第61話:希望の華を見つけに⑤
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巨大だったオロチは、今や見る影もなく、土にまみれた小さな蛇へと成り果てていた。震えるその身体は、今にも消えてしまいそうな程に弱弱しく、悲しいものだった。
「あぁ……花嫁……我の……」
掠れた声で呟くオロチを、私はそっとすくうように手の平に乗せた。
傍らでシロが、警戒するように低く唸り、喉を鳴らす。けれど、私は首を横に振った。
「もう大丈夫。オロチ……あなたの有るべき所に行こう」
もう、一人で寂しくないように。
次は、きっと叶うはず。たった一人の大切な人と、心から笑い合える場所へ。
「あぁ、温かいな……華の手は……」
僅かにそう呟いたオロチの瞳から、濁りが消えていく。その身体は光の粒へと変わり、私の指先を優しく撫でるようにして、ゆっくりと空へと溶け出していった。
◇
「またおいで」
「うん! また来るね。おじいちゃん、ありがとう!」
おじいちゃんに挨拶をすませると、私は寺務所の扉をガラリと開け、日の光で水面が煌めく蓮池の方へと歩みを進めた。
ふと、傷のあった場所をそっと撫でた。シロに引かれた肩から胸への傷は、三週間ほどですっかり痕も消えていた。深くはえぐられていなかったことに、彼の優しさが垣間見えるようだった。
小さな芽が浮き始めた蓮池のほとりには今、小さいけれど立派な祠がある。
おじいちゃんにお願いして、オロチが静かに眠れるよう建ててもらったものだ。理由も聞かずに快諾してくれたおじいちゃんには、ただ感謝しかない。
「次こそは、たった一人の大切な人と一緒になれますように」
私は祠に手を合わせ、心からの祈りを込めた。
◇
緑が芽吹き、春の気配を感じる朝。
いつものように学校へ行く途中で、私はふと足を止めた。
道端の側溝に落ち、泥にまみれてもがいている小さな蛇。以前の私なら、きっと目を逸らして逃げ出していたはずだ。けれど、今は違う。
私は迷うことなく手を伸ばし、その冷たい身体を優しくすくい上げていた。
「えっ! 華、蛇のこと、大丈夫になったんだ?」
「……ちょっとだけね」
驚いた声でこちらを覗き込む三葉に、私は小さく微笑んだ。
オロチが天に昇ってから、私に降りかかっていた不運はきれいさっぱりとなくなった。何もないところで転ぶことも、泥にまみれることも、もうない。
波一つない、透き通るように穏やかな毎日が続いていた。
けれど、この時の私には知る由もなかった。
美しく澄んだ水面の下——泥水に深く張った黒い根が、誰にも止められないほどに広がっている事を。
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