第55話:一途な恋は届かない
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「白狐風情が、己のものだと!?……羽虫ごときが!笑わせてくれる!!」
手当たり次第に物を投げ、蓮池の底で荒れ狂っておられる、かの御方。
周りでは錦の鯉たちがご機嫌とりに慌てふためいている。
「じわりじわりと我の愛を吸って大きく育ってきておる。婚礼の日までは現世でのびのびと育ててやろうと思っていたが……五月蠅い羽虫が飛び回る故、我の傍に置いておくとしよう」
私は朱色の衣を引きずりながら、彼の元へと歩みを進めた。
愛するオロチ様。
あんな人間の娘などに懸想せずとも、私がおります。
皆の願い、龍になれなくとも、私はオロチ様のお傍にいるだけで構いません。
永遠に一緒にいられたらば、なんと幸せなことでしょうか。
「オロチ様……あの娘でなくとも良いではないですか。私が……私たちがあなた様のお傍におります」
「そんなこと!五百年も待っておったのだぞ!……鯉の分際で我に進言するな!!」
「うぅ……オ、オロチ様……」
喉の奥から唸りをあげ、振り向いてくださったけれど。
もはや、この身も心もオロチ様のその爪で裂かれてしまった。
苦しい。
けれど、これがあなた様に触れられた最初で最後の証。
あぁ、オロチ様。
お慕いしております……。
お慕いしておりました……。
私では叶いませんでしたが、あなた様がどうか、どうか、安らぎの時を過ごせますように……。
あなた様は私の姿など見えてはいない。
その眼差しは、水面に映る、現世の花嫁へと注がれている。
「少々早いが、迎えに行こう。我の花嫁」
そして、私は祝いに喜ぶ同胞の声を聞きながら、静かに泡となって消えていった。
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