第26話:花嫁の階段
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今日は一蓮寺をはじめ、この地域の皆が一体となって実りを祝う、秋の例祭。
お寺のみんなも朝からバタバタと、このお祭りの準備をしている。
「お祭りってさ、お参りや出店も楽しいけど、やっぱり準備が一番ワクワクするよね!あ、華!こっちの紐の端、持って!」
「うん!……あれ?ちょっと短いかも?」
お祭りに浮かれている私と三葉も地域の方に混ざって、お寺の提灯や法被を出したり、荷物を運ぶお手伝いをしていた。
「あ、いたいた!華!」
おじいちゃんが酷く焦った声をあげ、草履が脱げそうなくらい慌てて、私に駆け寄ってきた。
「華。すまないが、今年の『お練り』の花嫁役をお願いできるか」
おじいちゃんの話を聞けば、今年のお練り行列の花嫁役を務めるはずだった娘さんが、急な病気で来られなくなってしまったらしい。
「急病なら仕方ないよ。いいよ、おじいちゃん。私で良ければ代わりにやるよ」
「わぁ! 華が花嫁役!? 絶対に綺麗だよ! 私、華と一緒に歩くね!すっごく楽しみ!」
隣で聞いていた三葉が、パッと顔を輝かせ、笑顔で背中を押してくれた。
三葉の明るさに少しだけ緊張がほぐれるのを感じながら、私は急いで着付け師さんの待つ部屋へと向かった。
その部屋には、大きな姿見という鏡が置かれ、着付けに必要な様々な道具が今か今かと出番を待つように並べられていた。
「あぁ、よかった!華ちゃんね? 来られなくなった子と同じくらいの背格好で良かった!今日はよろしくね!」
着付け師さんと髪結いさんが、にこやかな笑顔で迎えてくれた。
まずは髪を結ってもらう。
本来の花嫁なら文金高島田という優雅な高さを出したシルエットにするらしいのだけれど、今回は急な代役ということもあって、私の地毛を活かしてお祭り用に手早く結い上げてくれることになった。
「華ちゃん、茶色の綺麗な髪ね。しっかりお手入れされていて、素敵な女性になる事、間違いなしね!」
髪結いさんの褒め言葉に、私はこそばゆいような気分で小さく笑う。照れくさいけれど、嬉しかった。自慢じゃないけれど、このさらさらの手触りを維持することには、なかなかの情熱を懸けているのだから。
スッスッと櫛が通るたび、シロが不器用な指先で髪を梳いてくれたあの感覚を思い出す。胸の奥が少し熱くなり、私はその温もりを閉じ込めるように、そっと目を伏せた。
髪が整うと、次はいよいよ花嫁さんの衣装、白無垢の着付けだ。
白足袋に足を通し、肌着を身に纏っていく。肌襦袢、そして長襦袢に袖を通す。
「背筋を伸ばして。……そう、いいですよ」
着慣れない和装に、知らず知らずのうちに腰が引けていたようだ。
お腹にタオルをいくつも重ねられ、身体の凹凸が平らにならされていく。
掛下を羽織り、紐と帯がぐっと締め上げられる。私の背筋が強制的にぴんと正されると共に、心が凛と張り詰めていく。
純白の打掛を羽織ると、衣はふわりと広がり、重なり合った裾が畳の上に流れるような美しい円を描いた。その一瞬を淀みのない手つきで、着付け師さんが丁寧に整えてゆく。
「この美しい広がりが、プロの技の見せ所なんです」
ほほと上品に笑う着付け師さんは、手際よく小物を私の胸元に差し込んでくれた。
「はい、これが筥迫ね。昔の化粧ポーチのようなもの。それから護身用のお守り刀である懐剣に、末広の扇子。どれもおめでたい意味が込められているのよ」
そして、結い上げられた髪の仕上げへと移る。
「角隠しを被せますね。少し俯いて……」
言われるままに頭を下げ、厳かな白い布が被せられるのをじっと待った。
「まぁ!素敵!」
頭を上げると、着付け師さんと髪結いさんが口々に可愛いと言ってくれた。
私は、目の前の大きな鏡に映った自分を見る。
――この姿を見て、彼は何と言うだろう。
誰か分からないくらい白一色に染まった私は、今までの『華』でなくなった気がした。
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