第21話:整理整頓は心のお掃除
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僕は、先ほどから使っているバケツを持ち、中の汚れた水を綺麗な水へと交換しようと境内に足を運んでいた。
境内へ入ると、ニチゲツが手水屋の側で、大きな声で数人の白狐に指示を出しているところだった。
「掃くは白。汚れを掃き出し、本来の白さを取り戻すのだ。例祭までに!」
新しい水を入れている最中、こちらに気が付いたニチゲツがツカツカと近寄ってきた。
「お前、石段の進捗はどんなものだ。後、どのくらいで終わる」
「どのくらい……って言われても、果てしなさすぎてわからんけど……」
「フン……時間が押しているんだ。早うやってくれよ」
長い髪をかきあげながら悪態をつく彼に、僕はバケツを抱え直しながら、ふと気になっていたことを尋ねた。
「……ここの狐の姿って、人に近いモンや狐に近いモン、色々おるけど、なんで?……僕も一応、人の形に近いやん? なんでかなって思って」
「普通は長い修行を経て神格が高まる程に、我らのようにヒトの形を維持できるようになるものなのだ。お前がヒトの形に近いのは、そこそこに格が高まった守護霊だったからであろうな。子狐らはまだまだ修行の身で格が低いために、全くヒトの形にはなれないのだ。神格というものは妖にとって、己自身の力でもある。……あの子らにも、もっと精進させねば」
ニチゲツは腕を組み、うんうんと深く頷く。
「そういえば、他の白狐が、耳と尻尾を消すのが一番難しいって、言っとったな」
「そうだ。最後の難関は耳と尻尾を消すことだ。腹にグッと力を入れて消す者もいれば、自然体で消す者もいる。こればっかりは、自分で良い方法を見つけるしかないのだ」
妖の形について納得したところで、もう一つ、疑問に思ったことを聞いてみた。
「あと……ここの神社、毛の色が白の狐しか見てない気がするねんけど」
「そうだ。イナリ様の袂には白狐しかお仕えできないのだ」
ニチゲツはすっと遠い目をし、何故か恍惚とした表情を浮かべた。それから一瞬、慈しむように目を閉じたかと思えば、次の瞬間にはその目をカッと見開き、こちらへ向き直り、一気に捲し立ててきた。
「……圧倒的な美しさを誇るイナリ様のお傍に居るのは、洗練された、塵一つない真白の毛並みこそが最良で絶対!考えてもみろ、あの眩いばかりの美しい純白に、汚泥にまみれたような茶色や、どんよりとした曇り空のようにくすんだ灰色、そんな俗っぽい雑色がほんの僅かでも混ざってみろ。それはもはや神に対する冒涜、美の破壊以外の何物でもない!偉大なイナリ様を彩るモブが薄汚い色彩である事は、このニチゲツ、ぜっっったいに! 万が一にも! 許すわけにはいかんのだ! ……だから私は血眼になって境内の狐たちの毛色を一本残らず厳格に選別し、徹底的に管理し、イナリ様への彩りとしておるのだ!」
「……なんや、ただのニチゲツの趣味か」
息を吸うのも忘れたような早口で、拳を握りしめながら熱弁を振るうニチゲツ。
一気に冷めてしまった僕は、あきれた顔のまま、新しく汲んだ水の入ったバケツを持ってその場を後にした。
途中チラリと振り返ってみたが、まだ何か一人で悶えているようだった。
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