第33話:”かま”ってほしくて”いた”ずらし”ち”ゃう①
私の後ろ、遥か彼方。
他の人に見られないよう、曲がり角や木の上へ隠れながら歩くシロの影をチラチラと感じる。
そんな忍者のように隠れている彼のことは多少気になるけれど、昨日も楽しかったし今日もいい日になりそう。そんなことを考えながら、私は鼻歌交じりに校門を通り抜けた。
その時。
突然、何かに足を取られたようにつまづいて、制服のスカートが捲れるくらい派手にずっこけた。……スカートの下に短パンを履いておいて本当に良かった。
「わー! 華! 大丈夫!? 膝から血が垂れてるよ! ちーちゃん先生のとこ、行こう!」
三葉に手を引っ張ってもらって立ち上がる。正直、膝の擦り傷よりもなによりも、ここまでの派手なこけ方は恥ずかしい。それでも本当に膝から血が垂れてきているので、とりあえず保健室へと急ぐ。
シロがすぐ横の木の上から、ハラハラした顔でこちらを覗いているのが視界に入った。
(だ・い・じょ・う・ぶ!ほ・け・ん・し・つ・い・く・か・ら!)
私は声を出さずに口をパクパクさせてシロへと伝える。
立ち上がり、何気なく、チラリと自分が転んだ後ろを振り返ってみた。けれど、そこには大きな石も、地面の窪みも、つまづくような何かはなかった
◇
三葉に付いてきてもらって保健室へ行くと、先客が五人ほどいて、いつになく混雑していた。
「おはようございます!ちーちゃん先生!今日は大盛況だねぇ」
「おはようございます、方波見さん。今朝は怪我かな?……あら、一蓮さんは今日も怪我しちゃった?」
忙しそうにバタバタと消毒液を持っている保健医のちーちゃん先生が私達へ声をかけてくれた。
「いえ、三葉は大丈夫です。怪我をしたのは私だけで……」
「そうです!華はいつも通りの怪我!今日は膝です! 私は元気です!」
「ふふ。そっかそっか、それじゃあ、少し待っていてね」
怪我ばかりの私にも、三葉の元気な挨拶にも、ちーちゃん先生は変わらずニコニコと微笑んでくれる。彼女の人柄のおかげで、保健室全体にはいつも柔らかな空気が流れていた。
保健室の丸い椅子に腰かけて、治療の順番を待つ。
よく見ると、並んで待っている生徒たちは、みんな私と同じように膝を擦りむいていた。たまに手の平も、擦りむいている子もいるけど、みんな怪我の仕方が一緒……に見える。
「校門のところでコケちゃったの」
「華と一緒だねぇ。あの辺り、石とか凹みとか、何かつまづくものがあるのかなぁ? 先生に言ってみようか」
手当ての終わった子が、膝にある大きな絆創膏をさすりながら、三葉とそんな話をしている。
(……おかしいな。さっき後ろを振り返った時、つまづくようなものは何もなかったのに)
私が転んで怪我をするのは、いつものことだ。でも、今日はどうして他の子まで、私とまったく同じように転んでいるんだろう。どこか違和感を覚えつつも、自分の番になったので、私はちーちゃん先生の前の椅子へと座る。
消毒液をつけた綿球を持って、ちーちゃん先生が私へと微笑む。
「はーい、スカートを少し上げて……ちょんちょん! はい! 絆創膏を貼って、もう大丈夫よ」
「ありがとうございます。ちーちゃん先生」
「ふふ、皆でお揃いになっちゃったわねぇ。気を付けてね」
ちーちゃん先生の朗らかな笑顔に見送られ、私達は教室へと向かった。




