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一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか


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第4話:こんな子、初めて

 照りつける西日がとても眩しい。


 今日は大学の講義も早く終わり、バイトも珍しく休みだ。そして今、俺はかわいい妹と一緒に夕飯でも作ろうと買い物袋を下げて帰宅している。


 いつも一人で寂しく過ごしている華を、たまには驚かせてやろう。


 玄関の扉を開け、足を踏み入れた瞬間、何か奇妙な違和感を感じた。今日はなんだか家の雰囲気が違う……ような気がする。


 不思議に思いながらも、玄関からリビングに向かって帰宅したことを告げた。


「ただいま」


「「おかえり」」


 ……ん? 何かが、おかしい。

 聞きなれた華の声に重なるように、それとは全く質の違う、おかえりという言葉が聞こえる。とんでもない異変を感じ、慌てて靴を脱ぎ捨て、リビングへ向かった。


 パタパタとこちらへ駆けてくる妹――の後ろで、作務衣姿の不思議な出で立ちの男の子にも一緒に出迎えられた。驚く俺に、ひらひらと手を振りながら、軽い挨拶をしてくる。


「はじめまして、やろかな?」


 俺は礼儀正しい挨拶も忘れて、ただ言葉を投げかけることしかできなかった。


「……華の友達……コスプレ、か?」


「ちゃうわ!正真正銘、本物や」


 間髪入れず、関西弁の鋭いツッコミが飛んできた。


 俺はしっかりとその姿を観察した。作務衣を着た、何やら顔の整った白い髪の男の子。背は俺より少し低い。目は金色。口元には鋭い犬歯が見え隠れしている。しかも、頭の上についていたのは、手を伸ばして触りたくなるような、ふわふわの白い耳……じゃなかった。


 いや、ここは兄としてしっかりせねば。


「華、こいつ、誰?」


「さぁ……」


 首を傾げる妹の横で、そいつはニヤッと不敵に笑った。


「僕はとってもよぅ知っとるで。伊吹いぶきお兄ちゃん」



「華、これはどういうこと?お友達……とはいえ、男と二人で家で過ごすなんていけない」


 リビングの床に正座させられ、お兄ちゃんが目の前に座る。お兄ちゃんと真正面から向き合わされ、私は下を向くしかなかった。完全にお説教モードだ……。

 シロの方を鋭く睨み付けながら、お兄ちゃんはさらに言葉を続けた。


「だいたい、きみに『お兄ちゃん』なんて呼ばれる筋合いはない!」


 それを聞いて楽しそうにケラケラと笑うシロに、お兄ちゃんは眉をひそめた。


「そのかわいいふわっふわな耳……じゃなかった。その耳や目はどうしたんだ。その姿だと、まるで妖怪――」


 そこまで言って、ハッと何かを思い出したようにお兄ちゃんの顔が強張った。

 その様子にニヤニヤとした笑みを浮かべ、シロはお兄ちゃんを指差した。


「伊吹は、なんとなく僕のこと気付いとったやろ。たまにこっち見とったやん。お!目合った!と思う時、あったで」


「あ……あれ、お前か!時々、ふわ~っとした白いモノが横切ったり、狐みたいな影を見た気がしてたんだよ。可愛い感じがして……じゃなかった……悪い感じはしなかったし、気のせいだと思っていたんだが……」


 必死に言い訳をするお兄ちゃん。それ、私にも言って欲しかったな。


「狐……ねぇ」


 シロはフム、と顎に手を当てて考えるポーズを取ったかと思うと――ポンッ!と軽い音を立てて、その場で真っ白な狐の姿に変わってみせた。


 と同時に、私たちは我慢出来なくなってしまった。


「「は、わぁあああ~~~~~~!!」」


「おぉ、耳は意外とすべすべだ……!爪はちょっと長すぎるな。今度切ってあげよう」


「に、肉球が!肉球がぷにぷにだ~~!!」


 狐を後ろから抱きかかえ、健康チェックするお兄ちゃんと、前からぷにぷにの肉球をひたすら堪能する私。


「や、やめろや……!」


 さっきまでの威厳はどこへやら。私とお兄ちゃんに全力でもみくちゃにされ、白い毛玉と化したシロが苦しそうに悲鳴をあげていた。



「……先ほどは失礼いたしました。」


「ええか!?アレはさすがにやりすぎや!」


 私とお兄ちゃんに全力でもみくちゃにされ、白い毛玉と化した狐は、ハァハァと息を切らせながら元の男の子の姿に戻っていた。


「恥ずかしいし、苦しいし……もうやらん」


「「えぇっ!そんなぁ……」」


 この世の終わりかというほど、二人揃ってさめざめと絶望の表情を浮かべる。

 そんな私たちのことがよっぽど可哀想に見えたのか、シロは少しだけ同情するように耳をピコッと動かして譲歩してくれた。


「しゃあないな……たまに、やで」


 私とお兄ちゃんが安堵の溜息をついている間に、シロはお兄ちゃんが床に置いた買い物袋をゴソゴソと漁っていた。


「今日の晩ごはんは何かなぁ。お、これは!お好み焼きの材料やん!好きやわぁ、お好み焼き。甘いキャベツを引き立たせるふわふわっとした生地にカリカリの豚肉。そんで、お好みソースとマヨネーズ、青のりにかつお粉をばーっとかけて頬張ると、なんとまぁ複雑な旨味が広がるんや。うんうん。これは素晴らしい!えぇ晩ごはんや!」


 さっきまで怒っていたはずなのに、お好み焼きの解説を始めた途端、信じられないほどの早口でまくしたててきた。

 あまりの熱量に私とお兄ちゃんが唖然としていると、シロは急に大真面目な顔になって、買い物袋の中から青ネギの束を指でそっとつまみ上げ、こちらを向いて言った。


「なぁ……ネギは、絶対に抜いてや」


 そうだ。動物にネギって猛毒だもんね。


 彼がそう言った瞬間、ハッとしたお兄ちゃんが顔面蒼白になり、まるで爆弾でも扱うかのようにネギの束を取り上げると、冷蔵庫の奥深くに放り込んだ。

 ……そこまではしなくてもいいと思うけどな。


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