先へとハサミをいれる。
プロ絶賛の切れ味!ぶきっちょさんでも綺麗に切れるハサミ!という宣伝文句がパッケージに大きく書かれていた、安心安全のヘアカット用だ。実際に私も使っているハサミで、素人なりに本当に上手に切れる。
シャキシャキ。
静かな音だけが、密室の風呂場にこだまする。
シャキシャキ。
さらさらと流れる髪は、よく見ると、光を透かして少し銀色にも見える。
「前髪も少し切るね」
「ん」
口を閉じたまま、小さく同意をするシロ。
正面へと回り込むと彼の顔がよく見えた。
髪はもちろん、キリっと整った眉毛も、目を閉じると影が出来るほどに長いまつ毛も、その全てが真っ白だ。人間ではないことは明らかで――
なんて神秘的なんだろうとその美しさに見惚れていると、シロに声をかけられた。
「華?」
邪な気持ちを見抜かれたようで、私は慌てて続けた。
「あ、後は一回流そうか。しっかり下を向いて――」
言い終わらないうちに、シロがシャワーの蛇口を手探りでひねってしまった。
その途端、まだ温まっていない冷たい水が、最大出力で頭上から勢いよく降り注いだ。
「ぴゃー!?!?」
シロの情けない大声が風呂場に響き渡り、二人揃ってびしょ濡れになってしまった。
フルフルと犬が水を切るように全身を震わせたシロは、洗面所へと飛んで出てしまった。
冷たい水がいきなり降ってきたらびっくりしちゃうよね……ごめん。
あらかじめ準備していたお兄ちゃんのTシャツと短パンに着替えてもらう。
大学生であるお兄ちゃんの服は、シロには少し大きくて、首元や袖口がぶかぶかしているが、私の服だと小さすぎるので、少し我慢してもらおう。
自分のお風呂もささっとすませ、ドライヤーでシロの髪の毛を乾かし、櫛で整えてあげる。
さっきの全身水浸し事件で、驚いて倍の大きさに膨れ上がったシロの尻尾。あのおかしくもかわいい光景を思い出して、内心にやけながらドライヤーの温風をシロの頭に吹きかけた。
うん。サラッサラ。まるで美髪シャンプーのCMのように艶やかだ。
シロの髪の毛をもて遊びながら乾かしているうちに、なんだか心がほっこりするような幸せな気持ちになってきた。
しばらくその手触りを楽しんでいると、シロがドライヤーを渡せというように、手を伸ばしてきた。
「ん。僕も華の髪、乾かしたるわ」
「えっ、いいよ。いつも自分で乾かしてるし」
「まだビシャビシャやん。……ええから。僕がやりたいねん。後ろ向いて」
強引気味にドライヤーを受け取り、私の後ろから髪の毛にそっと触れる。
「華の髪の毛、綺麗やな……普通の狐の色や」
そう言ってドライヤーを傾けるシロの声は、よく聞こえない。
でも何かを含んだ声色をしていた。
「シロ?」
「……いや、なんもない」
そう言ってはぐらかすシロに内心で首を傾げながらも、頭を包み込む暖かな風と、少し爪の当たるシロの指先の感触が、少し恥ずかしくて、嬉しかった。




