第45話:言葉にならないクリスマスプレゼント①
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冬休みに入って、最初のイベントといえば、やっぱりクリスマス!
我が家では毎年クリスマスイブにローストチキンやケーキを食べる。お父さんは例によってお仕事だけど、お兄ちゃんがキッチンに立って、昨日から仕込んでいた丸どりを鼻歌交じりに焼いている。
今のシロは、お兄ちゃんには見えないし触れないけれど、シロがここにいるという事は伝えている。
……そうでもしないと、お兄ちゃんの胃に穴が開いてしまうところだった。実際に頬がこけてきているし。
そんなシロと一緒にクリスマスが過ごせると、お兄ちゃんはキッチンで張り切っている訳なのだった。
……あれ?お兄ちゃん、実の妹の私よりもシロの事を気にかけてない?なんだかなぁ。と心で呟きながら、ちょっとした疑問が浮かんできた。
「狐ってケーキって食べられるのかな……あ!もしかして犬用? ごめん、用意してないや……」
「いやいや、なんでやねん!お好み焼きも食べてるやん! ネギだって別に食べようと思ったら食べれるとは思うんやけど、野生のカンがあかんって言うとるねん」
「そうなんだ。犬にも毒だからシロもダメなのかと思ってた」
「おいおい……僕はワンワン吠える犬とちゃうで……」
犬と一緒にするなと言って拗ねているシロがなんだか面白い。ちょうどオーブンからお肉の焼ける良い香りが漂ってきたので、ちょっぴり意地悪をしてみた。
「でも!お肉、好きだよね?大きいチキンあるよ?お兄ちゃん特製、ジューシーな骨付きローストチキン!……食べるよね?」
私の顔をじーっと見て、難しい顔をした後、シロは答えた。
「……うー……わん」
テーブルに顎を乗せ、むっすりとした表情でこちらを伺うシロ。わざと意地悪をしたのに、返ってきた無防備な可愛さに、私の方が胸を射抜かれてしまった。今度、狐の姿になった時にも言ってもらおう。
「はーい! チキン焼けたよ! シロも食べるから、今回は塩水に漬け込んで下味をしっかりさせたんだ」
お兄ちゃんが台所から、こんがりと色づいたローストチキンを抱えて現れた。
「わーい!」
「伊吹、すごいなぁ!」
「和風ソースにチリソース、それにサーモンのサラダもあるぞ!……ずっと課題やってたからもう頭が疲れちゃって……。いっぱい作ったから、モリモリ食べてくれ!」
お兄ちゃんの目が、これ以上ないほど輝いている。
実はお兄ちゃんは料理が趣味なのだ。普段は忙しくて凝った料理ができない分、今日ばかりはそのフラストレーションを爆発させるように手の込んだ料理が並んでいる。
「じゃあ、取り分けるね。シロ、どうぞ!」
私はローストチキンのモモを豪快に切り分け、シロのお皿へと取り分けた。
「どうぞ」
「美味しそうなとこやん。ええの?……ありがとう」
両手でチキンを掴み、シロはワイルドにかぶりつく。気持ちいいほどの食べっぷりだ。こんなに美味しそうに食べてくれる旦那さんがいたら、作り甲斐があって嬉しいだろうな。
「おぉ……みるみるチキンが骨だけになっていく……シロぉ……本当にそこにいるんだな……」
端からチキンが消えてゆく様子を見つめ、お兄ちゃんが感極まってウルウルしている。私は苦笑しながら、シャンメリーの入ったグラスを渡した。
「と、とりあえず食べよう!お兄ちゃん!メリークリスマス!」
「メリークリスマス……」
私たちはシャンメリーで乾杯し、手料理を堪能した。
「お兄ちゃん!サーモンサラダ、ドレッシングも美味しい!」
「良かった!メインがローストチキンだから、さっぱりレモンドレッシングにしたんだよね」
お兄ちゃんはモクモクと食べるシロの方向を追うように視線を動かし、百面相をしている。全く見えていないのにシロがそこにいる事を感じているようだ。
「寂しいよぉ……もふもふしたいよぉ……」
お兄ちゃんがシロロスでメソメソし始めている。
これは重症だ。
可哀想なお兄ちゃん。その気持ちは痛いほど分かるけれど。仕方ないので、わたしの部屋からシロの四つ足狐状態ほどのくまちゃんのぬいぐるみを持ってきて、お兄ちゃんの膝に乗せてあげた。
「はい、お兄ちゃん。このくまちゃんで我慢して」
「……ありがとう、華……」
膝に抱えたくまさんを撫でながら、お兄ちゃんは少しだけ表情を和らげた。
手作り料理を堪能した後は、いよいよお待ちかねのクリスマスケーキ!
私の大好きなケーキ屋さんのクリスマス限定ケーキで、ケーキの上ではたっぷりのイチゴとサンタさんとトナカイが踊っているマジパン、そしてロウソクが華やかに飾られている。
部屋の電気をパチリと消して、誕生日会よろしくロウソクに火を灯す。
「今年はシロが吹き消して!」
「僕でええの? わかった。……フー……」
シロが優しく息を吹きかけると、炎が揺らぎ、辺りは真っ暗になった。電気をつけ直すと、満足そうに微笑む彼の顔があった。
「さぁ、ケーキも食べよう。華。お皿とって」
お兄ちゃんが切り分けてくれたケーキをシロへと渡す。
この細い身体のどこへ入っていくのか、ケーキはまるで魔法のように、もしゃもしゃと消えていく。
「おぉ……ケーキが減っている……シロ……美味しいかぁ?ふふ、いっぱい食べな―」
怖い。
お兄ちゃんが憑りつかれたみたいで本当に怖い。
そんなお兄ちゃんを尻目に、私は大きくフォークでケーキをすくい上げ、幸せを頬張る。
いちごと生クリーム、スポンジのふわふわのマリアージュってなんでこんなに幸せな気持ちになるんだろう。私の表情は、自分でも制御できないほど自然と綻び、ゆるゆると笑顔になっていく。
ふと視線を感じて隣を見ると、シロと目が合った。彼は目を細め、私の様子をじっと眺めていたようだ。
「ケーキってうまいんやなぁ。……あ、華。ほっぺたにクリームついてるで」
彼がそう言いながら、すっと私の頬に手を伸ばしてきた。
突然の距離の近さに、心臓が跳ねる。シロは迷いのない手つきで親指を私の左頬に滑らせ、ついたばかりの真っ白なクリームを拭い取った。
そのあとの光景は、一瞬の出来事だった。
シロは私の頬を拭ったばかりの親指を、自分の口元へと運ぶと、そのままペロリと舐めとった。
(……ッ!?)
心臓が大きく跳ねて、喉の奥がキュッと引き締まる。口の中に残っていたはずの甘いケーキの味も消えてしまった。
クリームを舐め終えたシロは、何事もなかったかのように「ん、うまい」と涼しい顔で微笑んでいる。
平然とこんな事をしてくるシロに私の心臓は大きく跳ねまわるばかりだ。私は動揺を必死に隠そうと、フォークを握り直して皿へと視線を落とした。
さっきまであんなに特別だった甘さも、今の私には味がよくわからない。
それでも平静を装うために、無理やりケーキを口へと放り込み、喉の奥へと押し流した。
メソメソしていたお兄ちゃんもケーキを食べ終え、パーティーはお開き。洗い物を終えたお兄ちゃんは「課題……してくる……」と、悲壮感を漂わせながら部屋へと戻っていった。
途端に、ふと静寂が訪れる。
取り残された私たちは、いつものように並んでソファに深く腰を下ろした。
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