表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/65

第61話:希望の華を見つけに⑤

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 巨大だったオロチは、今や見る影もなく、土にまみれた小さな蛇へと成り果てていた。震えるその身体は、今にも消えてしまいそうな程に弱弱しく、悲しいものだった。


 「あぁ……花嫁……我の……」


 掠れた声で呟くオロチを、私はそっとすくうように手の平に乗せた。

傍らでシロが、警戒するように低く唸り、喉を鳴らす。けれど、私は首を横に振った。


「もう大丈夫。オロチ……あなたの有るべき所に行こう」


 もう、一人で寂しくないように。

 次は、きっと叶うはず。たった一人の大切な人と、心から笑い合える場所へ。


「あぁ、温かいな……華の手は……」


 僅かにそう呟いたオロチの瞳から、濁りが消えていく。その身体は光の粒へと変わり、私の指先を優しく撫でるようにして、ゆっくりと空へと溶け出していった。



「またおいで」


「うん! また来るね。おじいちゃん、ありがとう!」


  おじいちゃんに挨拶をすませると、私は寺務所の扉をガラリと開け、日の光で水面が煌めく蓮池の方へと歩みを進めた。


 ふと、傷のあった場所をそっと撫でた。シロに引かれた肩から胸への傷は、三週間ほどですっかり痕も消えていた。深くはえぐられていなかったことに、彼の優しさが垣間見えるようだった。


 小さな芽が浮き始めた蓮池のほとりには今、小さいけれど立派な祠がある。


 おじいちゃんにお願いして、オロチが静かに眠れるよう建ててもらったものだ。理由も聞かずに快諾してくれたおじいちゃんには、ただ感謝しかない。


「次こそは、たった一人の大切な人と一緒になれますように」


 私は祠に手を合わせ、心からの祈りを込めた。



 緑が芽吹き、春の気配を感じる朝。


 いつものように学校へ行く途中で、私はふと足を止めた。


 道端の側溝に落ち、泥にまみれてもがいている小さな蛇。以前の私なら、きっと目を逸らして逃げ出していたはずだ。けれど、今は違う。


 私は迷うことなく手を伸ばし、その冷たい身体を優しくすくい上げていた。


「えっ! 華、蛇のこと、大丈夫になったんだ?」


「……ちょっとだけね」


 驚いた声でこちらを覗き込む三葉に、私は小さく微笑んだ。


 オロチが天に昇ってから、私に降りかかっていた不運はきれいさっぱりとなくなった。何もないところで転ぶことも、泥にまみれることも、もうない。


 波一つない、透き通るように穏やかな毎日が続いていた。


 けれど、この時の私には知る由もなかった。


 美しく澄んだ水面の下——泥水に深く張った黒い根が、誰にも止められないほどに広がっている事を。



お読みいただきありがとうございます。このお話の続きを楽しみにしてくださる方は、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ