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千日の雨を越えて、あなたの声だけが響いていた〜私がすべてを捧げた彼は、時空を越えて私を守る最強の盾でした〜  作者: 萩雨 柊


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第7話 エレベーターホールと生々しい渇望(九条視点)前篇

エレベーターの扉が開き、彼女が姿を現した瞬間。僕の時間は止まった。


白い肌と、長い睫毛に縁取られた深く澄んだ美しい瞳が僕を見上げてふわりと綻ぶ。画面越しではない、本物の彼女だ。


「……やっと、会えましたね」


努めて紳士的に微笑みかけたが、内心はひどく不器用な焦りで満ちていた。


一緒に仕事をし始めてから二年。彼女に「会いたい」という気持ちは日を増して強くなり、この抑えきれない衝動をどう伝えていいか分からず、PCの交換という仕事の絶対的な力技を使って、彼女をここへ呼び寄せていた。


オフィスに案内し、誰の目にも触れさせたくないという小さな独占欲から、小さな会議室を選んだ。


パソコンの設定を手伝うという名目で、彼女から質問されるたび、僕はたまらず席を立ち、彼女の隣に立って小さな画面を一緒に覗き込むふりをして顔を近づけた。

ふいに顔を向けた彼女の綺麗でさらさらとした髪が視界に入り、思わずそっと指先で触れたくなる衝動に駆られた。


ぐっと手を握りしめて理性を保ちながら、少しでも長くその存在や香りをそばで感じていたくて、わざと彼女の耳元に口を寄せて低く囁いた。


「これで大丈夫です。……分かりますか?」

「あっ、はい……」


僕の声に反応して彼女の肩が微かに震え、色気を含んだ吐息が漏れる。それだけで、僕の下腹部が重く熱を帯びるのが分かった。


時計の針がお昼を回ったのを口実に、僕たちはオフィスを抜け出した。


「午前中、水瀬さんとのランチでどこに行こうか考えていて。調べていたら、ここのパスタが評判良さそうなんです」


少しでも彼女に喜んでもらいたくて、何日も前から調べておいた評判のイタリアンへ案内した。


12月の冷たい風の中、ヒールを履いた彼女の足元に注意を払いながら、歩幅を合わせてゆっくりと歩く。 ただ隣を歩くだけで、まるで本物の恋人同士になれたような気がして胸が躍った。


お店に着くと、人気店ゆえに外で少し並ばせてしまったこと、そして店内が狭く騒がしかったことが悔やまれたが、僕は彼女をエスコートし、奥の席へと座らせた。


向かい合い、彼女の口から語られる日常の話を聞く時間は、幸せな時間だった。


仕事中の彼女は隙のない聡明な女性だからこそ、飼っているペットの犬と亀の仲良しなエピソードなど、ほのぼのとした素朴な日常の話をしてくれたことが、僕も手が届く存在な気がして嬉しかった。


ふと、彼女の真っ直ぐな視線が僕の顔に向けられていることに気づいた。

僕の顔を観察するように、じっくりと見つめ返してくるその潤んだ瞳に、心臓が大きく跳ねる。


やがて運ばれてきたパスタを彼女が食べる姿を見つめる。


一口食べ、少し顔をしかめた瞬間、すかさず「大丈夫ですか? 自分のと交換しましょうか?」と提案していた。


辛さのせいで唇がみるみるうちに熱を帯び、艶やかに赤く色づいていく様から目が離せなくなっていた。

刺激を和らげようと舌先でそっと唇を舐める艶かしい仕草や、グラスの水を飲み込む時の細い喉の動きに、僕の理性は静かに狂わされていく。


無邪気に笑う彼女の表情と、食事の熱で微かに汗ばんだ白い首筋。

今すぐ彼女のその赤い唇を僕の舌で塞いでしまいたい。


そんな彼女に触れてしまえば、すべてが壊れてしまうのではないかという、身を焼き尽くすような衝動を必死に押し隠していた。


会計時、「水瀬さんの分も払わせてもらえませんか」と不器用にお願いし、店を出た直後。

店員からもらったというお口直しのガムを渡そうと、彼女が僕を呼び止めるため、そっと僕の腕に触れた。

ほんの微かな接触。だが、その瞬間、全身に電気が走り、触れられた部分がカッと熱を帯びる。動揺を悟られないよう、表情を取り繕うのに必死だった。


オフィスに戻り、彼女が「ここで業務終わりまで仕事をしていいか」と尋ねてきた時、僕は迷わず午後の予定をすべてキャンセルした。


再び二人きりになった会議室で、ふっと一息ついた時のこと。


「あの、水が買いたいんですけど……自販機はありますか?」


「じゃあ、買いに行きましょうか」


彼女が言うので、並んでフロアの自販機まで案内する。いざ買おうとした時、彼女は小銭入れを会議室に置いてきてしまったことに気がついて慌てていた。


「あ……すみません、小銭が……」


「いいですよ。何がいいですか?」


「……では、お水をお願いします」


彼女の冷たいペットボトルと自分の飲み物を買い、手渡す。

暖房の効いた少し乾燥したオフィスの中で、彼女がペットボトルの蓋を開け、無防備に上を向いて水を飲んだその一瞬。


伸びた白い首筋。僅かに開いた艶やかな唇。少し強調された豊かな胸のライン。


そんな無防備な姿から、僕は目を逸らすことができなかった。

無意識に彼女の全身の輪郭を視線で追ってしまっていた。

オフィスという理性的な空間で、ただの「雄」としての強烈な欲情が僕を支配していた。


あわよくば、このあと夕食にも誘えないだろうか。


そんな淡い期待を抱きながら、ビジネスライクな口調で「終わりの時間を設定しましょう」と提案した。

しかし、彼女の口から返ってきたのは「夫と一緒に帰る約束があるから、六時過ぎには出たい」という、僕が一番直視したくなかった現実だった。


「分かりました」


短くそう返したものの、浮かれていた心に、冷水を浴びせられたような敗北感。 「夫」という、彼女を一番近くで支える資格のある存在。

その事実に胸の奥が鋭く痛むが、僕は、彼女がその人と幸せでいることを願わなければならないと自分に言い聞かせていた。

僕の手の届かない場所で、彼女が笑っていてくれるのなら、それでいい——そう自分に言い聞かせる端から、独占欲がその誓いを内側から食い破ろうとする。


平静を装って、僕はプロジェクトの議論を再開した。


狭い机を挟んで白熱する議論の中、僕が投げる抽象的で未完成な思考の断片を、彼女は瞬時に拾い上げ、完璧な論理の結晶へと再構築していく。

その常人離れした高度な情報処理能力と、一切の淀みがない聡明さ。


彼女の知性が鮮やかに冴え渡る瞬間を見るたび、僕はどうしようもなく惹きつけられ、その圧倒的な魅力にひれ伏したいような衝動に駆られた。


話題が他部署との連携という厄介な問題について移っていった時。


「ああもう、本当にいや……」


理不尽な状況に限界がきたのか、彼女がふっと肩の力を抜き、無防備に机に深く身を沈めて突っ伏し、小さい声で弱音をこぼしたのだ。

普段の完璧な彼女からは想像もつかない、子どものような素直な姿。


「そうだよね。……ごめんね」


僕がそう優しく労うと、次の瞬間には、はっと顔を上げて何事もなかったかのように仕事の顔に戻っている。

そのギャップがあまりにも可愛くて、僕はたまらずふっと笑い声を漏らしてしまった。


その一挙手一投足が愛おしくて、僕は彼女からもう一秒たりとも目が離せなくなっていた。

次はどんな表情を見せてくれるのだろう。

完璧な仕事の顔と、時折見せる可愛らしい少女のような素の顔。


冷静を装って仕事の話を続けている彼女だが、僕に見つめ返してくるその瞳の奥には、隠しきれない動揺と、熱が現れていた。


僕は全神経を集中させて彼女を観察し、彼女のすべてを記憶の中に刻み込もうとしていた。


六時という明確なタイムリミットが設定された後、僕たちはまるで磁石に吸い寄せられるように、互いの瞳から視線を外せなくなっていた。

いつも応援ありがとうございます。萩雨はぎさめ しゅうです。


続きは本日22時頃に更新予定です。

引き続き、彼がひた隠しにする濃密な感情の行方にお付き合いください。

(もし「彼視点も良かった!」「二人の幸せを見守りたい」と思っていただけましたら、ページ下部からの評価やブックマークで応援していただけると、日々の執筆の大きな励みになります!)

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