第16話:麗しすぎる我が君
ピンと立った耳、絹のように滑らかな毛。
美しさの権化のような、麗しの御方。
御簾の奥で、その御身に宿る強大な神力を振るう、果てなき忙しさに、憂いを含んだ声で嘆いておいでだ。
「アァ、今年はなんと忙しない……」
独り言であろう主の言葉にお答えした。
「猫の手も借りたいくらい、でございますね」
「猫やなんて……嫌やァ……」
心底嫌そうに扇子を構え、溜息をつきながら何か仰るその仕草すらも、たまらなく絵になる。私はその美しさに足先から耳の先まで身震いした。
そこへ、二匹の子狐が騒がしく駆けてきた。
「イナリさま、イナリさま!最近少しばかり神格が上がったキツネがいるとか!」
「いるとか!」
「そうかァ、ええことやねェ。少し視てみようなァ」
御簾をさらりと上げ、さらさらと歩み、優雅な手つきで大鏡の布を取られた。
私はそれを受け取り、腕にしっかりと抱え、横に直る。
二匹の子狐を従えて、イナリ様が大鏡をじぃっと覗き込まれる。
すると、その滑らかな表面に徐々に景色が浮かび上がってきた。
素晴らしい我が主、偉大なイナリ様が持つ神鏡の力である。
私はそのお姿を、固唾をのんで見守った。
「アァ、真白の長い髪に金眼。ぴったりやないかァ。このイナリのキツネに、欲しいなァ……」
ニィッと口と目を吊り上げて、楽しそうに笑っていらっしゃる。
あぁ、麗しや。美という言葉は、まさに我が主、イナリ様の為にあるものだ。




