第54話:華は二十歳まで
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ブンタさんに案内されて辿り着いたのは、繁華街の奥に位置する路地の一角だった。
無造作に置かれた古びた机と椅子。その上には占いの本や提灯が置かれている。その瓦礫のような道具の中に埋もれるようにして、お婆さんが座っていた。彼女は舟を漕ぐようにゆらゆらと頭を揺らして居眠りをしている。
「よぉ、婆さん」
「……はぁ。……あ? アンタ、この間の奴か」
ブンタさんが声をかけると、お婆さんがぼんやりと瞼を持ち上げた。私は緊張で喉を鳴らしながら、小さく会釈をした。
「この間、婆さんが言うとった女の子、連れてきたで」
「なかなかごゆっくりじゃったなぁ……どれ……」
お婆さんは机の上から大きな虫眼鏡を掴み、ジロジロと髪の毛の一本一本からつま先、爪の先までじっくりと舐めまわすように、私を視た。
「うーん……娘さん、アンタ、人間じゃなくなる。……そうだねぇ……アタシの見立てによると、二十歳だ。ハタチ! ……二十一歳にはなれん」
いきなり、ここに連れて来られて、衝撃の宣告。
脳が処理しきれず、思考が激しく揺れる。呆気にとられた私が無言でシロを見ると、彼はそのお婆さんを馬鹿にするように鼻で笑った。
「二十歳で、人間じゃなくなるぅ!? ……なんや意味わからん事いうとるわ。怪しいおばあやで。ブンタ、騙されとるんちゃう?」
「じゃかあしいわい!白狐なんかにわかるもんかい」
「……え。僕の姿も見えてるん……?」
ブンタさんはさておき、神格の下がったシロは他の誰にも見えないはず。なのに、お婆さんは、しっかりくっきりシロを認識している。
シロはぎょっとした顔で、お婆さんを指し、ブンタさんの方へふり返った。
「そう、らしいなぁ」
「……。おばあ……妖怪か、なんかか……?」
「じゃかあしいわい!」
信じられない話ではあるけれど、まぁまぁヘビーな話題のはずなのに、目の前で繰り広げられるコントみたいな会話ときたら、あまりに滑稽で現実味がない。
そんなシロとお婆さんがゼェハァと言い合いをしている横でブンタさんは煙草を燻らせながら何か考えを巡らせているようだった。
――二十歳で人間じゃなくなる。
この世からいなくなるというのは、家族にも友達にも、そしてシロにも会えなくなるという事だ。大切な人たちに会えなくなる。そんな事、少しでも想像するだけで身震いが止まらない。頭の中が真っ白になりながらも、半信半疑でお婆さんへと問いかけた。
「っていう事は、私は『死ぬ』ってこと、ですか?」
「はぁ!?なんで華が死ぬねん!?」
シロはお婆さんへと、また食って掛かかる。
でも、そんな彼にはもう目もくれず、お婆さんはこちらへ向き直り、真剣な顔で私に告げた。
「娘さんは生贄の娘に選ばれとる」
「生贄って……昔話じゃあるまいし。この時代にそんな事……」
私は眉をひそめ、思わず、へらりと笑ってしまう。
「……五百年に一度の生贄じゃと聞いておる。そういうもんは、古今東西、生贄の娘を捧げんと嵐が巻き起こり、地は沈むという天災が起こるもんじゃ」
「なんやそれ。」
シロがまた悪態をつき始めた。けれど、お婆さんのさっきまでとは全く違う、鬼気迫る表情に口をつぐむ。
お婆さんは机から身を乗り出し、私の肩を掴むと、私の瞳をじっと凝視しながら続けた。
「……娘さんは『水難の相』が出とる。重々、気を付けなはれ」
肩に跡が残るほどのお婆さんの手の力に驚きながら、私はただ、こくりと頷くことしかできなかった。
ここに着いてからずっと、ブンタさんは何も話さない。
そんな立ち込める冷たい空気を破るように、シロが私へ向けて笑顔向けた。
「大丈夫や!華!僕が絶対守ったるからな!」
「ふふ。私もシロの怖いものから、守るからね!」
「……僕は怖いモンなんか無いわ」
私達はいつもよりも言葉数少なく、帰路に着く。
お婆さんの予言はあまりに突拍子もなかった。でも、あの鬼気迫る顔で真剣に語る様子を見てしまうと、全くの嘘だとも思えない。
それでも、私はその言葉を心の奥深くに沈め、日常の続きをただ歩き出すしかなかった。
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