第50話:三葉と雪に舞う約束①
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今日から念願のスキー合宿。
私たち中学二年生一行を乗せたバスは、徐々に標高を上げながら、千五百メートルの中級山岳へと向かっている。
あれからシロは特に何事もなく、あれは夢だったのかと思うほどにいつも通りだった。
そして、今、シロとミトラはバスの屋根に乗って同行している。屋根の上に二人きりだと、少し気まずいかもしれないと思ったけれど、当の二人はいつものように平然としていた。あんなに気を揉んだのは何だったのだろうと、なんだか損した気分だ。
バスの中、隣の席の三葉としおりを広げる。
「なにかあったらすぐに先生へ。万が一滑落したら、その場から動かず助けを待つこと!まぁ、そうだよねぇ……そういえば、華はおやつ何持ってきた?」
「私はやっぱりキャラメル!」
「あはは!やっぱり持ってきてるー!華、好きだねぇ、キャラメル!」
鞄の中のお菓子を見せあいながら、そんな他愛ない会話で盛り上がっていると、外の景色はみるみる銀世界へと変わっていった。
山の麓の宿泊施設に到着し、お弁当を食べて、部屋へ荷物を置き、早速スキーウェアに着替える。
「おーい!方波見さん!こっちだよー!」
璃九が三葉を呼んでいる。初心者コースへと向かう私と運動神経抜群の三葉とはここでお別れだ。
「はーい! 呼ばれたから行ってくるね!」
「うん!三葉、また夜にね!」
軽快に滑って去っていく三葉を見送って、私はのろのろと初心者コースへ向かった。
初心者コースは、カニ歩きでの登坂に始まり、八の字での練習。
「カニ歩きで上まであがりますよー!ハイ、イチ、二!イチ、二!」
インストラクターさんの掛け声に合わせて登る。スキー板を八の字にして、すいー……。少し下るだけでも頬に触れる風が心地いい。
滑るのは一瞬だし、転んで起き上がるだけでも一苦労だけど、それでもスキーは楽しい。ほぼカニ状態で、一日はあっという間に過ぎていった。
宿へ戻ろうとした時、ふと、視界の端が霞んだ。
「ん……?」
目をこすっていると、友人が心配そうに覗き込んできた。
「華、どうしたの?」
「なんだかちょっと目がぼやけてて。最近ちょっと霞むっていうか見辛いっていうか。一面の雪景色で目がくらんだのかな」
「そうなの? 視力を回復させるには、遠くの緑を見るのが一番いいって言うよね」
そう言って手袋越しに遠くの森を指しながら、笑った。
「ここじゃあ、あんまり緑は見えないね。……あ、雪だ」
チラチラと雪が舞い始めた時、友達は私の事をニヤリと笑いながらつつく。
「そういえばさ、校門で着物……作務衣?みたいなの着た男の子と話してたよね。沙門くんとさ、どっちが本命なの~?」
(シロの事、見られてた!?)
いきなりの指摘に、心臓が跳ね上がった。友達の無邪気な好奇心が私を襲う。
「えっ……いや……その……」
「教えてよ~!」
「っ、いや……シロとはそんなんじゃないから……ッ!」
真っ赤になる顔を隠し、しどろもどろに言い返しながら、私は足早に部屋へと逃げ帰った。
(どうか、シロに今の会話を聞かれていませんように!)
そんな祈りを込めて、部屋のドアを閉めた。
ふと窓の外に目をやると、さっきまでの明るさが嘘のように薄暗くなっている。雪の勢いもどんどん強まり、まるで世界を塗りつぶすかのように密度を増していた。
しばらく部屋で待っていると、同室の友達が戻ってきた。けれど、一緒の班だったはずの、三葉の姿が見えない。
「あれ? 三葉は?」
私が尋ねると、友人は青ざめた顔で私を見た。
「華……三葉、まだ帰ってきてないの……!」
◇
夜になっても、三葉は帰ってこない。
嫌な予感が全身を駆け巡る。刻一刻と状況は悪化し、外は本格的な吹雪に変わっていた。
先生たちの話によれば、捜索隊が出ているものの、吹雪が激しすぎて安全確保のために撤退せざるを得ないらしい。
夕食ものどを通らず、心配した先生がおにぎりを部屋まで運んでくれたけれど、それすらも手つかずのままテーブルに置かれている。
居ても立っても居られない。けれど、今の私が行ったところで足手まといにしかならないことは分かっている。
(どうか、三葉が無事でありますように……)
永遠にも思える時間の中、ただただ祈ることしかできない自分が歯がゆい。窓の外の闇へ、私はただ目を凝らすしかなかった。
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