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一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか
第二章

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第34話:”かま”ってほしくて”いた”ずらし”ち”ゃう②

「ありゃりゃ。華のドジっ子もついにここまできちゃったか」


 昨日に引き続き、今日も校門をくぐった途端、派手に転んでしまった。幸か不幸か、昨日貼ってもらった大きな絆創膏が、私の膝を守ってくれた。今日はウキウキもしていないし、どちらかというとかなり警戒して、ゆっくり歩いていたはずなのに……。


 三葉に手を引っ張られて立たせてもらうと、彼女は「あ!」と何かを思い出したように手を叩いた。


「今日のお昼休み、クラブの集会があるんだった!ご飯、先に食べててね」


「うん、わかった」


 三葉へ返事を返し、私たちが教室へ向かいかけた、その時だった。


「きゃっ!」


 私たちのすぐ後ろで、短い悲鳴が上がる。反射的に二人で振り返る。


「ありゃ、あの子も……」


 三葉が呟いた視線の先に、まさに私が転んだその場所で、別の女生徒が転んでいた。それも、制服のスカートが捲れ上がるような、《《さっきの私と全く同じ》》、派手な恰好で。


「大丈夫?」


「うん、でも膝から血が出ちゃった……」


 駆け寄った彼女の友達の会話を背中で聞きながら、私は奇妙な胸騒ぎを覚えつつ、教室へ向かった。



 お昼休みだというのに珍しく、華がふらふらと校門の前にやってきた。僕は華を待つ為に隠れていた木から飛び降り、声をかける。


「華、何しとるん」


「あ、シロ。……私、昨日も今日も、ここでこけちゃったじゃない?」


 なにもない地面を指さしながら、華は続けた。


「他の子も何人か同じ場所で転んでるみたいで、何かあるんじゃないかって気になって」


 華が言い終わるか終わらないかのところで、僕の目の端を何か茶色くて丸いものがコロコロ転がっていくのが見えた。僕はそれに向かって走り出し、さっと手を伸ばして、茶色い物体をガシッと掴み取った。


「え?え?シロ?」


「……なんやこれ。毛玉……か?」


 見たこともない茶色いふわふわの物体を上から下から眺めていると、そのうち、この茶色い物体はもぞもぞと動き出した。


「やめて、やめてぇ!」


 僕の手の中で、まん丸い茶色い毛玉が、短い手足をバタつかせながら情けない声で叫んだ。


「ふ、ふわふわぁあああ~~~~~~!! かわいい! イタチだ! 小さい頃、図鑑で見たことある!」


 毛玉が動き出した途端に目をハートにした華が、ものすごい勢いでこちらへにじり寄ってきた。


(イタチなのに丸くてふわふわでずんぐりむっくり! つぶらなおめめはくりくりでウルウルだ! 手も足も小さくって、ちょんと乗った爪がかわいい!! 肉球は! ちっちゃな肉球はどんな感触なんだろう!?)


 ……という華の心の声が聞こえてくるようや。これは、ちょっと面白くないわ。


「ちょーっと待ったぁ! バイキン持っとるかもしれんし、触ったらあかん!」


 イタチへと無防備に伸ばしてきた華の手を避けるように躱す。華に届かないように、頭上へと高く持ち上げたイタチ。こんな毛玉に目を輝かせるなんて……正直、いい気はしない。


 すると、持ち上げられたイタチが大粒の涙を流し、べそをかきはじめた。


「うわあぁん! 今、僕ちんしかいないんだよぉ。切る奴と治す奴がいないんだよぉ。これじゃぁ鎌鼬カマイタチっていえないよぅ……!」


 鎌鼬カマイタチといえば、人を転ばせて、切って傷つけ、薬を塗るという、なんとも迷惑な妖怪だ。傷口は開くが血が出ないという不思議な傷跡をもたらす。


 どうやらこの毛玉は校門前で丸まって転がり回っていたせいで、生徒たちが次々と躓いていたらしい。華に怪我をさせた張本人がこいつだったと気づいた瞬間、無性に癪に障った。


「僕ちんは立派な鎌鼬カマイタチの転ばし屋なんだよぅ! ……でも、仲間がいないから転ばせることしかできないんだよぅ」


 手の上でポロポロと涙を流すイタチを見て、華が今にも一緒に泣き出しそうに僕を見上げてきた。


「華……?こんな汚い色の奴、ほっといたら……」


「イタチちゃん、かわいそうだよ……シロ……」


一人と一匹から、ウルウルと煌めく瞳を同時に向けられ、僕は完全に言葉に詰まる。


「……っ、分かったわ! とりあえず、茶色いのんはここ! 僕の半径30cmから離れんな! ……華の側に近づくのは絶対に! 許さんからな!」


 予鈴がなり、華は後ろ髪を引かれるように教室へと戻っていった。


 ホンマ、何なんや。この茶色い毛玉は。

 苛立ちを抑えつつ、じたばたしている毛玉を地面に放り投げ、冷ややかに見下ろした。


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