第41話:デタラメなワルツをあなたと
※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。
神社から帰ってきた私たちは、ソファに並んで昨日のアニメの続きを見ていた。
「このナギって奴、ええやん。コータがかっこええって言うのもわかるわ」
「ふふ、ナギはシロと話し方が一緒だよね。私はニーナちゃんが好きだなぁ」
『異世界へと召喚された主人公が世界の謎を解き明かしていくSF異世界ファンタジー』をシロと一緒に見ながら、のんびり過ごす。それが、最近のちょっとした幸せだ。
「なんて言ったってあのダンスシーン! 乙女なら憧れちゃうよねぇ」
両手を頬に当てて悶えていると、シロが軍服の彼よろしく私の前で片膝をついた。まるでアニメの彼を真似するように、シロは手のひらを私へ差し出した。
「……『俺』と、一曲踊ってくれないか」
いつも自分のことを『僕』と呼ぶシロからは想像もつかない男らしい口調に、私は驚いて固まってしまった。
しびれを切らしたのか、シロは私の右手を強引に捕まえると、もう片方の手で私の腰をぐっと引き寄せる。
「わ……ちょ……えぇ!? は、恥ずかしい……!」
「ははっ! ダンス、楽しいなぁ!」
ステップなんて全然分からない。
シロの腕に包まれていると、まるでこのアニメの世界へ迷い込んだみたいに思えた。二人でクルクルと回るでたらめなワルツ。足元がふわふわと宙に浮くような感覚で、恥ずかしい以上に楽しかった。
「はは! 華も息切れてきてるし、そろそろアニメの続きでも見よか」
「……そうだね」
シロと繋いでいた手を、ゆっくりと離した。少しだけ後ろ髪を引かれる気持ちはあったけれど、私たちはまたのんびりとソファへ深く腰を下ろした。
◇
アニメの続きを見ていると、お兄ちゃんが帰ってきた。
「ただいま」
「「おかえりー」」
私とシロ、いつものように二人で揃って声を出す。
お兄ちゃんが手を洗い、台所へ向かう足音が聞こえた。
麦茶を注いだお兄ちゃんが、ふとソファに座っている私たちの方を向き、何気ない様子でこちらへ声をかけた。
「ねぇ、華、最近シロ見てないけど、喧嘩でもした? 実はさ、ソファでテレビを見ながら寛いでいるシロの耳がピコピコ動いてるのを見るのが一日の癒しなんだよね。最近見かけないからちょっと寂しいなぁ……なんて」
その言葉に、私は数秒間、思考が停止した。
――シロは、今まさに私の隣にいるし、さっきお兄ちゃんが帰ってきたときも、私と同時に「おかえり」と言ったはずなのに。
「「え!?」」
驚きすぎたシロの耳がピンと立った。
「まさか、お兄ちゃん……シロのこと、見えてない……?」
「え? シロ? どこに?」
「……うそ」
まさにお兄ちゃんが言っていた通り、ソファで寛いでいた彼と私は同時に顔を見合わせる。
シロは《《ここ》》にいる。私の隣に座っている。お兄ちゃんの問いかけに、私たちは言葉を失った。お兄ちゃんの目には、本当にシロが映っていないようだ。
「あ、そろそろ大学の課題やんなきゃ。シロが帰ってきたらまた教えて」
お兄ちゃんは、私の方をちらりと見て力なく笑い、麦茶を持って自分の部屋へと上がっていった。階段を上る足音が遠ざかるのを待って、私はソファに座るシロに向き直る。
「シロ……お兄ちゃん、シロのこと見えてなかった……よね?」
「伊吹にも僕が見えてないってことは、ニチゲツが言うてたことはホンマみたいやな……」
神格が低くなってしまった今も、私が彼の存在を『認識』できているのは、守護霊だからだ。お兄ちゃんには見えない。
――これは、ただ他人の目から見えない、それだけのことなのだろうか。
ニチゲツさんの言葉が引っかかる。けれど私たちはまだ、神格が低くなるということの本当の意味を、理解していなかった。
お読みいただきありがとうございます。このお話の続きを楽しみにしてくださる方は、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。どうぞよろしくお願いします!




