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一蓮華《いちれんはな》は溺愛白狐《シロ》に守られている  作者: 猫邑 ゆか
第一章

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第24話:さぁ、気合を入れろ

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 僕は朝日が昇る前から、カスイとニチゲツに呼び出されていた。


「朝、早すぎるわ……」


「何を言っている!今日は一年で最も大事な日なのだぞ!」


 あくびを噛み殺しながら呟くと、すぐさまニチゲツに言い返された。


 二人に作務衣を剥ぎ取られ、上半身を裸にされる。耳の毛先から目の中、犬歯の鋭さ、爪の伸び具合、腹の筋肉、はては尻尾の毛のボリュームに至るまで、全身くまなく、それこそ穴が開くほどじろじろと検分された。


「シロは、ようなったかァ」


 全身のチェックが終わった頃、イナリがしゃなりと現れた。

 上から下まで舐めるようにじっくりと眺められる。


「フム……その顔、その身体……。見るに、とりあえずはるくらい、格があがったようやなァ。長い髪の艶もようなった。やァやァ、間に合うて良かった良かった。我らが主祭神しゅさいじんへの祝いの席やのに、今年は適当な奴がおらんで、困っとったのよォ」


 ニヤァと笑うイナリに、メロメロになっているニチゲツ。

 この光景に呆れつつ、僕はここに来たときから疑問に思っていた問いを投げかけた。


「……それで、僕に何をさせたいんや?」


「子狐はまだ変化へんげできんし、我らはみな忙しい。さァ、ええ服着て、ええとこ行こかァ。……ニチゲツ、カスイ、着替えさせェ」


イナリの言葉と同時に、控えていたニチゲツとカスイが、僕の目の前へとずいっと手を伸ばしてきた。



「シロ、気合いをいれろ」


 カスイから言われたその言葉は、狐の象徴である耳と尻尾を消せということだった。これが非常に難しく、大抵の白狐が出来るようになるにはかなりの日数が必要らしい。この狐の象徴を消すのは、骨の折れる作業だった。グッと力を込めすぎると尻尾が戻るし、ふっと緩めれば耳が飛び出す。


 格闘すること三十分。

 そろそろ限界だと白目を剥きかけたその時。


「おぉ! 出来たではないか!」


 ニチゲツの弾んだ声にハッとして自分の体を触ると、耳があった頭の上は真っ平らになり、お尻の後ろにも何もない。


 耳と尻尾が無くなり、まるで人間のような姿になった。

 ……尻尾がなくなったお尻が、ものすごくスースーする。

 

 それから、ニチゲツとカスイの手によって、僕はされるがままになっていた。


 足袋に足を通し、少し冷たい肌襦袢を身に纏う。あれよあれよという間に腹を紐で固定され、袴を履いた後、帯をぐるりと回される。普段、身軽な作務衣ばかりを着ている僕には、この重厚な布の感触は少しばかり重く感じられる。けれど、帯をきゅっと締め上げられると同時に不思議と、背筋が自然と伸びるのを感じた。


 カスイが羽織の袖を通してくれ、ニチゲツが慣れた手つきで羽織紐を結んでくれた。最後に髪を一つに結わえ、整え終えると、二人は一歩下がって僕を見つめた。


「フン、孫にも衣装というやつだな。我らの努力の賜物だ」


 腕を組み、強がった言葉を放ったニチゲツと至極満足そうなカスイ。

 よく見ると、ニチゲツの目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「……普通にかっこええって言うてくれたらええのに」


 僕は苦笑しながら、最後に面を手に取った。

 真っ白な狐の目元は紅に染まっている。

 イナリによく似た狐面だ。

 面を被ると、視界が少し狭まり、世界から一歩引いたような不思議な感覚に陥った。


「狐が狐面付けるなんておっかしー!」「おっかしー!」


 足元ではいつの間にかやってきた二匹の子狐が、面白がって僕の周りをくるくると回っている。


「よう、似合うとるよォ。終わったらお駄賃やろうなァ。――さて、そろそろはじまるわァ」


 イナリの合図に大きく深く呼吸をする。


 紋付袴に狐面。慣れない装いに戸惑いつつも、僕は神社の境内へと歩を進めた。

 砂利を踏む足音がいつもより厳かに響く。


 美しく履かれた参道や、磨き上げられた長い石段を一段ずつ踏みしめ、降りた先で待ち構える人力車へと乗り込んだ。

 

 面の下、僕はどんな顔をしているのだろうか。


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