第47話:早くこいこい、お正月①
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今、私の背後に、シロが立っている。
クリスマスを境に、シロがなんだかすごく、私の近くにいる。いつもとは少し違う。他の人には見えないことをいいことに、四六時中べったりと張り付いているのだ。
ペンを落とせばさっと拾って、肌寒いなと思えば上着をそっと羽織らせてくれる。……とにかく甲斐甲斐しい。
私が台所にいると、以前はソファで寛いでいたのに、今は私の真後ろに立ち、じっとこちらを見下ろしている。
「な、なに?」
「んーん。なんもないで」
シロは自覚がないのか、きょとんとした顔で小首をかしげる。後ろをふり返るとすぐに、なんなら胸に飛び込んでしまいそうな距離にシロがいる。あまりに近すぎる。
あの夜を思い出してしまって、心臓が持たない。
胸の動悸を抑えながら、私はおせちのお重を抱えてテーブルへ向かった。おせちは毎年決まって商店街の仕出し屋さんのものだ。どれも美味しいけれど、伊達巻は特に美味しくて、毎年楽しみにしているのだ。
「ありがとう、華。お父さんは今年もお仕事でいません!でも、今年はシロがいるからにぎやかだなぁ!……俺には見えないけど」
お兄ちゃんはちょっぴり毒づきながら、手慣れた様子でお重の蓋をパカリと開けた。
「今年のお重も美味しそうだなぁ。……いいか? 黒豆はまめに働く、数の子は子孫繁栄、田作りは五穀豊穣、昆布巻きはよろこんぶ、海老は腰が曲がるまで長生きに、伊達巻は学業成就、栗きんとんは金運。一年の幸せを願う縁起の意味がそれぞれ込められているんだぞ」
「……お兄ちゃん、それ、毎年言っているよね」
「ははっ!伊吹の話は時々役に立つなぁ。面白いわ」
私の言葉を無視して、お兄ちゃんは手に持った祝箸を横へ向け、私に見せた。
「お正月に使う、この祝箸は一方を神様、一方を人が使うとされる縁起物なんだそうだよ。神様と共に食事をすることで1年の恩恵を授かれるんだって」
「……そうなんだ……でもさ、お兄ちゃん。早く食べたい」
お兄ちゃんのうんちくは面白いんだけれど、長い。
「なっ!?……大事な事だから!……さぁ、いただく前に新年のご挨拶だ」
お兄ちゃんがわざとらしい咳払いをし、私たちは姿勢を正す。
「あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」
「さぁ、いただこうか」
「うん!」
煮しめ、かまぼこ、田作りと、一通りを自分のお皿へ盛り付けようと箸を伸ばす。
「……でもさ、こんなに長い休みなのに、シロが見えないなんて、シロに会えないなんて……」
私が黒豆に箸をつけた瞬間、お兄ちゃんがぼやき始めた。
可哀想に思っていたけど、こんなにしょっちゅうテンションを下げられたら、面倒くさい。しかも今日は一月一日。こんなおめでたいお正月の日に一緒にテンションを下げたくはない。
私はせっかく持った箸を置いて、お兄ちゃんの背後へと周り、彼の頭を両手で持って、シロがいる方へと向けた。
「もう、お兄ちゃん!!せっかくのお正月なんだから、テンションあげて!!……ほら、見て!シロが数の子食べてる!」
「数の子って初めて食べたわ。ポリポリ粒々で面白いな」
「ほら!伊達巻も!」
「伊達巻はふわふわでうまいな」
「わぁ……本当だ……!」
私には見えているシロもお兄ちゃんには見えていない。
きっと空中で数の子や伊達巻が消えているのだろう。
それでも空間に消えていく伊達巻に慈しむ目を向け、感嘆の声をあげた。
何とも言えない表情で伊達巻を頬張るシロと、虚空に向かって幸せそうに目を細めるお兄ちゃん。その光景を交互に見比べながら、私はおせちを口に運んだ。
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