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一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか
第二章

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第48話:早くこいこい、お正月②

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 お昼からは三葉と神社へ初詣。

 三葉は親戚の家へ行ってから来るため、神社の石段下で待ち合わせをしている。


 今、私が通っている神社への近道は、子どもの頃よく遊んだ道だ。人通りが少なく、昔はよく三葉や他の友達と葉っぱをちぎって紙吹雪のように散らしたり、枝を振り回しながら通った。


「華、ここ久しぶりやな」


「うん。何年ぶりだろう」


「藪が動いた時、『蛇やー!』って言うてびっくりしてたもんな」


「だって!蛇、苦手なんだもん!」


 シロとそんな他愛のない昔話に花を咲かせていると、偶然、沙門くんとミトラに会った。


「一蓮さん!明けましておめでとう!」


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくね」


「今から初詣?俺も友達と待ち合わせなんだ。よかったら途中まで一緒に行こう」


 返事を返しつつ、沙門くんからは見えないミトラの背中にそっと手を伸ばした。ミトラの背中から尻尾をさり気なくするりと撫でると、頭を私の手の甲にコツンと当てて返事を返してくれた。


(うぅ……ミトラ、可愛い!)


 ミトラを一撫でして嬉しい気持ちが爆発してしまいそうになるのを必死に堪え、何でもないような顔で沙門くんと世間話をしながら歩き始めた。


「ねぇ、変な事聞いてもいい? 前から気になってたんだけど、もしかして……一蓮さん、僕の後ろの『虎』の事、見えてる?」


(沙門くんはミトラの事、見えないはずじゃ……っ!?)


 あまりの唐突さに動揺が全身から溢れ出る。声は上ずり、目は泳ぎ、指が忙しなく動いてしまった。


「え、えぇっ!?な、なんで……?」


「一蓮さん、時々、僕の後ろを気にしているみたいだったから」


「そ、そっかなぁ……? そんなことないと思うけど……」


 彼の質問に私の目はキョロキョロと動き、変な汗も吹き出す。困惑する私に、彼は寂しげに、けれど真っ直ぐに続けた。


「他の人にはあまり言ってないんだけど、僕の家って、いわゆる祓い屋の家系なんだ。僕は次の当主になるらしくてさ。虎が守護してくれているみたいなんだけど」


 沙門くんは言葉を一度飲み込み、消え入りそうな声でつけ足した。


「……僕には虎の姿が見えなくて」


 彼はミトラが傍にいることを知っていた。その事実に、私は意を決して、彼に向き直った。


「……うん。私、見えるよ。沙門くんの側にずっといる。名前はミトラ。とってもかわいい、虎の女の子だよ」


「そうなんだ……やっぱりいてくれたんだね」


 沙門くんは、ミトラのいる方向を慈しむように見つめた。


「……ありがとう。 小さい頃から悲しい事や辛いことがあるとたまに優しく包まれる時があって、温かい香りがしたんだ。……きっと、ミトラが傍にいてくれたんだね」


 彼の言葉をじっと聞いていたミトラの瞳から、大粒の涙が一つ零れた。姿は見えなくても、二人の心は確実に通じ合っていたのだろう。


 そこからは、今まで学校の友達には話せなかったという彼の『家』の話を、楽しそうに語ってくれた。


「……例えば、九字切りっていうものがあるんだけど……あ、興味ないよね?ごめん。あんまりこういう話って人にしたことなくって。つい、ミトラが見えるっていうから調子に乗っちゃった」


「ううん!全然そんなことない。沙門くんの話、面白いよ」


 そう伝えると、彼は少しはにかんだ。


「……ありがとう。歴代の当主だけが見ることが出来るミイラとかいるらしいんだよね。先祖代々守ってるんだって。当主になっちゃうとそれも絶対に見ないといけないらしくて……正直、ちょっと怖いんだよね」


「あはは……それは、ちょっと嫌かな……なんだか、やんごとないお家も大変なんだね、沙門くん」


 「あ」と小さく呟き、沙門くんが手を叩いた。


「そうだ、沙門くんって呼ばなくていいよ。前の学校でも呼ばれてたし、そっちの方が馴染みがあるから、『璃九』って呼んで?」


「え、う、うーん。 わかった……璃九くん」


「……うーん、呼び捨てがいいな。璃九くんって言われると、なんだかくすぐったいから」


「わかった。……じゃあ、『璃九』。それなら、私のことも『華』って呼んで」


「一蓮さん、華っていうんだ。わかったよ、華!」


 彼がそう笑うだけで、まるで風が吹き抜けたように周囲が明るくなり、太陽のような眩しさを感じた。


 ニコッと笑う爽やか笑顔の沙門くん……じゃなかった、璃九にそう呼ばれて、私は思わずドキッとした。友達や家族、シロには呼ばれ慣れている『華』という名前。


 物心ついてから、同級生の男子に名前を呼び捨てにされたことなんてない。驚きと照れが混ざり合い、胸の鼓動が激しく波打った。

お読みいただきありがとうございます。このお話の続きを楽しみにしてくださる方は、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。どうぞよろしくお願いします!

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