第43話:女の子はいつだってお喋りがとまらない
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チラリと背後をふり返ると、教室後ろのロッカーに座っているシロと、床に寝そべっている大きな虎のミトラが、じっと私たちを眺めている。
あの喧嘩の後、何がどうなったのかは分からないけれど、シロとミトラは仲良く授業を見守ることになったらしい。
私には二人が見えてしまうから気が気でないけれど、これも日常の一部と割り切るしかない。存在しないものとして無視を決め込むぞ、と強く心に誓った。
◇
少し長めの休み時間。
窓の外では、冬の澄んだ陽光を浴びながらサッカーを楽しむ男子たちの声が響いている。その活気ある風景をぼんやりと眺めつつ、私は三葉や友達と五人でのおしゃべりに花を咲かせていた。
「そういえば、先輩たち沖縄、満喫してるかなぁ」
私たちの学校では、学年ごとに泊まりがけの行事がある。今は三年生が修学旅行で沖縄へ行っている。
「先輩たちの修学旅行、沖縄なんだってさ」
「羨ましいよねー! パイナップルにソーキそば、サーターアンダギー……!」
「あはは! 三葉、食いしん坊!」
想像だけでよだれが垂れそうなほどニコニコしている三葉に、友達がすかさず突っ込んだ。
「そういえば、ハブ対マングースってあるよね。あれ、今は実演してなくて映像らしいよ。ちょっと拍子抜けだよね」
「え、そうなんだ」
私は三葉と一緒に声を上げ、顔をしかめた。
「……ハブかぁ。私、蛇はちょっとダメだなぁ。ヌメッとしてるというか、つるっとしてるというか。尖った牙をむき出しにして、舌をピロピロ動かしてるし。それに、関節が外れたみたいに大きく口を開けて、シャーッて威嚇してくるし……」
「華は、蛇、見るだけでも怖いの?」
「うん。小さいころ山へ行ったときにすっごく大きな蛇に、牙むき出しで睨まれて、そこから苦手なんだよね。すっごく怖くてお母さんにずっと抱っこしてもらってたなぁ。山から降りるまで地面に足がつけられなかったもん。……あ。思い出しただけで、ぞわっとする」
蛇のことを考えるだけで鳥肌が立つ。震える身体を両腕でぎゅっと抱きしめていると、三葉が私の顔を見つめ、苦笑した。
「華は蛇のこと、そんなに苦手なんだ。……うーん、そういえばマングースはふわふわじゃない? 華は、ふわふわ好きだもんね!クロのこと撫でてる時、顔がとろけて、目がなくなってるもん」
「だってクロちゃん、いつもお腹見せてくれて、もう! すっごくかわいいんだもん! 犬は大好き! はぁ、早くあの大きな頭をなでなでしたいなぁ……。沖縄の有名な生き物だったら、そうだなぁ……豚はかわいいね」
「え、ラフテーで食べちゃうよ?」
「もう! 三葉ったら!」
皆の笑い声が教室に弾けていく。
ふと窓の外を見ると、ちょうど沙門くんがゴールにシュートを決めるところだった。転校してきてまだ二週間だというのに、彼はあっという間に男子たちの輪に溶け込み、今や中心にいる。
「冬なのに上着も着ないで、男子は元気だなぁ」
そんな様子をぼんやりと見ていると、会話の流れは沙門くんの話題になっていった。
「そういえば沙門くんって、サッカー上手なんだって!」
「鉄棒で大車輪したって聞いたけど」
「書道の全国大会で金賞取ったって聞いたよ」
「文武両道……完璧ね」
次々と飛び出すとんでもないエピソード。すごいな、沙門くん。完璧超人すぎる。
沙門くんの話題で私たちが盛り上がる中、隅にいたミトラが目を輝かせた。二本足で立ち上がると、シロに向かって大きな掌をこれ見よがしに見せつけ、ふふんと得意げに胸を張った。
「あっちの娘たちが噂している事は、ぜーんぶ本当だ! ははは! 璃九はすごいのだ!」
「ぐぅッ! 華だってなぁ! 朝、目覚まし鳴ったら、パッと起きて止められるねんで!?」
お願いだからそれ以上、意味のわからない私の自慢をしないでほしい。沙門くんの輝かしい武勇伝の前では、全部ただの墓穴にしかならないから、やめてほしい……!
友達の話を聞いたり、ミトラとシロの会話が耳に入ったりして、私の両耳はとっても忙しかった。今、私の顔は変じゃないかな。平静を装うのってすごく難しい。ひきつる顔を隠すように、私は必死に愛想笑いを貼りつけた。
「そうそう、沙門くんのお家って祓い屋? ……の家系らしいよ。山の麓の大きなお家がそうなんだって! おばあちゃんが言ってた」
この街では新しい家が少しずつ増えている。けれど、古くからあるお寺や神社といった昔ながらの建物や商店街も変わらず大切にされていて、新しさと古さが静かに混ざり合う、心地よい街なのだ。
「おばあちゃん界隈では有名らしいよね。うちのおばあちゃんも言ってたよ。昔からあるお家だよね。先祖代々悪いモノを退治するんだって。お寺とか神社みたいなもん?」
「神主さんみたいな服とか着るのかなぁ?」
「それ、絶対似合うじゃん!」
きゃあきゃあと黄色い声が弾む。
そのとき、窓の外の校庭にいる沙門くんと、ぱちりと視線が合った。こちらに向かって大きく手を振ってきた。
「あ! おーい! 一蓮さーん」
相変わらず爽やかな笑顔だなぁなんて思いながら、笑って手を振り返した途端、みんなの視線が私へと一点集中した。
「え、華、もしかして……」
「いやいや! 違う違う! ただ、私が窓の外を見てたから目が合っただけだよ!」
「あやしーい! あ、もしかして……沙門くんのほうが……?」
「いやいや! それは絶対にないよ!」
窓の外から肌をなでる冷たい風とは裏腹に、私たちの他愛のない、けれど何よりも眩しい騒がしさは、休み時間中ずっと続いていた。
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