第3話:白い狐は何者だ
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「わぁっ!?」
さっきまで抱きしめられていたことを、はたと思い出す。あわてて彼から離れ、飛び上がった。
これでも一応、うら若き女子中学生。
家族以外の男性に抱きしめられたり、頭を触られたりするのは初めて。おまけに、初対面なのにあんな大泣きまでしてしまった。恥ずかしさが限界突破している。
まぁ、それはさておき。
突然大声を上げた私に驚いたのか、きょとんとした顔で首を傾げている彼を、一歩下がってじっと観察する。
パッと見た感じは普通の男の子。
中学二年生で十四歳の私よりは年上に見える。大学生のお兄ちゃんよりは少し若い。十七、十八歳くらいかな。
身長はお兄ちゃんより少し小さい。お父さんと同じくらいだ。
着ている服は、私のおじいちゃんが愛用しているような黒の作務衣。このくらいの歳にしては、ちょっと変わってるかも。
彼の顔へと視線を移す。
切れ長の瞳に、スッと通った鼻筋。あやしいまでに整った顔立ちは、イケメンというありふれた言葉では括れないほど完成されている。
さっきまでふわふわの可愛さにばかり目がいって気づかなかったけれど、今となってはちょっと直視できないかもしれない。
ここまではまぁいい。
でも、その他は普通の人とは決定的に違っている。
金色の瞳。
スラリと伸びた指先には、少し長く鋭い爪。
パサついた白い長髪。
隙間からは、ぴんと立った獣耳が覗いている。
眉もまつ毛も真っ白。
お尻ではボリュームたっぷりの尻尾が揺れていた。
うーん、やっぱりふわふわが可愛い。
……じゃなかった。
この現実離れした容姿の彼が一体何者なのか、本人にきっちりと問いただす必要がある。
「あのぅ……何をされている方なんですか?」
意気込みは充分だったのに、私の口からとっさに出たのは、あまりに無難で間の抜けた言葉だった。
「何者なんですか?」とか、「その耳は本物ですか?」とか、もっと他に聞かなきゃいけないことがあるはずなのに、どうして私は、こんなインタビューみたいな聞き方をしているんだろう。
「狐やなぁ。キミらの世界でいう妖怪的な? 今は華の守護霊をやっとる」
顎に手を添え、少し考える素振りを見せながら、彼は続けた。
「……産まれはまぁ……アレや。とりあえず、華のおじいの寺におった。華が五歳ぐらいの時か。けど、華が『連れて帰るぅ』って言うたからここに来たんや。僕の名前を叫びながら三時間も泣いて喚いてな」
ニヤリと意地悪く笑う彼に、幼い頃の黒歴史を暴露されたようで猛烈に恥ずかしい。その余裕のある態度が、なんとも悔しい。
そういえば、そもそも彼の名前すら聞いていない。
「……あなたの名前は?」
「あんなに呼んどった僕の名前、忘れてもうたんか?」
不服そうに耳をペタンと寝かせ、小首をかしげる。
「――『シロ』や。……華がつけたんやで」
子犬がクゥンと切なく鳴くような、哀愁漂う姿に、なんだか私が酷いことをしたみたいで居心地が悪い。
――シロ。
その名前には、なんとなく聞き覚えがあるような……。
それにしても、五歳から一緒にいたって、一体どこにいたのだろう。
「見えてなかったみたいやけど、四六時中、ずっと一緒におったで。学校でも教室の後ろで毎日授業参観しとったし、美味しそうに給食頬張る所なんか可愛かったなぁ……特にプリンの時なんかニコニコして。最近は授業が難しくなってきたから、すぐどっかに意識飛ばしとるやろ。あかんで、ちゃんとせな。立派な大人になられへん! でも――」
くどくどと、お説教のような長い昔話が続く。
それよりも――『四六時中、ずっと一緒にいた』……?
「えっ、それってお風呂もついてきてたってこと!?」
「いやぁ、さすがにそれは、なぁ? 銭湯もあかんらしいやん? エチケットやと思って」
真剣な顔で答える彼に、そこは常識あるんだ……と、妙なところで感心してしまった。
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